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魔法学園二年生

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新学期、クラス分けが掲示板に貼り出された。
わたしとマデリーンはAクラスになり、シャーロットと三人で喜び合った。


「ああ!Aクラスなんて緊張するわ!」

マデリーンは朝からずっと緊張し通しだった。
教室に入り、椅子に座ってもまだ背筋を伸ばしている。

シャーロットは全く普段通りで、「それじゃ、また後でね!」と手を振り、
スカートを翻し走って行くと、窓際の一番前の席、首席の席に座った。
わたしは十二番なので、二列目の廊下側だ。

教室がざわざわっとしたかと思うと、オーロラが教室に現れた。
豊かな金髪の巻き毛、紫の瞳、白い肌…少し顎を上げ、無表情で歩いて
来る姿は、超絶した雰囲気があり、何処からともなく感嘆の声が上がった。

「いつ見ても、オーロラ様は美しいな…」
「流石、王子の婚約者だな…」
「公爵令嬢なんか超えて、女王の風格があるよ…」
「才色兼備、オーロラ様が学園一だな」

賛美される中、オーロラは無表情のまま、自分の席に向かう。
驚く事に、オーロラは順位を下げており、彼女が座ったのは9番の席だった。
わたしはなるべく、彼女の方を見ない様にした。
だが、学園中が、わたしが元、オーロラの家で雇われていた事を知っている。

「主人と使用人が同じクラスってさー…」
「良かったじゃん、仲良いんだろ」
「オーロラ様は使用人にも優しいだろうなー」

変な期待を掛けられ、生徒たちからチラチラと見られ、
わたしは困惑し、気付かないフリをした。

休み時間になり、オーロラがわたしの席に来た。
わたしが椅子から立ち上がると、彼女は薄く微笑を浮かべ、言った。

「エバ、あなたと同じクラスになれてうれしいわ、仲良くして下さいね」
「は、はい、オーロラ様…」

わたしが控えめに答えると、オーロラは頷き、席に戻って行った。
周囲の男子生徒は「流石、オーロラ様!」「使用人にもお優しい!」と
盛り上がっていた。

わたしだけだろう、彼女が何を考えているか分からず、怯えている者は。





オーロラは基本、独りで居る。
その周囲を男子生徒たちが囲み、ちやほやしている図を良く見る。
彼らは恋愛対象というよりも、オーロラに心酔し、崇拝している様子だった。
そもそも、王子という婚約者がいるのだから、手を出そうという愚か者はいない。

そして、オーロラは男子生徒たちに囲まれる中、無表情で、問われた事に
言葉少なく答えるか、時折微笑を見せる程度だった。
それが男子生徒たちには、神秘的に見えている様だ。

「美しい…神々しい…」
「聖女様がいるなら、オーロラ様の様な方だろう」


午前の授業が終わり、オーロラは席を立った。
上流階級の生徒たちは、食堂よりも豪華なカフェで食事を取る者が多く、
オーロラもその一人だった。

わたしはシャーロットとマデリーンと一緒に教室を出て、食堂に向かった。
だが、途中、運悪くダニエルに待ち伏せされていた。

「おい!エバ!何で村に帰って来なかったんだよ!待ってたんだぜ!」
「寮に残りたかったのです」
「いきなり、Aクラスとか、おまえ、何かやったんじゃねーの?」
「!?」

あまりの言われように、わたしは愕然としたが、彼はそれを誤解し受け取った。

「やっぱりか!おまえ、昔から悪知恵働くヤツだったからなー!
なぁ、俺にも教えろよ!俺もAクラスにしてくれよ」

「変な事、言わないで下さい!わたしは不正なんてしていませんわ!」

わたしは言ったが、ダニエルは全く信じようとはしなかった。

「CクラスがAクラスに上がるなんて、何かしてなきゃ無理だろ、
誰も信じねーって!」

ダニエルの声は大きい、周囲の生徒たちがわたしたちを振り返って行く。
わたしはあまりに悔しく、恥ずかしいのもあり、怒りに震えた。
その分口が回らなくなったが、わたしには二人の頼りになる友がいた___

「聞いていれば失礼ですよ!あなた!」
「そうよ!エバは不正なんかしていないわ!薬学での事知らないの?」
「エバは凄い才能を持っているのよ!」
「教師も生徒も認めてるわ!成績が上がって当然でしょう!」
「碌に知りもしない癖に、変な言い掛かりを付け無いでよね!」
「いい加減、エバに絡むのは止めなさい!みっともない!」

二人はわたしを守る様に、わたしの両腕に自分の腕を絡ませると、
颯爽と歩き出した。
これにはダニエルも敵わなかった様で、その場で悪態を吐いていた。


「ああ、嫌だ!本当にしつこい男ね!」

マデリーンが毛虫でも見たかの様に顔を顰め、吐き捨てた。

「あんな幼馴染みを持って、エバに同情するわ…」
「ただの幼馴染みって訳でも無いんでしょう?」

シャーロットに言われ、わたしは嘆息した。

「あの方、勝手に、わたしを結婚相手に決めていますの…」
「エバは断ってるんでしょう?」
「はい、でも、話を聞かないのです、両親に了解を取られたらと思うと…」
「それは恐怖ね…」
「両親は断れないの?」
「分かりません…」

一度も会った事も無い人たちだ。
それに、手紙も届いた事が無い。
わたし自身、ボロが出無い様、手紙を書いていないのもあり、
全く知らない人たちなのだ。

「でも、ご両親は王宮の官僚になるのを勧めていたわよね?」

去年、マデリーンにそんな言い訳をし、選択授業を選ぶのを
手伝って貰った事を思い出した。嘘なんか吐くものではない。

「なら、断ってくれるわよ!元気出して!」

全く根拠にならなかったが、わたしは二人に合わせ、笑って見せた。





放課後、オーロラに声を掛けられ、二人で図書室へ向かった。
その道中で、オーロラが小声で言ってきた。

「あんたと同じクラスなんて本当に最低よ!吐き気がするわ!
来年度は絶対にAクラスなんかなるんじゃないわよ!」

「はい…オーロラ様」

とても、元に戻して欲しいと言える状況では無いと感じ、
わたしは項垂れて答えた。

「仕方ないから、今年だけは、あんたに付き合ってあげるわよ。
わたしを見掛けたら、笑顔で挨拶して来なさい!
そして、何か気の利いた事を言ってわたしを褒めるのよ!
わたしのイメージを崩す様な事を言ったら、許さないから!いいわね!」

彼女にキツク言われ、わたしの喉はキュっと締まった。

「はい、オーロラ様…」

「その陰気臭い顔を止めなさいって言ってんのよ!」

ギロリと睨まれ、わたしは思わず足を止めた。
怯えた顔になっていたらしく、オーロラは急に笑みを浮かべ、
わたしの頬に手を添えた。

「可愛いエバ、あなたと友達になれてうれしいわ」

その目は笑っていないが、わたしは必死に笑みを見せた。

「わたしもです、オーロラ様…」


◇◇


わたしは彼女に言われた通り、オーロラが教室に入って来ると、
席を立ち、彼女の元へ走った。そして、笑顔を作り、礼儀正しく挨拶をする。

「オーロラ様!おはようございます」
「エバ、おはよう」
「オーロラ様、今日も素敵ですわ…」
「ありがとう、エバ」

端から見れば、仲の良い友達同士に見え、男子生徒たちは喜んだ。

「いいな~、麗しい令嬢の友情!」
「あの子も一応、男爵令嬢だろ?」
「ただの男爵令嬢じゃねーって!」
「公爵家で雇われてたんだから、やっぱ、品があるよなー」

オーロラが席に着くのが合図の様に、わたしは席へ戻った。

シャーロットとマデリーンは、最初は不思議がっていたが、
それも一週間、二週間と続けば、すっかり見慣れた様だった。

最初は、オーロラと同じ教室という事もあり、緊張していたが、
選択授業が始まると、それもかなり和らいだ。
このまま、彼女との関係は、それなりに上手く続く…と、わたしは思っていた。


わたしには、もう一つ気になっている事があった。

あれから、ウィリアムに会っていない、という事だ。

彼は「新学期、学園で」と言ってくれたが、
サマンサの屋敷で別れて以降、わたしはその姿を見てもいなかった。

元々、ウィリアムは一学年上で、王子でもあり、滅多に会う人では無い。
だから、わたしが意識しているから、そう感じるのかもしれない。

「きっと、気にし過ぎよね…」

自分で自分に言い聞かせ、励ましてみても、効果は得られず、
どうしようもなく、わたしの心は沈んだ。

もし、ウィリアム様に避けられていたら、どうしよう…
ウィリアム様は、あの時の事を気にしているのだろうか?
あの時の事を、どんな風に思っているのだろう?
そして、わたしの事を、どう思っているだろう?

もう、『友』とさえ、思って貰えないのだろうか?

そう考えると、不安と恐怖、絶望で、身が引き裂かれそうになる。

ウィリアム様に会いたい!!

だが、自分から会いに行く事など、出来る筈が無かった。
ウィリアムは、第三王子で、オーロラの婚約者なのだから___


わたしは寂しさと不安のあまり、学園パーティの時に逃げ込んだ、
薔薇園の奥へ行き、あの時と同じ様に、古い樹の幹に隠れた。

わたしは右手を握り込むと、「ふうっ」と、息を吹きかける。
ゆっくりと手を開くと、そこには小さな金色の蝶がとまっていた。
それは、翅を羽ばたかせると、空へと飛び立った。
ふわふわと、空に飛んで行く姿に、あの時のウィリアムとの思い出が蘇った。

ああ、あの頃に戻りたい___!!

二人で笑い合えた、あの時に___

金の蝶が空に消え、わたしは「すん」と鼻を啜った。


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