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魔法学園一年生

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サマンサの屋敷に行き、評価して貰った事、話を聞いた事で、
魔法薬学の授業は、今までよりも更に特別なものになった。

勿論、官僚になる為の授業が第一だが、自然、薬学には力が入った。
もっとも、魔法薬の調合では今もC判定をウロウロしているが。
それでも『向いていない』と落ち込む事は無くなった。

回復魔法の授業もわたしは好きだった。
魔法薬学や回復魔法が自分に合うなど、考えた事も無かった。
ウィリアムは何故、これ程にわたしの事が分かるのだろう?

だけど、その彼にも、わたしが『エバ』では無い、という事は分からないだろう。


◇◇


魔法薬学Ⅰの授業で、薬草採集の実習が行われる事になった。
グループに別れ、学園が所有する森林で、薬に使用出来る植物を採取する。
半日でどれだけの種類を見付けられたかをグループで競うのだ。

三人でグループを組むのだが、成績の良い生徒や仲の良い生徒たちで
集まり…わたしは親しい子もおらず、成績も下位なので、声が掛かる事は無く、空いていたグループに入れて貰った。

入れてくれたのは、ルーシー、大柄でおっとりとした女子生徒と、
ミア、小柄で細身の大きい眼鏡をした女子生徒だった。
二人共、わたしと似たタイプ、のんびり屋なので、波長が合い、直ぐに仲良くなれた。
ただ、どのグループも「自分たちが一位になるんだ!」と躍起になる中、
競争とは無縁で、「頑張りましょう~」「はい、怪我をせずに」と頷き合っている処は、少し問題かもしれない。

皆が順位に躍起になるのは、点数制だからだ。
一位のグループや、希少な植物を採取したグループには、
その度合により点数が貰え、これは学年末の試験結果にプラス加点される。


実習の日、森林の入り口で教師の説明を聞いた後、開始された。
どのグループも勢い良く走って行き、わたしたちも最初の目的地に向かい、
走り出したが、運動が苦手で体力の無いルーシーが早々にバテてしまった。

「す、すみませ~ん…」

それでも、額から汗を流し、大きい体でぜーはーと苦しそうに息をしている
ルーシーを見ると、とんでもなく気の毒になり、わたしとミアは顔を見合わせ、
「無理はせずに行きましょう」と頷いたのだった。

わたしは回復魔法Ⅰの授業を取っているし、皆も基礎的な回復魔法は習っているので、使う事も出来るが、この実習では余計な魔法を使用する事は禁じられていて、使うと減点対象だった。

わたしたちは地図を手に歩いて目的地へ向かった。
この実習は、事前にグループで勉強し作戦を練ってから行うもので、どのグループも先週から準備に余念が無かった。

わたしたちのグループは、競争が苦手という事で、あまり人気の無さそうな箇所を選んでいた。数よりも、希少品種狙いという事でもある。
三人で植物の生態を勉強し、生息していそうな場所に当りを付けていた。

図鑑と照らし合わせ、
わたしたちは岩場の陰に生息する植物を採取していく。

「ありました~!これでよろしいのですわよね?」

体力の回復したルーシーは、背が高く、高い場所にも手が届いて、
岩場では大活躍だった。

「はい、そちらで間違いないです!」
「凄いですわ!ルーシー!一度に三種類も!」


次の場所に移動したが、そこでは薬草が根こそぎ刈り取られていた。

「まぁ!酷いですわ!」
「他のグループに採らせ無い様にでしょうか~?」
「それにしても、あんまりです!」

こんな事をしていたら、折角生息している原生の薬草は台無しだ。
わたしたちは折角来たので、周囲を見回し、何か無いかと探した。
わたしは樹に巻き付いた蔦を見て、何処かで見た気がし、図鑑を捲った。

「ありました!この蔦は解熱に使えます!」
「まぁ~!凄いですわ!」
「やりましたわね~!エバ」

それを少しだけ採取し、収納様の本に挟んだ。
こうして持ち帰り、学園に戻ってから名前を書き込むのだ。
だから、それ程大量に採取する必要は無い、
言ってしまえば、薬になる部分だけでも良いのだ。

その後も、幾つか荒らされている場所があった。
わたしたちは地図にその場所の印を付けておく事にした。


終盤頃、最後に一カ所行っておこうと話し、沼地へ向かっていると、
「うわああ!」という叫び声が聞こえてきた。

「なんでしょうか?」
「魔獣ではありませんよね?」

恐怖はありつつも三人で駆け付けると、
一人の男子生徒が地面に座り込み、痛みを訴え喚いていて、
その側では二人の男子生徒が、顔から色を失くし棒立ちになっていた。

「どうされましたか!?」
「いや、急に足が…」
「痛い痛い!誰か助けてくれー!!」

喚いている生徒の脹脛の一帯には、赤い斑点が出ていた。
何かに被れたのだろうか?
わたしは彼の側に座ると、患部を見た。

「エバ!大丈夫ですの!?」
「ええ、大丈夫です…何か、小さな針みたいな物が刺さっているわ」
「針ですの?虫でしょうか?」

わたしは周囲を見回し、原因となった物を探した。
樹の下に生える尖った草を見て、それに気付いた。

「これかもしれません!」

わたしは図鑑を開き、それを探した。
その植物は、先端に棘があり、そこには毒があり、刺さると斑点が出て酷く痛むとあった。
早く治療をしなければ、患部は広がり続ける。
治療法は、棘を抜き、患部を水で洗い流した後、毒を酸で中和する。

「教師を呼んで下さい!治療をしなければ、患部は広がります!」
「あ、ああ!」男子生徒の一人が、慌てて救援煙を上げた。

わたしは皆に図鑑を見せた。

「棘に毒があります、
棘を抜き、治療には出来るだけ多くの水、後は酸が必要です!」

「皆で手分けをして探しましょう!」
「そうですわね!」
「あ、ああ!」

わたしたちは全員分の飲み水を集め、二人は水の確保に水辺まで走り、
残りの三人で酸の換わりになる物を探した。


「あれがいいわ!」

わたしは樹になる果実に目を光らせた。
それは、かなり酸っぱい実で、昔、屋敷の料理人が持っているのを見て、
欲しいと駄々を捏ね、食べさせて貰ったが、とても酸っぱくて泣いてしまった。
その後、父に怒られたのは料理人の方だった…そこまで思い出すと気が滅入ったが、わたしはその果実に手を伸ばした。

本に書いてある通りに、刺さった針を抜き、水で患部を洗い流す…
そして、酸…

わたしがナイフで果実を半分に切り、手で絞って液を患部に落とすと、
男子生徒がそれを塗り付けた。
残りは輪切りにし、患部に貼り付けた。
少しは痛みが引いたのか、いつしか男子生徒は叫ぶのを止めていた。
だが、かなり憔悴していて、目は虚ろだった。

「大丈夫ですわ、もう直ぐ先生も来て下さいます!」
「お気を確かに~!」

皆で励ましながら待っていると、教師が駆け付けて来た。
教師は事情を聞くと、男子生徒に痛み止めの薬を飲ませ、治療をし、暫く休む様に言った。
わたしたちのグループは採取に戻った。


実習が終わり、学園に戻り、標本を仕上げる。
図鑑で名前を調べ、書き記し、脇書きに効能等必要な事を書く。
時間が掛かるもので、提出は週末だった。

わたしとルーシー、ミアは、放課後図書室で一緒に作業をした。

「あんな事があるなんて、驚きましたわね!」

ミアが言うのは、男子生徒の怪我の事だ。

「本当に、森林は危険ですのね~、
私、ピクニックでしか入った事がありませんでしたわ~」

「私もです!」

ルーシーは侯爵令嬢、ミアは男爵令嬢で、どちらも恵まれた家らしく、育ちが良かった。

「それにしても、エバは凄いですわ!しっかりしてますのね!
私など、とても目に出来ず…情けないですが、気を失うかと思いました…」

「不思議と大丈夫でした…」

使用人をしていた時には、被れる事もあったし、簡単な怪我の手当て
ならば自分たちでしなくてはいけないので、手伝わされる事もあった。
それに、鞭で打たれた事で、少しの血や傷は見慣れていた。
それを言えば、きっと二人は卒倒するだろう。

「それに、機転が利きますのね!私、尊敬しますわ!」
「私もです、エバが指示してくれなければ、何も出来ませんでしたわ~」
「あの果実の事も、良くご存じですのね!」
「勉強されていて、凄いですわ~」
「そんな、あの時は必死だったので…」

わたしは『気が利かない』とか、『馬鹿娘』とか言われてきたので、
とても自分の事には思えず、恐縮した。





翌週の魔法薬学Ⅰの授業で、結果が発表された。

わたしたちのグループはやはり上位にはなれなかったが、
他のグループが採取していない、希少な植物を採取していた事と、
あの応急処置の件で、特別に加点を貰う事が出来た。

「他のグループの生徒との協力、応急処置も見事でしたよ」

荒らされていた区域に、地図で印を付けていた事でも褒められたが、そこは伏せられた。荒らしたグループが注意され減点されたので、恨みを買わない為の配慮だった。


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