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後日譚
妖精乱舞
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◆◆ スザンヌ ◆◆
スザンヌとは何かと因縁のある、シャーリー=デュボアが、この秋、結婚した。
相手は《アエレ》で一番人気の独身男性、ラウル=アラードというのだから、
まったくもって、スザンヌには腹立たしい事だった。
だが、何とかヒステリーを起こさずに済んでいる理由は、フィリップの存在があったからだ。
トラバース男爵子息で跡継ぎのフィリップ。
スザンヌは幼い頃から、自分の結婚相手はフィリップだと信じて疑わなかった。
スザンヌの家が資産家という事もあり、男爵家とは古くから繋がりがあった。
その為、幼い頃から、男爵家に遊びに行く事も出来た。
自分は特別な存在だと、スザンヌは自負していた。
フィリップも昔はその気でいたのだ。
彼が寄宿学校へ入る前に、スザンヌは婚約する予定でいた。
だが、それを横からかっさらって行ったのが、シャーリーだった。
突然、《アエレ》に引っ越して来た牧師一家の娘。
フィリップは物珍しさから、彼女に夢中になってしまったのだ!
スザンヌは危機を感じ、妨害に出たが、それは上手くはいかず…
二人は遂に婚約までしてしまった!
フィリップがひと時の恋から目を覚ましたのは、それから一、二年が経った頃だった。
フィリップは見て分かる程、シャーリーから興味を無くした。
だが、そんな事は当然だと、スザンヌには思えた。
シャーリーは貧乏な牧師の娘というだけで、何の取りえも無かったからだ。
いや、その上、病弱でもあった。
男爵家の妻には相応しくない。
思っていた通り、シャーリーは惨めに捨てられた。
その時ばかりは、スザンヌも胸がスッキリしたものだ。
だが、悪い事に、フィリップはオデットという、資産家で大学教授の娘と結婚してしまった。
オデットは性悪女で、『誰とでも寝る女』と噂が立つ程だったが、
フィリップは例により、相手に盲目となり、気付いていなかった。
オデットに騙され結婚したフィリップだが、その結婚生活は直ぐに破綻した。
オデットが産んだ子が、その容姿から、誰が見ても分かったが、
フィリップの子では無かったからだ。
男爵は孫とは認められないと怒り、即刻離縁を言い渡した。
これも、スザンヌにとっては幸運だった。
スザンヌは直ぐに男爵に取り入り、時期を見て、自分をフィリップの結婚相手にする様に迫った。
シャーリーとの婚約を一方的に解消した事で、《アエレ》の者たちから散々に言われ、
悪者扱いをされ、その上、オデットの事では双方に恥を掻いた男爵は、
スザンヌとの結婚に意欲を見せた。
スザンヌの家は資産家で、小さな町ではあるが、権力を持っている。
その娘を貰えば、失った《アエレ》の者たちの尊敬の念も戻ると考えたのだ。
当のフィリップは難色を示したが、オデットとの事を言われると従うより無かった。
跡継ぎから外されてもおかしくは無かったのだ。
そして、フィリップは親に逆らって生きていける程、精神的に強くもなければ、
世慣れもしていなかった。
つい先日、二人は無事、婚約に至った。
《アエレ》の者たちにも、大々的に発表した。
その反応は様々ではあったが、概ね成功と言えた。
結婚式は《アエレ》の町を挙げての大掛かりな催しとなる予定なので、
準備には恐ろしく時間が掛かった。
結局、結婚式が執り行われるのは、年を明けてになりそうだ。
「まぁ、ここまで待ったんだもの、後少し位いいわ」
もう、邪魔者はいない___
スザンヌは鏡に映る自分に言い聞かせ、口の端を上げた。
スザンヌは地味な顔立ちと、くすんだ肌にコンプレックスがあり、
十代の頃より、一流のレディースメイドを雇い、流行りの髪型をし、
美しく見せるメイクをさせていた。
くすんだ肌には、薬を使い白さと艶を出す。
汗を流し働く事は無かったが、この薬の所為で、スザンヌの素肌は荒れていた。
尤も、見えなければ良いので、スザンヌは構わなかった。
高価な宝飾品や流行の髪型もあり、少し年は取ってしまったが、
何処から見ても恥ずべき所の無い、美しい令嬢だった。
「二十歳でも通用するわ」
スザンヌは自分の姿に満足し、スツールを立った。
部屋を出たスザンヌは、僕として使っている幼馴染三人を呼んだ。
「トマ、ポール、パトリック、花畑から花を取って来て頂戴!
フィリップに贈るのよ、いいでしょう?」
「花畑って、アレだろ?」
《アエレ》では有名な場所で、老若男女問わず、大人から子供まで、知らぬ者はいない。
花畑は、町の郊外、大きな森林の直ぐ手前にある。
森林は《精霊の棲み処》で、近付けば精霊の怒りに触れ、災いが降りかかるとの言い伝えがあり、
《禁忌の場所》とされていた。
花畑は言うならば、《境界》で、同じく立ち寄る事が禁じられていた。
立ち寄る者がいないというのに、そこは一年中花が咲いている。
それを《アエレ》の者たちは恐れ、不気味に感じ、益々近寄る事は無かった。
「ええ、そうよ、フィリップに贈るんだもの、特別な物じゃなきゃ!
それとも、良い大人が、まさか怖いなんて言わないでしょう?
パトリック、あなた、強盗してたんじゃなかった?
それが、迷信を信じるなんて!知られたら笑い者になるわよ!」
スザンヌの挑発に三人はあっさりと乗った。
「怖がるわけねーだろ、花を取って来るってのが、恰好悪いってだけさ」
「けど、こんな事、前に無かったか?」
「そういや、昔、十歳位の時だっけ?」
「スザンヌが花畑を荒して来いって、言ったんだったよな?」
「そんな事あったかしら?まぁ、いいわ、一度行ってるなら、簡単でしょう?」
「ああ、報酬は?」
「花を摘んで戻ってからよ」
「チェ!男爵夫人はちゃっかりしてるぜ!」
三人を見送ったスザンヌは内心でほくそ笑む。
《男爵夫人》
自分は、この町唯一の、貴族の仲間入りとなるのだ!
しかも、男爵夫人になる事はほぼ間違いない!
部屋に戻り、独りになったスザンヌは喜びを爆発させた。
スザンヌが昼寝をし、目を覚ました時、花が届けられていた。
それは、両手に抱えても溢れる程の量だ。
「あら、あの三人組もやるじゃない」
スザンヌはそれに満足し、男爵家を訪問すべく、早速ドレスに着替えた。
花束を抱え、車に乗ろうとしたが、自分の車はまだ戻っていなかった。
「もう!遊びに行ったのね!まぁ、いいわ、車はまだあるもの」
スザンヌは自分好みではない、黒塗りの車に乗り、
運転手に運転をさせ、男爵家に向かった。
男爵家に着いたスザンヌは執事に迎えられ、いつものパーラーへと通された。
暫くして、婚約者であるフィリップが現れた。
「スザンヌ、昨日来たばかりじゃないか」
フィリップはいつもスザンヌに対し冷たかったが、婚約してからは、少しは軟化していた。
だが、流石に連日訪ねて来たのは良く無かった。
フィリップの表情に不満が見え、スザンヌは殊更に猫撫で声になった。
「ごめんなさい、フィリップ、あなたにどうしても会いたくて…
それに、見て!珍しい花でしょう?あなたにどうしてもあげたかったの!」
スザンヌは花束に手を伸ばしたが、フィリップがギョッとして飛び退いた。
「スザンヌ!その顔…!病に掛かったのか!?
何で来たんだよ!僕に近寄らないでくれよ!!」
「フィリップ?どうなさったの?」
「誰か!直ぐに彼女を追い返してくれ!病だ!感染したら大変だ!
ああ、こんな醜女と結婚しなきゃならないなんて…僕はなんて不幸なんだ!!」
館は大騒ぎになり、スザンヌは警備の者に抱えられ、花束と共に、
玄関から放り出された。
「ちょっと!フィリップ!!」
「スザンヌ様、医師に診て頂いた方がよろしいかと…今日の所はお帰り下さい」
スザンヌは抗議の声を上げたが、相手にしては貰えなかった。
「何だって言うのよ…」
車に戻ったスザンヌはミラーに自身の顔を映した。
そして、それに気付き、息を飲んだ。
顔の頬から顎に掛け、紫色の斑点が浮かび上がっているではないか___!
「ひぃ!!私の顔が…嘘よ!こんなの、現実である筈が無いわ!
鏡が壊れているんでしょう!?それとも、誰かの悪戯!?
私を妬んでいるのね!!絶対に許さないわよ!!」
「お、お嬢様!?」
運転手もそれに気付き、スザンヌから飛び退いた。
「家に帰るわ!早くなさい!」
スザンヌは運転手を𠮟りつけ、運転させると館に帰った。
「直ぐに医師を呼んで!取り敢えず、この町の医者でいいわ!早く来させなさい!
それから、トマ、ポール、パトリックは何処なの!
何してるの!さっさと連れて来るのよ!!」
館に戻ったスザンヌは、上等の布で顔を覆い、喚き散らし、命令した。
だが、それに応える事は誰も出来なかった。
「お嬢様…ラウル先生は、本日は隣町の病院へ行かれているらしく、
ヴィクトル先生は、事故の知らせを受け、そちらに向かったとの事です…」
「馬鹿な者たちが起こした事故と、私の顔とどちらが優先されるか、
誰でも分かる事でしょう!?」
「それが、事故を起こしたのは…お嬢様のお車で…」
「何ですって!?私はここに居るじゃないの!」
「トマ、ポール、パトリックの乗った車が…森林に突っ込んだと…」
「そんな馬鹿な事…だったら、あの花束は何だっていうの!?」
男爵家から放り出された際に、花束はそのまま放って来たが、
スザンヌの顔の斑点は、あの花束の所為としか思えなかった。
あの花束は花畑のものだと思っていたが、違ったのだろうか?
スザンヌは忌々しく唇を噛みながら、手袋を外し、そして、再び悲鳴を上げた。
「―――――――――!!!」
彼女の手は指先から手首の上まで、紫の斑点に覆われていた。
スザンヌは半狂乱になり、卒倒した。
◆◆◆
スザンヌとは何かと因縁のある、シャーリー=デュボアが、この秋、結婚した。
相手は《アエレ》で一番人気の独身男性、ラウル=アラードというのだから、
まったくもって、スザンヌには腹立たしい事だった。
だが、何とかヒステリーを起こさずに済んでいる理由は、フィリップの存在があったからだ。
トラバース男爵子息で跡継ぎのフィリップ。
スザンヌは幼い頃から、自分の結婚相手はフィリップだと信じて疑わなかった。
スザンヌの家が資産家という事もあり、男爵家とは古くから繋がりがあった。
その為、幼い頃から、男爵家に遊びに行く事も出来た。
自分は特別な存在だと、スザンヌは自負していた。
フィリップも昔はその気でいたのだ。
彼が寄宿学校へ入る前に、スザンヌは婚約する予定でいた。
だが、それを横からかっさらって行ったのが、シャーリーだった。
突然、《アエレ》に引っ越して来た牧師一家の娘。
フィリップは物珍しさから、彼女に夢中になってしまったのだ!
スザンヌは危機を感じ、妨害に出たが、それは上手くはいかず…
二人は遂に婚約までしてしまった!
フィリップがひと時の恋から目を覚ましたのは、それから一、二年が経った頃だった。
フィリップは見て分かる程、シャーリーから興味を無くした。
だが、そんな事は当然だと、スザンヌには思えた。
シャーリーは貧乏な牧師の娘というだけで、何の取りえも無かったからだ。
いや、その上、病弱でもあった。
男爵家の妻には相応しくない。
思っていた通り、シャーリーは惨めに捨てられた。
その時ばかりは、スザンヌも胸がスッキリしたものだ。
だが、悪い事に、フィリップはオデットという、資産家で大学教授の娘と結婚してしまった。
オデットは性悪女で、『誰とでも寝る女』と噂が立つ程だったが、
フィリップは例により、相手に盲目となり、気付いていなかった。
オデットに騙され結婚したフィリップだが、その結婚生活は直ぐに破綻した。
オデットが産んだ子が、その容姿から、誰が見ても分かったが、
フィリップの子では無かったからだ。
男爵は孫とは認められないと怒り、即刻離縁を言い渡した。
これも、スザンヌにとっては幸運だった。
スザンヌは直ぐに男爵に取り入り、時期を見て、自分をフィリップの結婚相手にする様に迫った。
シャーリーとの婚約を一方的に解消した事で、《アエレ》の者たちから散々に言われ、
悪者扱いをされ、その上、オデットの事では双方に恥を掻いた男爵は、
スザンヌとの結婚に意欲を見せた。
スザンヌの家は資産家で、小さな町ではあるが、権力を持っている。
その娘を貰えば、失った《アエレ》の者たちの尊敬の念も戻ると考えたのだ。
当のフィリップは難色を示したが、オデットとの事を言われると従うより無かった。
跡継ぎから外されてもおかしくは無かったのだ。
そして、フィリップは親に逆らって生きていける程、精神的に強くもなければ、
世慣れもしていなかった。
つい先日、二人は無事、婚約に至った。
《アエレ》の者たちにも、大々的に発表した。
その反応は様々ではあったが、概ね成功と言えた。
結婚式は《アエレ》の町を挙げての大掛かりな催しとなる予定なので、
準備には恐ろしく時間が掛かった。
結局、結婚式が執り行われるのは、年を明けてになりそうだ。
「まぁ、ここまで待ったんだもの、後少し位いいわ」
もう、邪魔者はいない___
スザンヌは鏡に映る自分に言い聞かせ、口の端を上げた。
スザンヌは地味な顔立ちと、くすんだ肌にコンプレックスがあり、
十代の頃より、一流のレディースメイドを雇い、流行りの髪型をし、
美しく見せるメイクをさせていた。
くすんだ肌には、薬を使い白さと艶を出す。
汗を流し働く事は無かったが、この薬の所為で、スザンヌの素肌は荒れていた。
尤も、見えなければ良いので、スザンヌは構わなかった。
高価な宝飾品や流行の髪型もあり、少し年は取ってしまったが、
何処から見ても恥ずべき所の無い、美しい令嬢だった。
「二十歳でも通用するわ」
スザンヌは自分の姿に満足し、スツールを立った。
部屋を出たスザンヌは、僕として使っている幼馴染三人を呼んだ。
「トマ、ポール、パトリック、花畑から花を取って来て頂戴!
フィリップに贈るのよ、いいでしょう?」
「花畑って、アレだろ?」
《アエレ》では有名な場所で、老若男女問わず、大人から子供まで、知らぬ者はいない。
花畑は、町の郊外、大きな森林の直ぐ手前にある。
森林は《精霊の棲み処》で、近付けば精霊の怒りに触れ、災いが降りかかるとの言い伝えがあり、
《禁忌の場所》とされていた。
花畑は言うならば、《境界》で、同じく立ち寄る事が禁じられていた。
立ち寄る者がいないというのに、そこは一年中花が咲いている。
それを《アエレ》の者たちは恐れ、不気味に感じ、益々近寄る事は無かった。
「ええ、そうよ、フィリップに贈るんだもの、特別な物じゃなきゃ!
それとも、良い大人が、まさか怖いなんて言わないでしょう?
パトリック、あなた、強盗してたんじゃなかった?
それが、迷信を信じるなんて!知られたら笑い者になるわよ!」
スザンヌの挑発に三人はあっさりと乗った。
「怖がるわけねーだろ、花を取って来るってのが、恰好悪いってだけさ」
「けど、こんな事、前に無かったか?」
「そういや、昔、十歳位の時だっけ?」
「スザンヌが花畑を荒して来いって、言ったんだったよな?」
「そんな事あったかしら?まぁ、いいわ、一度行ってるなら、簡単でしょう?」
「ああ、報酬は?」
「花を摘んで戻ってからよ」
「チェ!男爵夫人はちゃっかりしてるぜ!」
三人を見送ったスザンヌは内心でほくそ笑む。
《男爵夫人》
自分は、この町唯一の、貴族の仲間入りとなるのだ!
しかも、男爵夫人になる事はほぼ間違いない!
部屋に戻り、独りになったスザンヌは喜びを爆発させた。
スザンヌが昼寝をし、目を覚ました時、花が届けられていた。
それは、両手に抱えても溢れる程の量だ。
「あら、あの三人組もやるじゃない」
スザンヌはそれに満足し、男爵家を訪問すべく、早速ドレスに着替えた。
花束を抱え、車に乗ろうとしたが、自分の車はまだ戻っていなかった。
「もう!遊びに行ったのね!まぁ、いいわ、車はまだあるもの」
スザンヌは自分好みではない、黒塗りの車に乗り、
運転手に運転をさせ、男爵家に向かった。
男爵家に着いたスザンヌは執事に迎えられ、いつものパーラーへと通された。
暫くして、婚約者であるフィリップが現れた。
「スザンヌ、昨日来たばかりじゃないか」
フィリップはいつもスザンヌに対し冷たかったが、婚約してからは、少しは軟化していた。
だが、流石に連日訪ねて来たのは良く無かった。
フィリップの表情に不満が見え、スザンヌは殊更に猫撫で声になった。
「ごめんなさい、フィリップ、あなたにどうしても会いたくて…
それに、見て!珍しい花でしょう?あなたにどうしてもあげたかったの!」
スザンヌは花束に手を伸ばしたが、フィリップがギョッとして飛び退いた。
「スザンヌ!その顔…!病に掛かったのか!?
何で来たんだよ!僕に近寄らないでくれよ!!」
「フィリップ?どうなさったの?」
「誰か!直ぐに彼女を追い返してくれ!病だ!感染したら大変だ!
ああ、こんな醜女と結婚しなきゃならないなんて…僕はなんて不幸なんだ!!」
館は大騒ぎになり、スザンヌは警備の者に抱えられ、花束と共に、
玄関から放り出された。
「ちょっと!フィリップ!!」
「スザンヌ様、医師に診て頂いた方がよろしいかと…今日の所はお帰り下さい」
スザンヌは抗議の声を上げたが、相手にしては貰えなかった。
「何だって言うのよ…」
車に戻ったスザンヌはミラーに自身の顔を映した。
そして、それに気付き、息を飲んだ。
顔の頬から顎に掛け、紫色の斑点が浮かび上がっているではないか___!
「ひぃ!!私の顔が…嘘よ!こんなの、現実である筈が無いわ!
鏡が壊れているんでしょう!?それとも、誰かの悪戯!?
私を妬んでいるのね!!絶対に許さないわよ!!」
「お、お嬢様!?」
運転手もそれに気付き、スザンヌから飛び退いた。
「家に帰るわ!早くなさい!」
スザンヌは運転手を𠮟りつけ、運転させると館に帰った。
「直ぐに医師を呼んで!取り敢えず、この町の医者でいいわ!早く来させなさい!
それから、トマ、ポール、パトリックは何処なの!
何してるの!さっさと連れて来るのよ!!」
館に戻ったスザンヌは、上等の布で顔を覆い、喚き散らし、命令した。
だが、それに応える事は誰も出来なかった。
「お嬢様…ラウル先生は、本日は隣町の病院へ行かれているらしく、
ヴィクトル先生は、事故の知らせを受け、そちらに向かったとの事です…」
「馬鹿な者たちが起こした事故と、私の顔とどちらが優先されるか、
誰でも分かる事でしょう!?」
「それが、事故を起こしたのは…お嬢様のお車で…」
「何ですって!?私はここに居るじゃないの!」
「トマ、ポール、パトリックの乗った車が…森林に突っ込んだと…」
「そんな馬鹿な事…だったら、あの花束は何だっていうの!?」
男爵家から放り出された際に、花束はそのまま放って来たが、
スザンヌの顔の斑点は、あの花束の所為としか思えなかった。
あの花束は花畑のものだと思っていたが、違ったのだろうか?
スザンヌは忌々しく唇を噛みながら、手袋を外し、そして、再び悲鳴を上げた。
「―――――――――!!!」
彼女の手は指先から手首の上まで、紫の斑点に覆われていた。
スザンヌは半狂乱になり、卒倒した。
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