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魔法学園二年生
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しおりを挟む◆オーロラ《エバ》◆
何もかも上手くいかない___
わたしは苛立ちのあまり、爪を噛む。
あの憎たらしいシャーロットは、気付けばエバとつるむ様になっていた。
エバは、ウィリアム王子の婚約者であるオーロラの家の使用人だった事が、
学園中に知られ、そんなエバと共に居るシャーロットがどう見られるか…
つまり、シャーロットはエバを通して、幾らでも好きに、ウィリアムに告げ口が
出来る様になったのだ。
その事に、今までシャーロットを苛めていた令嬢たちは、恐れをなし、
なし崩し的に手を引いてしまった。
全く、何て根性の無い小者ばかりなの!
でも、令嬢なんて、結局そんなものね。
自分たちより強い者には、絶対服従、それが貴族にある『暗黙の掟』だ。
それで、わたしは唯一だった、楽しみをも奪われた。
それに、シャーロットの事は、ウィリアムも然程興味は持っていない様に見え、
途中で興味を失ってしまった。
首席という点では忌々しいが、学年末の試験で思い知らせてやればいいと
思っていた。
それよりも、エバの存在の方が邪魔だった。
『ウィリアム王子の婚約者である、オーロラの家の使用人だった』
そんな肩書きを持った彼女は、事ある事に噂になった。
それも、良い方でだ。
実習で怪我をした生徒の応急処置をしたとか、
学園パーティでも、「ダンスが上手い」と評判になった。
「妖精が踊っているかの様だ」、「学園パーティに舞い降りた妖精」と…
本来の主役であるわたしへの賛美は、申し訳程度で、皆が彼女を褒め千切っていた。
だが、ウィリアムと踊る様に仕向けたのは、他でもないわたしだ。
わたしはダンスがそれ程得意では無い、ダンスを習った事がほとんど無い上、
馬鹿馬鹿しく思え、好きでは無かった。
ウィリアムと踊りたくは無かったが、立場上、踊らない訳にもいかなかった。
案の定、ウィリアムは最初こそ礼儀正しかったが、途中から強引なリードを
見せた、あの男はわたしを好きに振り回し…わたしを『人形』にしたのだ!!
このわたしを!!
その事で、無性に苛立っていて、ウィリアムと彼女を困らせてやりたかった。
だが、あれは失敗だった。わたしは失念していたのだ、
あの馬鹿で鈍い女が、ダンスだけは得意だという事を!
周囲も何かにつけ、エバの事を「流石、公爵家の使用人!」と言って周る。
全く腹立たしい!!
エバがそう呼ばれる度に、わたしはエバだった時の事を思い出し、悔しさに歯噛みした。
公爵家の小間使いがどんな扱いをされるかも知らない癖に!
自分に酷い仕打ちをしたモラレス家を、賛美する者たちが憎い!
彼女の活躍や、噂が耳に入る度に、わたしは苛立ち、それを解消する為に、
令嬢、令息たちと茶会を開くようになった。
令嬢、令息たちは、いついかなる時も、わたしを褒め千切った。
格下だからその様にしなければならないと知りつつも、そう出来る自分に、
酔いしれるのだ。わたしの中の支配欲が満たされていくのを感じた。
気付けば、茶会は頻繁に行われる様になっていた___
そうした結果、わたしは気付けば、成績を落としていた。
これでは、シャーロットを見返す所では無い!
『エバ』が悪いのよ!
あの女がわたしを苛立たせるから!!
彼女の所為で、わたしは勉強に集中出来なかったのよ!!
本来なら、わたしが首席になる筈だったのに___
そう思う一方で、わたしには一つ、懸念があった。
魔力量の測定値が、入学時よりも、下がっていた。
実は、自分でも、それと気付いていた。
14歳の時に彼女と入れ換わった時から、魔力量が下降し始めている。
自分でも感じる位なのだから、それは相当量だ。
このままでは、彼女に追い抜かれる___!
その危機を目の当りにしたのは、彼女の成績表を見た時だった。
彼女の魔力量は、かなり増えていた。
成績も悪いものでも平均以上で、得意科目に至っては上位だ。
わたしは焦った。
だが、どうする事も出来無い。
もし、魔力量を越されたら、彼女に入れ換わられるかもしれない___!
そうなったら、今度はわたしが復讐される番だ…
また、あの日々に戻る。
虐げられ、人格を奪われる。
嫌だ!わたしはもう、二度と、誰にも支配なんかされない!!
彼女を消すのよ。
彼女が力を得る前に、彼女を消せば、わたしはわたしで居られる!!
「ああ、調度良い催しがあるわ…」
それは、Aクラス、Bクラス、合同での模擬実践の実習。
廃墟の洞窟を使い、一日掛かりで行われる実習だ。
「ふふ、彼女の墓場にはお似合いね___」
◆◆◆
◇◇◇
Aクラス、Bクラス、合同で、模擬実践授業が行われる事になった。
早朝より、学園が保有する今は廃墟になった洞窟に転移し、
魔獣を討伐し、魔石を収集する。
洞窟にいるのは、本物の魔獣では無く、魔石で作られた偽の魔獣で、
危険な場合や倒せない時は、ある呪文で魔獣は消える。
但し、これを使った場合は減点対象となる。
他の生徒を傷付けたり、他のグループの魔石を盗むのも減点対象だ。
魔石の重量と減点等、計算の上、順位が決まる。上位二組には加点が
与えられ、これは学年末の試験の総合点数に加点される。
本物の魔獣では無いとはいえ、洞窟内には危険を伴う場合もある、
命の危険を感じた時には、魔笛で教師を呼べるのだが、
それをすると、途中退場となる。
今回の実習では、自分たちの持てる魔法は使っても良い事になっている。
わたしであれば、回復魔法や魔法薬だ。
それもあり、グループ分けには難航した。
「おい、エバ!俺たちのグループに来いよ!俺の剣捌きを見せてやっから!
絶対一位になれるぜ!」
Bクラスにはダニエルも居て、彼はわたしに一緒のグループに入る様
煩く言ってきたが、わたしは頑として断った。
「わたし、女子生徒が一人も居ないグループには入りたくありませんわ。
それに、乱暴な方は苦手ですの」
ダニエルは舌打ちし、机を蹴り付け、周囲の生徒を怖がらせていた。
わたしはシャーロットやマデリーンと一緒のグループが良かったが、
わたしとシャーロットでは、回復魔法で重複するので、
彼女と組む事は出来無かった。
何処のグループに入れて貰おうか…
早くしなければ、ダニエルの誘いを断れなくなるという危機感に焦っていた処、
思い掛けず、オーロラから声を掛けられた。
「エバ、わたしたちのグループへ来て頂けるかしら?」
ダニエルかオーロラか…
どちらも問題はあったが、暴力的ではないオーロラの方が良い気がした。
それに、彼女の強制力には、逆らえない。
「はい、喜んで、オーロラ様…」
結局、シャーロットは他のグループに呼ばれ、マデリーンも別のグループに
呼ばれ、三人共にバラバラになった。
偽の魔獣とはいえ、わたしには不安があった。
わたしに使える攻撃魔法は本当に基礎的なものばかりなのだ。
「回復魔法なら得意なのだけど…」
わたしたちのグループでは、オーロラは攻撃魔法が得意だし、
他の三人もかなり魔法や剣の腕に自信がある様で、
オーロラに挙ってアピールをしていた。
グループの生徒たちに頼っていいものか…わたしは気が重かった。
悶々としたまま、寮に帰ると、
サマンサから大きな荷物と小包が届いていた。
何だろうと不思議に思い、まずは大きな荷物を開いた。
そこには、フード付きマント、短剣、ブーツが入っていた。
同封されたメモには、新学期のお祝いの言葉と、勉強に励むよう、
そして、友達と仲良く、また近況を聞かせてね…と書かれ、続けて…
《送った物は、模擬実習の装備に使いなさい》
《模擬実習を甘く見てはいけませんよ》
《短剣で怪我をしないように、しっかり習っておくのよ》
まるで見ていたかの様なタイミングに、わたしは驚いた。
サマンサも魔法学園に通ったから、実習を覚えていたのだろう。
サマンサは学園パーティの時も、ドレスを用意してくれた。
そして、今回も、自分を心配し、送ってくれたのだと思うと、
その深い愛情と心遣いに、感謝で胸がいっぱいになった。
「ああ!サマンサ小母様!大好きよ!」
小包の方は、色彩り豊かなキャンディーと、銀貨だった。
その銀貨は一般的に使われる物では無く、初めて見るものだった。
かなりの年代物で、変色も見える。
表裏には、それぞれ、騎士と竜の姿が彫られていて、脇に小さな文字で
何か文字が刻まれていたが、古く朽ちていて読めなかった。
だが、わたしにはそれが、ノアシエルと水の騎士だと直ぐに分かった。
同封されたメモ書きには…
《勇気と知恵と力を》
《簡単な魔法でも、使う者の魔力が大きければ、効果は大きい》
《覚えておいて、エバ》
わたしは攻撃魔法は基本的なものしか知らない、
技術不足を魔力量で補うようにという、アドバイスだ。
今まで胸にあった不安が、スッと消えていくのが分かった。
自分でも、何か出来そうだと思えて来た。
「わたし、頑張りますわ!サマンサ小母様!」
サマンサに、胸を張って報告が出来る様に___
このサマンサの言葉と、
白竜ノアシエルと水の騎士の銀貨。
銀貨を見ていると、ウィリアムが連れて行ってくれ、語ってくれた…
あの場所、あの時が蘇る。
わたしには、何よりも心強いお守りだ___
「本当に、何でもお見通しなのね、サマンサ小母様は…」
わたしの自慢の名付け親だ。
いや、『エバ』の、というべきだろう…
わたしは銀貨を固く握りしめた。
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