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本編

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食事会が終われば、侍女の仕事に戻らねばならない為、
メイド服を脱ぐ事は出来なかったが、少しでも…と、わたしはいつもキツク結っている
二本のおさげを解いた。
赤毛の髪は癖もあるが、おさげにしていた事で良い感じに波打っている。
念入りに櫛を入れた後、横の髪を掬い、ハーフアップにしてみた。
期待して鏡に映すも、やはりパッとしなかった。

「でも、おさげよりは良いわ」

わたしは納得し、スツールを立った。

レイモンが指定した待ち合わせ場所は、人気の無い北側の古い回廊で、
壊れ掛けた大きな銅像を隠れ蓑に待っていると、少しして、レイモンがやって来た。

「ソフィ、良かった、抜け出せたみたいだね、さぁ、行こう、こっちだよ!」

レイモンはわたしの肩に手を回し、歩き出す。

「!?」

か、か、か、肩に手を!!!

恋愛初心者のわたしには刺激が強く、頭は真っ白、顔は真っ赤…
何処をどう歩いたかなど、わたしの頭には無い。
気付くと裏庭の、寂びれた水場に着ていた。

今は使われていない古い噴水の縁に腰かけ、レイモンは持っていたバスケットを開いた。

「さぁ、どうぞ!」

そこには、サンドイッチが詰められていた。
わたしはこの状況に胸がいっぱいで、その上、品良く食べるレイモンに見惚れてしまい、
サンドイッチ一つを食べるのがやっとだった。
ああ…夢の様だわ…

「ああー、ソフィと一緒だと楽しいなぁ」

サンドイッチを食べ終え、レイモンがその細い腕を大きく伸ばし、しみじみと言った時、
わたしは幸せ過ぎて、うっとりとなっていた。
だが、これは序の口だった。
レイモンは腕を戻すと、わたしに甘い笑みを向けた。

「また、誘ってもいいかな?ソフィ」

!!!

わたしの胸は、抑えようも無く、高鳴った。
わたしの目には、表情には、想いが溢れ出てしまっていただろう。

ああ、わたしもです!
あなたと一緒だと、どれ程楽しいか、どれ程幸せか!
あなたに誘って頂けて、わたしがどれ程歓喜しているか!
ああ、一日中、ずっと、あなたの傍にいられたら良いのに___!!

「はい、勿論です、レイモン様…」

「ああ、ソフィ、うれしいよ…」

レイモンがうっとりとする様な笑みを浮かべ、わたしの頬にそっと手を伸ばした時だ…

ピカ!!

一瞬、周囲が光ったかと思うと、
ドゴォォォン!!!派手な音と共に、目の前の地面が割れた。

「きゃ!!」
「な、何だぁ!?」

わたしはどさくさ紛れて、レイモンに抱き着いてしまったが、
幸い、彼は割られた大地の方に気を取られていて、気付いていない様だった。

「ここは危険だ!早く戻ろう!!」

レイモンは言うなり立ち上がり、駆け出した。
わたしは忘れられたバスケットを手に取り、彼の後を追った。


「僕は今の事を報告して来るから、ここで別れよう!」
「レイモン様、バスケットは…」
「ああ、悪いけど、調理場に返しておいて」

レイモンは酷く慌てた様子で言うだけ言うと、碌にわたしを見る事無く、走って行った。
寸前まであった、あの甘い空気は、微塵にも残ってはいない。
城の警備、衛兵という仕事なのだから、仕事を優先して当然だが…

「寂しく思えてしまうなんて、我儘ね…ふふ」

わたしは自分の恋心に浸り、空のバスケットを抱きしめた。

ゴロゴロと、また何処かで音が鳴っている。
最近、よく空が鳴っているし、先程のもきっと雷だろう。
レイモンは最近の天候に気付かなかったのだろうか?

「わたしが教えてあげなくてはね!」

わたしは「ふふふ」と笑い、足取りも軽く調理場へと向かった。


クリスティナの方は、食事会が上手くいかなかった様で、残りの半日、
酷く苛々とし、何かにつけ、八つ当たりをしていた。
クリスティナに何か意見を言えるとすれば、ルイーズ位なのだが、
彼女は何でもクリスティナに同調し、持ち上げるので、我儘を増長させるだけだった。
当然の様に、わたしは散々嫌味を言われ暴言を吐かれ、用事を言い付けられ、
振り回されたが、幸せ過ぎて、あまり気にならなかった。


◇◇


翌日は、朝から酷い嵐となった。
空は暗雲が渦巻き、恐ろしい音を立て風が吹き、大粒の雨を降らせている。

「こんな酷い天候は何年ぶりかしら?」

最近、空が鳴っていたのは、この前兆だったのだろう。
わたしは窓から、荒れ狂う様を眺めていた。

この嵐に、城の者たちは一様に、「悪い兆しだ」「不吉だ」「城は大丈夫だろうか」
「怖いわ」と不安を感じていたが、クリスティナには関係無かった。
彼女は、前日の食事会の事で、酷く怒っていて、側近たちへの当て付けに、
暫く籠城する気でいたらしく、朝食も断り、ベッドから出て来なかった。
クリスティナが病人を装うと、側近たちには悪いが、わたしや侍女たちへの風当たりは
減るので大助かりだった。

ルイーズなどは、侍女たちに仕事を指示すると、さっさと王妃の間を出て行った。
侍女たちはクリスティナとルイーズの悪口を囁き合いながら、仕事をこなしたのだった。


昼を過ぎても、天候は一向に良くならず、寧ろ、雨風は激しくなるばかりで、
王城は大騒動になっていた。
わたしがそれを知ったのは、クリスティナの昼食をワゴンで運んで来ていた時だった。
廊下を歩いていれば、自然と噂は耳に入って来るものだ。

「司教様が駆けつけ、祈祷を始めたぞ!」
「司教様が言うには、これはただの嵐では無いらしい…」
「どうやら、魔王の怒りによるものだと…」
「魔王だって!?」
「大変じゃないか!王城に攻めて来るというのか!?」

魔族が攻めて来るなど、遠い昔の伝承とばかり思っていた。
時々、辺境の地に魔獣が出て暴れ、村が亡んだという話は聞くが、
魔王や魔族を見たという話は聞いた事が無い。

半信半疑ではあるが、本当であれば、大変だ!

この平穏な世の中だ、王城であっても、魔王や魔族に対抗できる術を
備え持っているとは思えない。
それに、現在では魔法自体が衰退している。
王城には魔術師団もあるが、魔法を披露する場も無く、力量は未知数だ。

わたしは事の重大さに気付き、血の気が引いた。
ワゴンを押す手も震え、止まってしまう。

相手が魔王なら、一瞬で殺されるかしら?
それとも、ここが火の海になる?

どちらにしても、恐ろしいわ!!
死ぬなんて嫌!!
レイモン様だって、どうなるか…

彼は衛兵なのだ、勝ち目が無くとも、わたしたちを守る為に戦いに挑むだろう___

そんなの、嫌!!
ああ、どうか、司教様の間違いでありますように___!!

わたしは強く神に祈ったのだった。





クリスティナは、今の状況を何も知らない様で、いつもの如く、勝手な事を言いながら、
運んで来た昼食をペロリと平らげた。

「朝食を抜いたからお腹が空いてしまったわ、これはあなたが食べた事にしておくのよ!
暫く私は何も口にしないつもりだから___」

「はい、承知致しました」

わたしは心此処に在らず、口だけで答えると、ワゴンを押して部屋を出た。

わたしが心配した処で、何も出来ないし、クリスティナが知った処で、やはり同じだろう。
いや、クリスティナが知れば、余計な騒動が増えるかもしれない。
この嵐の中、馬車を走らせ、安全な場所へ避難させろと平気で言い出しそうだ。
そんな事になれば、大顰蹙を買うだろうが、クリスティナ自身は気にもしないだろう…
わたしは内心で憂い、知った噂の事は、自分の胸に秘めておく事にした。
レイモンに会えたら、詳しく話を聞く事も出来るが、残念ながら、彼の姿を見つける事は出来なかった。


だが、わたしの考えは甘かった。
クリスティナには、優秀なルイーズという情報源があったのだ。


ワゴンを片付け、王妃の間に戻ったわたしを待ち受けていたのは、
殊更に機嫌の良いクリスティナだった。

「ああ、ソフィ!待っていたのよ!さぁ、いらっしゃい、私の可愛い妹!」

クリスティナが両腕を広げるのを見て、ゾクリとし、鳥肌が立った。
こういう時のクリスティナは要注意だ。
きっと、何か良からぬ事を企んでいるに違いないのだから!
わたしは身構えたが、クリスティナは機嫌の良い笑みを崩さなかった。

「ソフィ、そんなに警戒しないで、私たち姉妹でしょう?
今まであなたに辛く当たって、すまなかったと思っているの、仲直りにお茶でもしましょう」

「それでは、お茶の準備をしてきます…」

「それはルイーズがしてくれるわ、ソフィ、さぁ、座って」

わたしは警戒しながらも、それを断る口実が無く、促されるままに、
丸テーブルのクリスティナの向かい、その椅子に座った。

ルイーズの手によって、紅茶が注がれる。

これを飲んでは駄目だ___

わたしの第六感が告げている。

「さぁ、ソフィ、召し上がって」

クリスティナが笑顔で催促してくる。
わたしはカップに手を伸ばすも、やはりそれを飲むのは躊躇われた。
残念だが、今まで近くにいた分、実の姉を信用する事は難しかった。

「ごめんなさい、お姉様、今、お腹の具合が悪くて…」
「あら!それはいけないわ!医師を呼びましょう」
「医師は必要ないわ、寝ていたら治ると思うから…」
「分かったわ、それなら、今日はもう部屋に戻って寝て頂戴」

クリスティナがあまりに物分かりが良かったので、
わたしは自分の考えが間違いだったのでは?と思い始めた。
もし、本当に、仲直りのつもりの席だったら…姉に申し訳ない事をしてしまった。

わたしは自分の疑い深さに気落ちし、「失礼致します」と王妃の間を出た。
隣の自分の部屋に入り、ランプの灯りを点けようとした時だ。

コンコン

扉が叩かれた。

「ソフィ様、薬をお持ちしました」
「わざわざすみません…」

警戒心など欠片も無く、その扉を開いたわたしは、自分の間違いに気付かされた。

「!!」

だが、その時はもう遅かった。
数人の衛兵たちが部屋に押し入って来たかと思うと、あっという間に、
わたしは口を布で塞がれ、後ろ手に両手を縛り上げられていた。
その上、彼らはわたしが動けない様、体と腕をロープでキツク縛り、
太腿や足まで縛った。

「!!!!」

わたしは当然、身動ぎ一つ出来なくなった。
そんな憐れなわたしを、彼らは無情にも荷物の様に抱え上げ、部屋から運び出した。

一体、何が起こっているのか…
わたしはただ恐怖を感じ、助けを求めて必死に足掻いた。

「___!!___!!!」

だが、わたしが幾ら騒ごうと喚こうと、それに気付く者はいなかった。
いや、目にした者も居たかもしれないが、誰も止めたりはしなかった。


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