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魔法学園二年生
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しおりを挟むわたしは、ダニエルらが向かうのとは、逆方向へ行く事にした。
進んで行くと、わたしの前にも魔獣が現れた。
それは、大きな動物で、二足で立ち上がり、わたしを威嚇してきた。
ガーーー!!
ゴーーー!!
「きゃーー!!」
わたしは走って逃げようかと思ったが、寸前で思い止まる。
逃げていては、サマンサ小母様に申し訳無いわ!!
《簡単な魔法でも、使う者の魔力が大きければ、効果は大きい》
わたしは魔獣に手を向け、集中して魔力を込め、炎の魔法を放った。
それは魔獣の中心を貫き、そして、体を包み燃えた。
「や、やったわ…!」
自分でも、その威力に驚いた。
考えてみれば、練習でしか使った事が無く、それも一年生の時に習って以来だった。
魔獣が消え、その跡には黒い魔石が残った。
それは、蛇の時に貰った物とは比べようもなく大きい。
「うわぁ!凄いわ!」わたしはそれを袋に入れ、鞄に仕舞った。
わたしは順調に、小さな魔獣や大き目の魔獣を倒し、魔石を集めて行った。
オーロラたちと合流するのは、終了の時間ギリギリまで待つ事にした。
「うわーー!!」
「キャーーー!!」
悲鳴が聞こえて来て、わたしはギクリとした。
耳を済ませ、見当を付け、向かった。
着いた先では、調度魔獣が倒された所だった。
「ほっ」とするも、男子生徒が二人倒れている、怪我をした様だ。
「ヤバかったな、死ぬかと思ったよ…」
「だから、呪文を使おうって言ったのよ!」
「いいだろ!おまえは何もしてねーんだし!」
「仕方ないでしょ!私は頭脳派なんだから!」
「ちっ、役に立たない女が…」
「なんですって!?」
男子生徒と言い争っていたのはマデリーンで、わたしは咄嗟に呼んでいた。
「マデリーン!」
マデリーンが振り返り、その茶色の目を丸くした。
「エバ!?あなた、こんな所で何してるのよ!?」
「それが、グループと逸れてしまって…」
「ええ!?大丈夫なの!?オーロラ様たちのグループでしょ?
私たちは出会って無いのよね…」
話していた処、男子生徒が喚いた。
「遊んでねーで、これ、どうにかしろよ!怪我してるんだ!」
倒れていた二人の生徒は、足に裂傷があり、
他の生徒は腕に火傷を負っているみたいだ。
相当手強い魔獣だったのだと分かり、ぞっとした。
「私にどうにか出来るわけ無いでしょう!
マイルズに言いなさいよ、薬を持って来てるでしょう?」
マデリーンは苛々している様だ、いや、グループ全員苛立っている。
マイルズは魔法薬学で一緒の生徒だが、彼は怒った様に叫んだ。
「そんな、万能薬があるわけ無いだろう!少し位の怪我は想定してたけど、
ここまで酷いのは薬じゃ無理だ!先生を呼ぼう…」
怪我人が出れば、自分たちで処置をするか、
手に負えなければ、教師を呼び、動けない生徒は退場となる。
それは当然だが、皆は答えるのを避けた。
「あの、わたし、少しでしたら薬を持っていますので…
力になれるかもしれませんが…」
わたしは申し出たが、やはりマイルズは良い顔をしなかった。
「他のグループの生徒に手を借りれば、減点になるかもしれないだろ!」
「でも、先生を呼ばないのでしたら、彼らが危険ですわ…」
痛みに汗を流し、歯を食いしばっている姿は、とても見ていられなかった。
「先生を呼ぶか、エバに処置して貰うか、怪我をしている本人たちに決めて
貰いましょうよ、減点されるのは彼らよ、どっちがいいの?」
マデリーンが聞くと、彼らは痛みに耐えながら、わたしを見た。
「エバに処置して貰いましょう、いいわね?」
マデリーンが残りの生徒に聞くと、皆黙って頷いたが、
マイルズだけは顔を背けた。
わたしは酷い裂傷を負った生徒の側に座ると、患部を見た。
鞄から薬のケースを取り出し、その中から見合った物を選んだ。
栓を開け、スポイトでそれを取ると、1、2滴、患部に落とした。
すると、みるみる、裂傷が塞がっていった。
もう一人の方も、同様に処置する。
傷が塞がると、わたしは飲料水で患部と血を洗い流し、布に塗り薬を塗り、
傷痕に当て、包帯を巻いた。
「いかがですか?痛み止めの効果もありますので、大丈夫だと思います。
傷痕は残るかもしれないので、後で医務室で治療して貰って下さい」
「本当だ、痛みが無くなった…」
「血も止まってるぞ!」
生徒は立ち上がり、足の動きを確認していた。
「エバ、あなたって本当に凄いわ!ありがとう!これで、脱落者を出さずに
済むわね!あなたたちも、火傷を見て貰ったら?」
マデリーンが言い、生徒たちは顔を見合わせていたが、
やはり、減点が嫌だと、処置を断った。
それはまだ良いが、「いい気になるなよ!」と、マイルズに忌々し気に言われ、
わたしは気持ちが落ちてしまった。
「気にする事無いわ、思った通りに魔獣が倒せなくて、皆苛立ってるのよ!
今だって、私たちのレベルじゃ無理だって言ったのに、無理するから…」
マデリーンは辟易している様だった。
「あの、彼女は回復魔法を使えるのでは?」
わたしは回復魔法の授業で一緒の生徒をみつけ、マデリーンに聞いてみた。
マデリーンは頷く。
「そうなんだけど、前の戦いの後、回復魔法を掛けて貰ってから、
魔力不足になっちゃって…ほら、この人数だしね…
まずは、彼女に回復して貰わないとね…」
「そうですか」と、わたしは頷いた。
彼女に回復魔法を掛けてあげたいが、
きっと、「減点になるから」と断られるだろう。
…わたしが勝手に掛ける分は、いいだろうか?
わたしが自分に掛けるのは、自由ですものね…
わたしはそれに気付いた。
こんなギスギスした雰囲気では、マデリーンも可哀想だ。
気付かれない様に…少しだけ…
わたしは広範囲に、神経を和らげる回復魔法を掛けた。
「エバ、グループと合流出来るまで、一緒に行く?あなた独りじゃ危ないわ」
マデリーンは誘ってくれたが、わたしはマイルズとの事もあり、断った。
「ありがとうございます、マデリーン、でも、独りで大丈夫です!
いざとなれば魔笛もありますから!」
わたしは笑顔を作り、マデリーンたちと別れた。
その後はまた独りで、小さな魔獣や大き目の魔獣を倒していたが、
巨大な魔獣に行く手を塞がれた。流石に無理だと思い、逃げようとしたが、
それより先に、魔獣は口を大きく開くと、炎を吹いて来た。
わたしは咄嗟に壁に張り付き、マントで身を覆った。
マントは炎を通さず、わたしは無事だったが、避けた時にぶつかった壁が、
仕掛け部屋への入り口だった様で、わたしは部屋に転がり込んでしまった。
「ああああ…、折角ここまで避けて来ましたのに…」
魔獣からは逃げられたものの、またもや頭脳戦だと思うと、一気に疲れて
しまった。だが、魔石を手に入れられれば、魔獣が居る場所とは別の出口から、出られるだろう。
「どうか、難しい仕掛けではありませんように…」
わたしは祈りつつ、中央の台座を見た。台座には、大剣が刺さっている。
「これを抜くのでしょうか?」
わたしは柄を掴み、引き抜こうとしたが、当然、ビクともしなかった。
「はい、当然、仕掛けになっているのですよね…」
わたしは肩を落とし、それを探した。
台座をくまなく探し、大剣を隅々まで調べたが、手掛かりになるような物が
見つからない。
「こんな時は、少し休憩をしましょう…」
わたしは台座を背にし、座り込むと、鞄からサマンサのキャンディーを
取り出した。甘い物は頭に良いと、マデリーンも言っていた。
「何か、浮かびますように!」
わたしはそれを口に入れ、舐める。
甘くて美味しい…
何も浮かびはしなかったが、少し元気が出て来た。
「もう一つの、お守りを…」
わたしは銀貨を取り出すと、それを天に翳して眺めた。
「ノアシエル様、水の騎士様、サマンサ小母様…ウィリアム様…」
思いを馳せるだけで、力が漲ってくるみたいだった。
「あら?」
わたしはそれに気付いた。
天井に絵が描かれている。
それは、太陽が光を放つ絵だった。
「そういえば、古い逸話の中に、剣を抜く話があったわ…」
わたしは以前読んだ、剣に纏わる逸話を思い出した。
それはサマンサが贈ってくれた本に書かれていた。
『入学前に読んでおくといいでしょう』と贈ってくれたのだ___
ある国の王は酷い暴君だった。
ある時国王は、その地に昔からある、岩に突き刺さった大剣を欲しがった。
臣下たちが抜こうとしたが、どうやっても抜けず…
国王は『大剣を抜いた者の望みを何でも叶えてやる』と約束した。
国王に虐げられていた民は、それぞれに望みがあった。
ある者は明日の食糧を望み、ある者は職を望み、
ある者は不当に牢に入れられた父親を解き放って貰おうとし、
ある者は税を軽くして貰おうとし、ある者は国王に奪われた土地を返して貰おうと…
だが、誰が試しても大剣は抜けなかった。
そこに一人の旅人が通り掛かり、意図も簡単に大剣を引き抜いた。
国王は喜び、旅人に願いを聞く、旅人は『この大剣を貰う』と言った。
怒った国王は、旅人をその大剣で斬り捨てた。
そうして大剣を手に入れた国王だったが、毎夜、幽霊となった旅人が現れるようになり、恐れた国王は遂には狂い死んだのだった。
すると、幽霊だった旅人は、美しい男の姿に変貌し、飛び立ち、
朝の太陽へと吸い込まれていった…
大剣は太陽神を呼ぶ物だったのでは…
大剣は再び岩に突き立てられ、大切に語り継がれていった___
「太陽…」
「太陽神の剣…」
「でも、ここでは太陽はありませんし…」
「火?若しくは光を当てろ…という事でしょうか?」
わたしは浮かんだ事を試してみる事にした。
剣身に向け、光を集中させ当てた。
光に輝くが、何も起こらない。
「それでは…火を!」
わたしは火の魔法を剣に浴びせた。
すると、炎の中で剣身は黄金に輝き…
台座からスルリと抜け、転がり落ちた。
ガシャン!!カランカラン…
「ああ!」
わたしは慌てて剣を拾い上げた。
だが、その柄頭に付いていた赤い宝石は外れてしまい、足元に転がった。
壊してしまったと青くなったが、手に取り、それが魔石であると知った。
「これだったのね!」
わたしはそれを袋に仕舞い、剣を逸話に従い、台座に戻した。
すると、壁の一部が音を立てて開いた。
「出口だわ!!」
わたしは部屋から出られ、「ほっ」とした。
出てみると、その周囲は少し明るかった。
近くに誰か、グループが居るのかもしれない。
だが、物音は聞こえない…
不思議に思い、わたしはその光を目指し、歩いた。
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