18 / 24
18
しおりを挟む
「伯爵夫人からよ、こちらを着て、晩餐に出席する様にと…」
晩餐用に、夫人からシンプルで上品なドレスが届けられた。
ドレスを運んで来たメイドは、無表情でいるが、不思議に思っているだろう。
探る様な目で見られたが、自分から言う訳にもいかず、気付かない振りをした。
「ありがとうございます、承知致しました」
届けられたドレスは、寸法は少し違うが、着られない程ではなかった。
時間があれば、自分で直す事も出来るが、今日の所は凌げれば良い。
わたしはドレスに着替え、簡単に髪を結うと、ミゲルの着替えを手伝った。
ドレス姿のわたしに、ミゲルは目をキラキラとさせ、「ロザリーン!すごくきれい!」とはしゃいでいた。
晩餐が始まる頃には、わたしと伯爵の結婚は、使用人たちの間にも知れ渡った様で、
メイドから給仕を受ける際も、然程気まずくはならなかった。
わたしは晩餐など久しぶりで、緊張していたが、
伯爵も夫人もわたしの失敗を指摘する事はせず、逆に、それとなくフォローしてくれていた。
「そう緊張する事は無いよ、私たちだけだからね」
「その内なれますよ、毎日の事ですからね」
「ロザリーン!ぼく、ちゃんとできてるでしょ?」
「ええ、上手だわ、わたしにも教えてね、ミゲル」
「うん!」
話も伯爵と夫人が中心となり、晩餐は和やかに終わった。
わたしがいつも通り、ミゲルを部屋に送ろうとすると、伯爵が「私も行こう」と付いて来た。
ミゲルは喜び、伯爵の手を取った。
それから、わたしに手を差し出した。
「ロザリーン、にぎって!」
伯爵を伺う様に見ると、頷いたので、わたしはその手を握った。
ミゲルは満足そうに、「うふふ!」と笑った。
三人で歩きながら、わたしも笑っていただろう…
ミゲルを寝かしつけた伯爵は、戸口でわたしを振り返り、言ってくれた。
「ロザリーン、急にこんな事になり、君も戸惑っているだろう、
だけど、あまり気を張る必要はない、普段の君で十分だよ」
そして、そっと、わたしの頬にキスをし、去って行った。
わたしは息をするのも忘れ、ぼうっと、その後ろ姿を見つめ、立ち尽くしていた。
◇◇
「おめでとうございます、ロザリーン様」
わたしは急に、《ロザリーン様》と呼ばれる様になり、落ち着かなかった。
だが、祝福の言葉には、「ありがとうございます」と丁寧に返した。
受け入れられた事がうれしかった。
勿論、全ての使用人たちが受け入れた訳ではない。
「最初からおかしいと思っていたのよ…」
「平民の娘なのに、図々しい」
「子供に好かれているだけで、旦那様と結婚出来るなんて!ズルイ!」
「旦那様はどうして、あんな娘を…」
「きっと、しつこく迫ったのよ!」
「あんな人、奥様なんて呼べないわ…」
陰口を聞くと、ガッカリしたが、わたしは『仕方の無い事…』と自分を励ました。
使用人にとって、わたしは『伯爵が連れ帰った、得体の知れない、ミゲルの世話人』だ。
それが、主人と結婚するとなれば、複雑だろう。
わたしだって…
立場が違えば、妬むかもしれないし、きっと、仕えたいとは思えないだろう。
わたしはなるべく耳に入れない様にしていたが、それでは済まなかった様だ。
「何人かが、旦那様に迫ったそうよ!」と、メアリから聞かされた時には、わたしは穏やかではいられなかった。
「迫った…?」
ザワザワと胸の中が波立っている。
不安に覆われるわたしとは違い、メアリはあっけらかんとしていた。
「あの人たち、自分たちの方が、ロザリーンよりも上だと思ってるのかしら?
身の程知らず過ぎて、呆れるわよね!
旦那様は当然、相手にせず、袖にしたそうよ!可哀想っ!」
それを聞いて、安堵したが、続きがあった。
「それで、何人か、辞めて行ったわ」
「辞めた…?」
「ロザリーンの所為じゃないわよ、
元々、スティーブン様から声を掛けられていたみたいでね、自慢してたし、鞍替えしたって事!」
スティーブン様…
最後に会った時の事を思い出すと、良い受け入れ先とは思えなかった。
彼なら、使用人に平気で手を付けそうだ。
「大丈夫かしら…」
「本人が決めた事だもの、満足してるわよ」
メアリはあっさりと言い、「それじゃ、仕事に戻るわね!」と去って行った。
◇◇
わたしは《伯爵の婚約者》という立場になった為、
メイド服の代わりに、伯爵夫人から頂いたドレスやワンピースを、着る事になった。
寸法は合わなかったが、縫物は得意なので、時間を見ては直した。
翌週になると、町から仕立て屋が呼ばれ、新しいドレスが作られる事になった。
結婚式、披露パーティ用のドレスも作るというのに…
わたしは、伯爵家か破産しないか心配になった。
「結婚式、披露パーティのドレスも要りますし、この上、新しいドレスまでは…」
わたしは恐縮したが、夫人はキッパリと退けた。
「どれも必要な物よ、結婚後、あなたには次期伯爵夫人として振る舞って貰います。
お客様を迎えるのに、伯爵家の品位を落とす装いでは困りますからね___」
わたしは《ミゲルの母》の意識はあったが、《次期伯爵夫人》の事は考えていなかった。
というのも、わたしは十四歳までしか、家庭教師を付けて貰っていない為、学業には自信が無い。
地頭が賢い訳でもない。
得意な事は、縫物、料理、床磨き…どれも使用人の仕事だ。
そんなわたしを、「次期伯爵夫人に!」など、誰が考えるだろう?
だが、夫人にはその気があった様だ。
わたしは、ミゲルの家庭教師の時間には、夫人の部屋に行き、教育を受ける事になった。
夫人から教えて貰う事もあるし、夫人の友人が呼ばれ、教えてくれる事もあった。
わたしは期待に応えようと、兎に角、精一杯頑張る事にした。
そうしている間にも、結婚式の話は進んでいた。
式は町の礼拝堂で、身内だけで行う事にし、
その一月後に、親族、友人たちを呼び、披露パーティを行う事になった。
わたしには呼べる者がいないし、パーティは気後れがし、乗り気では無かったが、
伯爵と夫人には、付き合い上、披露パーティを開く必要があった。
結婚式、披露パーティも、計画や手配は全て、伯爵と夫人が行い、
わたしは時々、意見を求められるだけだった。
結婚式に着るドレス、披露パーティで着るドレスは、ミゲルと一緒に選んだ。
ミゲルは服に興味があるらしく、目をキラキラとさせ、デザイン画を見ていた。
「ロザリーンには、これ!ふわふわのドレス!」
「でも、派手じゃないかしら…」
見た事もない、大きく広がったスカートのデザイン画に、わたしは気後れした。
だが、ミゲルは「ぜったいにこれ!」と譲らない。
わたしは「伯爵と伯爵夫人が良いと言ったらね」とその場を濁した。
ミゲルが寝静まってから、わたしは伯爵にドレスのデザイン画を見せた。
「ミゲルはこのドレスが良いと言うのですが…」
「ああ、似合いそうだね、君は気に入らないのかい?」
「あまりに豪華で、気後れします…」
触れるのも恐ろしいわ…
だが、これは言わなくて良かった。
伯爵が笑ったからだ。
「笑ってすまなかったね、君を見ていると安心するよ。
前妻は美しいものに対して、異常な程、執着と拘りが強かったんだ。
その所為か、他の事に興味が持てなかった…」
伯爵は前妻の事を話してくれた。
ミゲルに興味を持たなかった事も…
そんな妻に、愛情が消えてしまった事も…
わたしは伯爵夫人から聞いていたので、知っていた事ではあったが、
彼の口から聞くと、一層、現実として胸に迫ってきた。
彼を慰めてあげたい…
だけど、どうしたらいいの…?
ミゲルの様に、抱きしめて、「大丈夫!」と言ってあげたい。
だけど、伯爵がそれを望む筈はない…
少なくとも、《わたし》では無理だ。
「私は、ミゲルがジョセリンに似る事を恐れている。
冷たく、自分以外の者を愛せなければ、不幸になるだろう…
だが、残念ながら、ミゲルは衣装に興味があるらしい…」
伯爵は苦笑し、頭を振った。
「確かに、ミゲルは衣装に興味がある様ですし、
それは、ミゲルの持って生まれた才だと…」
「それでは君は、ミゲルがあの女の様になると言うのか?」
ギラリと目が光り、わたしはゾクリとした。
「いいえ、ミゲルの持つ資質は、母親だけのものではありませんもの。
瞳の色、優しさ、感受性の豊さ、賢さも…伯爵に似ておいでです。
それに、ミゲルが他の者を愛せる事は、伯爵も良くご存じの筈です」
伯爵は、「はー」と息を吐いた。
そして、そのダークブロンドの髪を掻き上げた。
その仕草にドキリとしたが、
幸い、伯爵は他の事で頭が一杯で、気付かなかった様だ。
「君の言う通りだ、全く、息子の事となると、私は何も見えなくなる。
自分が馬鹿になった気分だよ…」
伯爵が子供の様に見え、わたしは小さく笑ってしまった。
伯爵がこちらを恨みがましく見る。
「笑ってしまって、すみません…
素敵なお父様で、羨ましいわ…」
わたしの父は、わたしの事で、自分を見失ったりしない。
そんな風に愛してくれた事が、一度でもあっただろうか?
母が生きていた時ですら、演技の様に思えてきた。
「ミゲルは母親に愛されず、君は父親か…
誰もが恵まれている訳ではないな、私で良ければ、君の父になろう。
君の良き夫であり、父であり、友人に___」
涙が溢れた。
うれしい気持ちと、ほんの少しの、痛みを持って…
晩餐用に、夫人からシンプルで上品なドレスが届けられた。
ドレスを運んで来たメイドは、無表情でいるが、不思議に思っているだろう。
探る様な目で見られたが、自分から言う訳にもいかず、気付かない振りをした。
「ありがとうございます、承知致しました」
届けられたドレスは、寸法は少し違うが、着られない程ではなかった。
時間があれば、自分で直す事も出来るが、今日の所は凌げれば良い。
わたしはドレスに着替え、簡単に髪を結うと、ミゲルの着替えを手伝った。
ドレス姿のわたしに、ミゲルは目をキラキラとさせ、「ロザリーン!すごくきれい!」とはしゃいでいた。
晩餐が始まる頃には、わたしと伯爵の結婚は、使用人たちの間にも知れ渡った様で、
メイドから給仕を受ける際も、然程気まずくはならなかった。
わたしは晩餐など久しぶりで、緊張していたが、
伯爵も夫人もわたしの失敗を指摘する事はせず、逆に、それとなくフォローしてくれていた。
「そう緊張する事は無いよ、私たちだけだからね」
「その内なれますよ、毎日の事ですからね」
「ロザリーン!ぼく、ちゃんとできてるでしょ?」
「ええ、上手だわ、わたしにも教えてね、ミゲル」
「うん!」
話も伯爵と夫人が中心となり、晩餐は和やかに終わった。
わたしがいつも通り、ミゲルを部屋に送ろうとすると、伯爵が「私も行こう」と付いて来た。
ミゲルは喜び、伯爵の手を取った。
それから、わたしに手を差し出した。
「ロザリーン、にぎって!」
伯爵を伺う様に見ると、頷いたので、わたしはその手を握った。
ミゲルは満足そうに、「うふふ!」と笑った。
三人で歩きながら、わたしも笑っていただろう…
ミゲルを寝かしつけた伯爵は、戸口でわたしを振り返り、言ってくれた。
「ロザリーン、急にこんな事になり、君も戸惑っているだろう、
だけど、あまり気を張る必要はない、普段の君で十分だよ」
そして、そっと、わたしの頬にキスをし、去って行った。
わたしは息をするのも忘れ、ぼうっと、その後ろ姿を見つめ、立ち尽くしていた。
◇◇
「おめでとうございます、ロザリーン様」
わたしは急に、《ロザリーン様》と呼ばれる様になり、落ち着かなかった。
だが、祝福の言葉には、「ありがとうございます」と丁寧に返した。
受け入れられた事がうれしかった。
勿論、全ての使用人たちが受け入れた訳ではない。
「最初からおかしいと思っていたのよ…」
「平民の娘なのに、図々しい」
「子供に好かれているだけで、旦那様と結婚出来るなんて!ズルイ!」
「旦那様はどうして、あんな娘を…」
「きっと、しつこく迫ったのよ!」
「あんな人、奥様なんて呼べないわ…」
陰口を聞くと、ガッカリしたが、わたしは『仕方の無い事…』と自分を励ました。
使用人にとって、わたしは『伯爵が連れ帰った、得体の知れない、ミゲルの世話人』だ。
それが、主人と結婚するとなれば、複雑だろう。
わたしだって…
立場が違えば、妬むかもしれないし、きっと、仕えたいとは思えないだろう。
わたしはなるべく耳に入れない様にしていたが、それでは済まなかった様だ。
「何人かが、旦那様に迫ったそうよ!」と、メアリから聞かされた時には、わたしは穏やかではいられなかった。
「迫った…?」
ザワザワと胸の中が波立っている。
不安に覆われるわたしとは違い、メアリはあっけらかんとしていた。
「あの人たち、自分たちの方が、ロザリーンよりも上だと思ってるのかしら?
身の程知らず過ぎて、呆れるわよね!
旦那様は当然、相手にせず、袖にしたそうよ!可哀想っ!」
それを聞いて、安堵したが、続きがあった。
「それで、何人か、辞めて行ったわ」
「辞めた…?」
「ロザリーンの所為じゃないわよ、
元々、スティーブン様から声を掛けられていたみたいでね、自慢してたし、鞍替えしたって事!」
スティーブン様…
最後に会った時の事を思い出すと、良い受け入れ先とは思えなかった。
彼なら、使用人に平気で手を付けそうだ。
「大丈夫かしら…」
「本人が決めた事だもの、満足してるわよ」
メアリはあっさりと言い、「それじゃ、仕事に戻るわね!」と去って行った。
◇◇
わたしは《伯爵の婚約者》という立場になった為、
メイド服の代わりに、伯爵夫人から頂いたドレスやワンピースを、着る事になった。
寸法は合わなかったが、縫物は得意なので、時間を見ては直した。
翌週になると、町から仕立て屋が呼ばれ、新しいドレスが作られる事になった。
結婚式、披露パーティ用のドレスも作るというのに…
わたしは、伯爵家か破産しないか心配になった。
「結婚式、披露パーティのドレスも要りますし、この上、新しいドレスまでは…」
わたしは恐縮したが、夫人はキッパリと退けた。
「どれも必要な物よ、結婚後、あなたには次期伯爵夫人として振る舞って貰います。
お客様を迎えるのに、伯爵家の品位を落とす装いでは困りますからね___」
わたしは《ミゲルの母》の意識はあったが、《次期伯爵夫人》の事は考えていなかった。
というのも、わたしは十四歳までしか、家庭教師を付けて貰っていない為、学業には自信が無い。
地頭が賢い訳でもない。
得意な事は、縫物、料理、床磨き…どれも使用人の仕事だ。
そんなわたしを、「次期伯爵夫人に!」など、誰が考えるだろう?
だが、夫人にはその気があった様だ。
わたしは、ミゲルの家庭教師の時間には、夫人の部屋に行き、教育を受ける事になった。
夫人から教えて貰う事もあるし、夫人の友人が呼ばれ、教えてくれる事もあった。
わたしは期待に応えようと、兎に角、精一杯頑張る事にした。
そうしている間にも、結婚式の話は進んでいた。
式は町の礼拝堂で、身内だけで行う事にし、
その一月後に、親族、友人たちを呼び、披露パーティを行う事になった。
わたしには呼べる者がいないし、パーティは気後れがし、乗り気では無かったが、
伯爵と夫人には、付き合い上、披露パーティを開く必要があった。
結婚式、披露パーティも、計画や手配は全て、伯爵と夫人が行い、
わたしは時々、意見を求められるだけだった。
結婚式に着るドレス、披露パーティで着るドレスは、ミゲルと一緒に選んだ。
ミゲルは服に興味があるらしく、目をキラキラとさせ、デザイン画を見ていた。
「ロザリーンには、これ!ふわふわのドレス!」
「でも、派手じゃないかしら…」
見た事もない、大きく広がったスカートのデザイン画に、わたしは気後れした。
だが、ミゲルは「ぜったいにこれ!」と譲らない。
わたしは「伯爵と伯爵夫人が良いと言ったらね」とその場を濁した。
ミゲルが寝静まってから、わたしは伯爵にドレスのデザイン画を見せた。
「ミゲルはこのドレスが良いと言うのですが…」
「ああ、似合いそうだね、君は気に入らないのかい?」
「あまりに豪華で、気後れします…」
触れるのも恐ろしいわ…
だが、これは言わなくて良かった。
伯爵が笑ったからだ。
「笑ってすまなかったね、君を見ていると安心するよ。
前妻は美しいものに対して、異常な程、執着と拘りが強かったんだ。
その所為か、他の事に興味が持てなかった…」
伯爵は前妻の事を話してくれた。
ミゲルに興味を持たなかった事も…
そんな妻に、愛情が消えてしまった事も…
わたしは伯爵夫人から聞いていたので、知っていた事ではあったが、
彼の口から聞くと、一層、現実として胸に迫ってきた。
彼を慰めてあげたい…
だけど、どうしたらいいの…?
ミゲルの様に、抱きしめて、「大丈夫!」と言ってあげたい。
だけど、伯爵がそれを望む筈はない…
少なくとも、《わたし》では無理だ。
「私は、ミゲルがジョセリンに似る事を恐れている。
冷たく、自分以外の者を愛せなければ、不幸になるだろう…
だが、残念ながら、ミゲルは衣装に興味があるらしい…」
伯爵は苦笑し、頭を振った。
「確かに、ミゲルは衣装に興味がある様ですし、
それは、ミゲルの持って生まれた才だと…」
「それでは君は、ミゲルがあの女の様になると言うのか?」
ギラリと目が光り、わたしはゾクリとした。
「いいえ、ミゲルの持つ資質は、母親だけのものではありませんもの。
瞳の色、優しさ、感受性の豊さ、賢さも…伯爵に似ておいでです。
それに、ミゲルが他の者を愛せる事は、伯爵も良くご存じの筈です」
伯爵は、「はー」と息を吐いた。
そして、そのダークブロンドの髪を掻き上げた。
その仕草にドキリとしたが、
幸い、伯爵は他の事で頭が一杯で、気付かなかった様だ。
「君の言う通りだ、全く、息子の事となると、私は何も見えなくなる。
自分が馬鹿になった気分だよ…」
伯爵が子供の様に見え、わたしは小さく笑ってしまった。
伯爵がこちらを恨みがましく見る。
「笑ってしまって、すみません…
素敵なお父様で、羨ましいわ…」
わたしの父は、わたしの事で、自分を見失ったりしない。
そんな風に愛してくれた事が、一度でもあっただろうか?
母が生きていた時ですら、演技の様に思えてきた。
「ミゲルは母親に愛されず、君は父親か…
誰もが恵まれている訳ではないな、私で良ければ、君の父になろう。
君の良き夫であり、父であり、友人に___」
涙が溢れた。
うれしい気持ちと、ほんの少しの、痛みを持って…
44
お気に入りに追加
618
あなたにおすすめの小説
【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない
天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。
だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
“用済み”捨てられ子持ち令嬢は、隣国でオルゴールカフェを始めました
古森きり
恋愛
産後の肥立が悪いのに、ワンオペ育児で過労死したら異世界に転生していた!
トイニェスティン侯爵令嬢として生まれたアンジェリカは、十五歳で『神の子』と呼ばれる『天性スキル』を持つ特別な赤子を処女受胎する。
しかし、召喚されてきた勇者や聖女に息子の『天性スキル』を略奪され、「用済み」として国外追放されてしまう。
行き倒れも覚悟した時、アンジェリカを救ったのは母国と敵対関係の魔人族オーガの夫婦。
彼らの薦めでオルゴール職人で人間族のルイと仮初の夫婦として一緒に暮らすことになる。
不安なことがいっぱいあるけど、母として必ず我が子を、今度こそ立派に育てて見せます!
ノベルアップ+とアルファポリス、小説家になろう、カクヨムに掲載しています。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる