【完結】猫かぶり令嬢の結婚の条件☆

白雨 音

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翌日の試合でも、エルネストとわたしは難無く勝ち上がり、5強に入った。
これで、明日は決勝トーナメントだ!

その夜は、町で前夜祭が行われた。
通りでは屋台が並び、広場ではダンスパーティが開かれた。
町の者だけでなく、周辺、各地から観戦に訪れているので、
何処へ行っても、大勢の人で溢れている。
剣術大会に出場した者たちは、町の娘たちに人気で、あちこちで奪い合いになっていた。

わたしもエルネストに頼み、少しだけ覗きに来ていた。
勿論、深窓の令嬢リリアーヌでは行く事が出来無いので、
男装し、レオナールとしてだ。

「いいですか、あなたはくれぐれも目立たない様にして下さい、私は面倒はごめんです。
女性に声を掛けられても、付いて行ってはいけませんよ」

エルネストに言われたが…
わたしが何故、女性に付いて行かねばならないのか!

「付いて行く訳無いでしょう、いいから、早く何か食べ物を買って来て!
たこ焼きとか、焼きそばとかがいいけど、無いと思うから、
適当に美味しそうな物をお願いね!」

「分かりました、適当に買わせて頂きます」

エルネストが買い出しに行き、わたしは人気の無い茂みに隠れ、待っていた。
食べ物を抱えたエルネストの姿が見え、立ち上がったのだが、
わたしよりも先に、綺麗に着飾った女性たちが群がり、口々にエルネストに声を掛けた。

「エルネスト様ですよね?今日の試合、見ました!素晴らしかったですわ!」
「どうか、私と踊って下さい!エルネスト様!」
「いえ、私と!」
「エルネスト様、お酒でもご一緒に!」

何なのよ!!
わたしに付いて行くなって言っておいて、エルネストの方がモテモテじゃない!!

まぁ…
分からなくも無いけど…

エルネストは見目も良いし、有能だし、これで剣まで使えるのだから、
誰から見ても魅力的だろう。

「それだけじゃないわ、魔法も使えるのよね…」

正に、万能、無敵だ。
世の中、不公平よね…
わたしは珍しく弱気になり、嘆息してしまっていた。

「申し訳ありませんが、連れがいますので、失礼致します」

エルネストの声で、我に返った。

「そんな~いいじゃありませんか~」
「少し位、遊びましょうよ~」
「そうですわ、前夜祭ですもの!明日の為に、景気付けですわ!」

女性たちは引かなかった。
わたしは苛々とし、助けに行こうとした。
いや、エルネストを引っ張り連れ帰るつもりだった。

エルネストはわたしのものよ!!

「申し訳ありませんが、私は剣術大会の参加者です。
それは、ブーランジェ伯爵令嬢、リリアーヌ様の婚約者候補という事です。
リリアーヌ様以外の女性と遊ぶ者など、婚約者候補として相応しくありません。
直ちに、失格とすべきでしょう。お分かり頂けましたら、お引き取り下さい」

エルネストは厳とし、冷たく言い放った。
女性たちは怯み、そそくさとエルネストの元から離れて行った。

「ちょっと、感動したわ…」

女性たちから逃れる為の言い訳だったかもしれないけど…
わたしとの結婚を望み、ここへ来てくれた者ならば、
わたし以外の女性に目を向けて欲しくない。
結婚するなら、そういう人がいいわ___

「エルネスト…」

わたしは今度こそ、声を掛けようとした。
だが、またしても、邪魔者が現れた。

「アロイス!おまえ、アロイスだろ!?」

旅人の様な恰好をしているその男性は、
エルネストにやたら馴れ馴れしく話し掛けてきた。

アロイス?
それが、エルネストの本名なのかしら?
わたしは息と身を顰め、様子を伺った。

「俺だよ、俺!ジェローム!親友だろー!」

男は『親友』と言っているが、エルネストの表情は『無』だ。

「おまえ、あれから何処で何してんのかと思ってたら、
まさか、こんな所で、伯爵令嬢の花婿候補になってるとはなー!
上手くやってるなー!けど、おまえが、剣とか!マジ、笑えるわ!!」

むむ!!
何という言い草だ!!
わたしは怒りを抑える為、茂みの葉をぐしゃりと握った。

「おまえは何をやってるんだ?リアナは一緒じゃないのか?」

リアナ?
女性の名だ…
エルネストの口から女性の名が出るなんて…これは、興味深いわ!
怒りは好奇心ですり替えられた。

「おまえが抜けた後、パーティも解散してさー」

パーティ??
それじゃ、エルネストは、冒険者だったって事!?

「暫くはリアナと別のパーティ組んでたんだけど、
体の相性は良くても、性格がなー、喧嘩ばっかでよー、疲れるんだわ。
それで、そっちも解散して、リアナとはそれっきりだよ。
冒険者は面倒臭いって分かったし、今は気楽に傭兵やってるよ。
それにしても、こんな面白い大会あるなら、俺も出るんだったー!」

書類選考で落としてやるわ。
それにしても、この人、本当に、エルネストの親友なのかしら?
何年かぶりに会った様なのに、エルネストは全くうれしそうでは無い。

「悪いが、先を急ぐ」
「何だよ!冷てーなー、久しぶりに会ったんだし、どっかで飲もうぜ!」
「おまえと飲む気は無い、あの時言った筈だ、これで『お別れ』だと」

エルネストが偽名を使い、正体を隠している理由はこれかしら?
彼と縁を切りたそうだわ。

「おまえ、まだ根に持ってんのか?俺は別れたって言っただろ、
まだ未練があんなら寄りを戻せよ、俺も協力してやるぜ!」

リアナは、最初エルネストと付き合っていたのね!
それを親友に寝取られて、パーティを抜けたって事?

最初会った時のエルネストは、無職で空腹でお金も持っていなかった。
放浪していた様だけど…
失恋の痛手と親友に裏切られた傷を癒していたのかしら?
エルネストって、見掛けに寄らず、繊細なのね…
それを、何故、自称親友の彼には分からないのだろう?
再会して、尚、エルネストを傷付けている___

「そういう問題じゃない、裏切り者とは二度と顔を合わせたく無いだけだ」

エルネストが冷たく言うと、ジェロームは不満そうな顔になった。

「おい、学園時代からの付き合いだろ?冒険者に誘ってやったのも俺だし、
俺に山程恩があるだろう!?女の事位で、友情まで壊しちまうのか?
小さいヤツだな!」

「学園時代、おまえとは親しく無かった筈だ。
おまえが俺を冒険者パーティに誘ったのは、魔術師が必要だっただけだ。
俺は独りで冒険者になるつもりでいたが、おまえの誘いに乗った。
だが、それが間違いの元だった。
俺はおまえを軽く見ていた、単純馬鹿で女好きだが、悪党では無いと。
まさか、仲間の女にまで手を出すとはな…読みが甘かった。
おまえという男がつくづく嫌になった、そして、これ以上嫌いにはなりたくない、それだけだ」

エルネストが背を向ける。
『親しく無かった』と言ったが、誘いに乗る位だ、嫌っていた訳では無かったのだろう。
恋人を寝取られるまでは___

わたしは茂みから勢い良く飛び出すと、エルネストに向け、手を出した。

「エルネスト!その食べ物を寄越しなさい!全部よ!」
「は?」

ぽかんとするエルネストに、わたしはそれを無理矢理毟り取った。

「剣を抜くのよ!この場で、あなたたち二人、決闘なさい!」

それが手っ取り早い、解決法だ。
わたしが言い付けると、最初、ぽかんとしていたジェロームは、腹を抱え笑い出した。

「こいつ、馬鹿じゃねーの!俺は剣士だぜ!?
こいつが剣で俺の相手になる訳ねーだろ!」

「今、ここで、あなたが勝ったら、
明日の決勝トーナメントには、エルネストではなく、あなたに出て貰うわ!」

「おまえに、どんな権限があるって?」

わたしはフードを取り、鬘を取った。
ジェロームが目を丸くする。

「わたしは、ブーランジェ伯爵令嬢、リリアーヌよ!
わたしの権限により、今ここで、二人に決闘を申し渡します!
これは、寸止めじゃなく、本当の決闘よ!」

「いいのか?こいつ死ぬぜ?」

「構わないわ!もし、エルネストが敗れたら、明日わたしが彼に代わり、あなたに止めを刺すわ!
いいわね、エルネスト!」

わたしが目力を強くし言い放つと、エルネストは嘆息し、だが、剣を抜いた。

「雇われの身、お嬢様の命ならば、仕方ありませんね…」

「いいけど、後で恨むなよ!アロイス」

ジェロームも剣を抜く。
馬鹿な無神経男と思っていたが、剣を構えたジェロームには、剣士のオーラがあった。
構えだけで相手を威圧する。

流石、剣士ね…
だけど…エルネストも負けてないわ!

エルネストは静かだが、その構えは、底知れぬ暗い怒りを放っている。
それに気付いたらしい、ジェロームに僅かに動揺が見えた。
それを誤魔化す様に、相手を煽る。

「ほー、一応、学園時代よりはマシになってるみたいだな!
けど、所詮、剣士の真似事に過ぎねーな、いいぜ、何処からでも来いよ!」

剣士の真似事かどうか、思い知ると良いわ!

彼に乗せられた…フリをし、エルネストは斬り込む。
ジェロームはそれを剣で受け、笑っていた。

「ははは!こんなもんか!よくも決勝まで勝てたもんだな!
弱いヤツしか出て無かったのか?
こんな、辺境の地じゃ、碌な者は集まらないよな!」

ジェロームがエルネストを押し返す。
エルネストは間合いを取り、剣を構え直したが、肩で息をしている。
この演技に、ジェロームは気付かない。

彼はニヤリと笑い、「うおおおりゃああ!!」と、威勢の良い雄叫びを上げ、突っ込んで行った。

その、ガラ空きになった胴を、エルネストが素早い剣捌きで、斬り付けた。
勿論、深く斬った訳では無い。ジェロームの服が裂かれ、皮一枚切れた程度だ。
だが、ジェロームは愕然としていた。甘く見過ぎた所為だ。

勝負は見えていた。
だが、ジェロームは凄い形相になり、再び剣を握ると、それを振り上げる。

「おまえなんかに、俺が負けるかーー!!」

力一杯振り下ろした剣は、エルネストには当たらず、地面に突き刺さった。
エルネストは彼の首に剣を当てた。

「ひぃ…!」

「良くやったわ、もう良いわよ、エルネスト!」

わたしが声を掛けると、エルネストは剣を下ろした。
ジェロームは膝から崩れ落ちた。


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