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魔法学園一年生

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◆オーロラ《エバ》◆


このわたしが、【Aクラス5番】なんて!信じられないわ!!

魔法学園にオーロラとして入学し、クラス分けの試験を受けた。
今までは入れ換わりがバレない様、慎重にオーロラの振りをしてきた。
だが、屋敷を出て寮に入ってしまえば、誰かに疑われる事なんて無い。
そろそろ本気を出していかなければ、今後の人生に差し障る。
わたしは、オーロラの人生を乗っ取る気でいるのだから!

学園ではなるべく力量を隠さずにいて、屋敷に帰った時には、
少しづつ、疑われない程度に変化を見せていく、そして、卒業と同時に、
『わたし』が完全に『オーロラ』となるのだ!

そのつもりで、一切、手を抜かずに、クラス分けの試験を受けた。
わたしこそが、女子で一番だと疑わなかった。
だが、わたし、オーロラ・モラレスは5位で、女子一位はシャーロット・ハート。
しかも、彼女は、学年首席だった!
平民女子が学年首席、これは、学園始まって以来初めての事だ。

シャーロットは今、わたしの目の前で、注目を一身に浴びていた。

新入生全員から褒め称えられ、憧れられる存在!
違うわ!それは、わたしだった筈!!
わたしこそが、女子一位、首席の筈だったのに___!!

悔しさに歯軋りをしていた。
そんなわたしの目の端に、エバの姿が映った。
エバはおさげの女子生徒と一緒に、馬鹿そうな顔で笑っている。
それを見て、わたしは無性に苛ついた。

わたしがこんな思いをしているのに!彼女は呑気に笑っている!
もしかしたら、わたしを笑っているのかもしれない!
大口叩いておいて、大した事無かったと、わたしを見縊ってるんだわ!!

「許せない…!!」

シャーロットもエバも憎い!!
わたしの前から消えてしまえばいいのに!!

「オーロラ様、5番なんて凄いですわね!美人で賢くて、尊敬しますわ」
「それに、第三王子ウィリアム様の婚約者ですわ!」

二人の女子生徒がわたしに声を掛けてきた。
知らない顔だが、取り敢えずは愛想よくしておこう。
もしかしたら、何かの役に立つかもしれないという打算も働いた。

「ありがとうございます、5番だなんて、わたしも驚いてますの」

わたしは慎重に控えめな態度を見せた。
彼女たちは安心したのか、口が軽くなった。

「首席の彼女ですけど、あの方、平民ですって…」
「平民などが首席なんて、信じられませんわ!」
「何か裏取引でもあったんじゃないかと、皆言ってますのよ」

裏取引…有り得ないとは言えないわね…
それを疑わせるだけでも、周囲のシャーロットへの評価は下がるだろう。

「まぁ!そのような恐ろしい事!とても、あの方には出来ませんわよ」

わたしはワザと大袈裟に否定した。
すると、彼女たちは更に言った。

「いいえ!それ以外考えられませんわ!」
「平民の女が首席など、有り得ません!」
「ああ、私たち、あの方に頭を下げるなんて絶対に嫌ですの!」
「女子一位は、オーロラ様にこそ相応しいですわ!」

わたしはすっかり気分が良くなっていた。
それでも、わたしが一緒になり、彼女の悪口を言って周れば、
わたしが悪者の台頭にされてしまうだろう。
彼女たちは鬱憤を晴らしたくて騒いでいるだけだ、
そして、その尻拭いをわたしにさせる気だわ___
わたしはそれに気付き、反乱分子を歓迎しつつも、距離は置く事にした。

「その様な事はおっしゃらないで下さい、この学園では身分は関係
ありませんわ、わたしは彼女の実力を認め、喜んで褒め称えます!」

わたしが清々しく宣言すると、彼女たちは気まずそうに顔を見合わせ、
その場を立ち去って行った。
この、わたしの姿を見ていた生徒たちは少なくない。
皆、わたしに尊敬の目を向けた。

わたしが手を下さなくても、シャーロットを引き摺り下ろしたい者はいると
分かり、満足だった。
わたしは手を汚さず、高みの見物をしていればいいのだ。
精々、わたしを楽しませなさい!


だが、事は思っていた様には運ばなかった。

教室で褒め称えられるシャーロットを見るのは苦痛だったし、
あの女子生徒たちは、煩い蠅の様に、何かと告げ口してくるのだ。

「私たち、見ましたのよ!」
「苛められているシャーロット様を、ウィリアム様が庇いましたの!」
「ウィリアム様はオーロラ様の婚約者だというのに!」
「シャーロット様はウィリアム様を狙っていますのよ!」
「ウィリアム様もシャーロット様に大変興味を持たれておりますの…」
「お二人で楽しそうに話していらっしゃいましたわ!」

あの幽霊王子がシャーロットと楽しそうに話してたですって!?
わたしとは碌に会話も成立しないっていうのに!腹立たしい!
一瞬血が上ったが、直ぐに冷静になった。

まぁ、あの王子はわたしを『馬鹿娘』と思っているだろうから、
会話が成り立たないとでも思ってるんでしょう。
それか、シャーロットを死ぬ程退屈させているかね。
わたしが少し知性を見せれば、簡単に虜に出来るでしょうよ。
あの男に興味は無いし、好みでも無いけど、
王子だから逃がさない様にしておかなきゃね…

わたしは鉄面皮を被り、天使の様な令嬢を演じた。

「わたしはウィリアム様を信じております、
シャーロット様もその様な方ではございませんわ、
皆さま誤解されていますのよ」

二コリと、この美貌で微笑すれ、周囲はうっとりと見惚れ、息を飲んだ。
そして、わたしの言いなりだ。

「オーロラ様はなんてお優しいの!」
「流石、王子の婚約者だわ!」
「ああ、流石名門モラレス家の公爵令嬢だな!」
「俺にもあんな婚約者が欲しい!」

王子の婚約者オーロラ様は、生まれも育ちも良く、寛大で、お優しい、
その上才女であられる、まるで聖女様のような方だ___

わたしはいつしか、生徒たちの多くから、そんな風に言われる様になり、
注目されていた。
何といっても、王子は学園で一番の有名人だ。
例え、ボンクラな幽霊王子だとしても、その見た目の良さもあり、
人気はあった。成績もAクラス3番で、お飾りにしては悪く無い。
黙っていれば、誰もが憧れる夢の王子様だ。
その婚約者が、わたし、オーロラ・モラレス公爵令嬢___
皆が注目しない筈は無い。

首席こそ、シャーロットに譲ってしまったが、
誰もが欲しくて手に入れられないものを、わたしは持っている!
皆が憧れるのは、勉強しか取り得の無いシャーロットでは無い!
知性、才能、美貌、財力、家柄、全て備わったわたしだ!!
そして、わたしは理想の令嬢、『聖女』を演じ、全生徒を虜にする。
その快感に満足を覚えたわたしだが、
その一方で、鬱憤を晴らす方法を考えていた。

何故って?自分と掛け離れた人間を演じるのは、精神に負担を来すものだ。
これは、屋敷で虐げられて自分を抑え込まされていた時と似ている。

尤も、屋敷で愛嬢オーロラを演じていた時には、そんな負担はなかった。
あれは負担処か、非常に楽しかった。
使用人を右往左往させ、両親を怒らせ、エバを痛め付け…
思い出しても笑ってしまう。

自分がされた時には、いつか思い知らせてやる、殺してやると思ったものだが、
他人がされている、自分がさせる方になると、最高に気分が良かった。

「わたしは元々、こちら側の人間なのかもしれないわね」





シャーロットを苛めているのは、
主にはAクラス18番ブリエル・ターナー公爵令嬢、
そして、Bクラス10番イザベラ・バーンズ侯爵令嬢だ。

二人はわたしの代わりに声を掛けられたのだろう、
わたしに告げ口してくる女子生徒二人は、彼女たちの配下に付いていた。

イザベラはパッとせず、小者で無視しても良いが、
ブリエルはオーロラと同類で、中々の美貌の持ち主だった。
しかも、Aクラスだ、わたしには及ばないまでも、それなりの才女だ。
高慢で自信家、口達者だが、シャーロットを苛めるのはまだしも、
他の者に見られたり、バレている処を見ると、頭は良くないのだろう。


廊下で人気の無い事を確認した配下たちが、シャーロットにぶつかり、
彼女が落とした教科書を、ブリエルが踏み付ける。

「あら、ごめんなさい、足元を見ていませんでしたの!おほほほ」

シャーロットは大人しいタイプでは無い、キッと睨み付けると、
強い口調で食って掛かった。

「酷いじゃないの!足をどけてよ!」

流石平民の出だ、村に居た時の自分を見ている様だ。
ブリエルは構わずに、教科書を踏み躙った。

「まぁ!なんて品の悪い言葉使いなの!」
「今、何て申されたの?どなたか翻訳して頂けます?おほほほ」
「平民の言葉など、分かりませんわ!」
「まぁ!なんて汚たらしい教科書!」
「でも、あなたにはお似合いですわね、シャーロット」

散々嫌味や意地悪を言い、立ち去る___
実に程度の低い苛めをしている。

こんなんじゃ、もの足りないわ…

わたしは魔法を使い、ブリエルを転ばせた。
彼女は見事に床に額をぶつけた。

「まぁ!大丈夫ですか!?ブリエル様!?」

案の定、シャーロットは「ふん、いい気味よ!」と鼻で笑った。
それに彼女たちは怒り狂った。

「私見ましたわ!シャーロットが足を掛けましたの!」
「ブリエル様を転ばせたのはシャーロットですわ!!」
「なんて酷い事をなさるの!!正気とは思えませんわ!!」
「教師に報告しますわ!!」

起き上がったブリエルは怒りの表情で、顔を赤くし、
シャーロットを睨み見ると、その手を振り上げた。

「この、汚らしい下女が!!」

だが、彼女はシャーロットを殴る事は出来なかった。
その腕を掴んだ者がいた___

オリバー・スミス、彼はウィリアムの護衛だ。


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