【完結】猫かぶり令嬢の結婚の条件☆

白雨 音

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剣術大会は、6日間に渡って行われる、大々的なプロジェクトとなった。

大会の会場は、普段使われていない、町の闘技場を整備し、
従来の観覧席に加え、仮設の席も用意した。
出店も出せる様にしていて、観戦は誰でも自由に出来る。

候補者たちが泊まる宿は、町の宿屋が相談し、クジにより平等に振り分けをした様だ。
候補者の旅費や宿代、闘技場の整備等の費用は、我がブーランジェ伯爵家が持った。
決勝トーナメント戦の前日には、町で前夜祭が催される事も決まっている。

町の人たちも協力的で、通りや闘技場の飾り付けをしてくれたり、
観戦を呼び掛けてくれたりと、大いに盛り上げてくれている。
花火師は花火を上げてくれるというし、楽団は大会の間ずっと付いていてくれ、
花屋は勝者に花の首輪を用意してくれるらしい。

町の人たちのそんな申し出に、父も兄も大変感動していた。
だが、盛り上がりが加速するにつれ、心配にもなっていた。

「リリアーヌ、これだけ盛り上がってしまっては、
おまえは、優勝者が誰であれ、結婚しなければいけなくなるよ?」

「当然ですわ、お父様、わたしの結婚相手を決める大会ですもの」

「しかしね…もし、相手が気に入らなければ、どうするつもりだい?
おまえが悲しい思いをするのは、私も見たく無いよ…」

優しい父の想いに胸を打たれる。
だが、わたしは伯爵令嬢…いや、剣士らしく、キリっと顔を上げ、凛として答えた。

「安心なさって下さい、お父様、これも運命です。
わたしは自分の女としての命運を、この大会に賭けます、誰も恨みはしません。
どの様な結果になったとしても、わたしは受け入れ、幸せになってみせますわ!」

優勝するのはわたし…レオナール=シルヴァンよ!
もし、わたしが負けるとしても、自分より強い者に嫁げるのだから、文句は無い!
出来れば、一緒に剣の道を歩める者がいい___

「ダンジョン巡りも捨て難いけど」

「何か言ったかね?リリアーヌ?」

「いえ!ですので、お父様、わたしの幸運を祈っていて下さいませ」

わたしは二コリと、令嬢らしい笑みを見せた。


しかし、話を聞き付けた、ブーランジェ家の親族たちが、「観戦したい」と言って来た時には閉口した。
ただでさえ、準備や何かで忙しくしているというのに、親族の世話までとなると大変面倒だった。
親族たちは、わたしの夫となる人を精査しよう…という親切心からではなく、
暇潰しの娯楽として来るのだから、たまらない。
だが、断る事も出来ず、仕方なく、ブーランジェの館に泊める事にし、
使用人とメイドを臨時で雇う事となった。

こんな事情なので、エルネストもいつもの三倍は働いていて、
大事な剣術大会の前だというのに、稽古の相手もしてくれない。

「エルネストってば!大会の前位、仕事を休むべきよ!」
「師匠であるわたしを、見習いなさいっ!ての!」
「予選負けなんてしたら、わたしの弟子など、名乗らせないんだから!」
「やあああ!!!」

わたしは独り、エルネストへの愚痴を号令に、木刀を振るのだった。


◇◇


剣術大会の初日___

目が覚めると、薄明りが見えた。
本日、晴天なり!!
わたしは上機嫌でベッドから飛び下り、大きく腕を伸ばした。

「さぁ!今日から始まるわよ!!」


わたしの結婚相手を決める大会なので、わたしは言わば、主賓だ。
わたしは深窓の令嬢らしく、可憐なフリル多めの水色のドレスに着替え、着飾った。
誰もが、競い合いたくなる様な、令嬢でなくてはいけない。

「でも、わたし、いつまで深窓の令嬢でいればいいのかしら?」

ふと、それに気付いた。

夫となる人にいつ打ち明けるか…

「結婚した後だと、詐欺と言われるかしら?
一生、猫を背負って生きていくべき?」

そもそも、エルネストが、
『大抵の男は自分よりも愚かで弱い女性を求めるもの』で、
『あなたより強い男もいる』と言ったのだ。

わたしよりも強い男なら、本当のわたしでも受け入れてくれるって事よね!
そう、単純に思っていたのだが…

「相手の好みを聞いて無かったわ!!」

せめて、『深窓の令嬢』と『剣士の令嬢』、
どちらが好きか位、質問しておけば良かった!!

わたしは内心で頭を抱えたまま、闘技場へと向かったのだった___





町の楽団によるファンファーレが、闘技場の空高く鳴った。

観覧席は満員で、皆の歓迎の中、今日の出場者たちが闘技場へ入って来た。
この盛り上がりに、出場者たちは驚き、そしてまんざらでもない様子だった。
ある者はにこやかに手を振り、ある者は自慢の力こぶを見せる。
そんな中でも、エルネストは『やれやれ』といった調子で、いつも通りに冷めている。

「全く、可愛気が無いわね!あれじゃ、若年寄よ」

わたしは特等席で、肩を竦めた。

『皆さま、本日はお集まり下さり、大変にありがとうございます!』

『この剣術大会は、ブーランジェ伯爵令嬢、リリアーヌ様の結婚のお相手を
決めるものです!出場者の皆様は、正々堂々、騎士道精神にのっとり、
試合に臨む様、お願い致します!
尚、不正や反則行為があった場合、失格と致します___』

進行は兄の友人が買って出てくれたが、中々堂に入っている。
審判には、剣術に長けた者を三人雇った。

『こちらが、ブーランジェ伯爵令嬢、リリアーヌ様です___』

父の挨拶が終わり、司会に名を呼ばれ、わたしは立ち上がった。
自然、二コリと笑い、優雅に礼をしていた。

「おお~」
「あれが、リリアーヌ様…」
「なんと、可憐な…」
「流石、深窓の令嬢だな…」

周囲から、溜息が洩れる…

ああ!無意識に猫が出てしまった!!
長年の賜物で、身に付いてしまっているのだ。
わたしは内心の焦りは抑え、微笑み、席に座った。


『これより、大会予選一日目、A組の試合を行います!』
『一試合目は、エルネスト=ジュレ対ジャン=ヘンリー!』

呼ばれた二人が、闘技場の中央に進み出て、向かい合う。
控えていた者たちにより、二人にペカペカと光る大剣が渡された。

所謂、玩具…模擬剣だ。

最初は木刀にするつもりだったが、「見映えがしない」という意見があった為、
それでは、真剣に…という話になったのだが、
「結婚相手を決める大会で、死者が出ては縁起が悪い!」と、
平和主義の父、母、兄、兄嫁の強い要望により…
真剣に似た、斬れない模擬剣で行う事となったのだった。

模擬剣は、町の職人が丹精込めて作ってくれた。
注文は「兎に角、見映えのする物を!」という事だったらしく…
斬れはしないが、変に怪しい光を放っている。
だが、それは確かに、観衆のテンションを上げていた。

「それに、思い切り、斬り付けられるのも良いわね」

わたしは思わず、令嬢に似つかわしくない笑みを浮かべてしまった。


「さぁ、腕の見せ所よ、エルネスト!」

相手のジャンという男は、随分な大男で、力もあるだろう。
わたしは膝の上で拳を握った。
弟子の晴れ舞台を前に、親の様な気持ちだ。

ちなみに、服装や防具は自由としている。
エルネストもジャンも軽装で防具は付けていない。
どちらも自信家か、自分を過信しているか…
まぁ、エルネストは防具なんて持っていないわね、執事兼、教育係兼、秘書だもの。


『始め!』

号令と共に、ジャンが「うおおお!」と雄叫びを上げ、剣を振り上げて、
エルネストに向かって行った。
これは、剣豪と言うより、野獣だ。

「頭の悪いタイプね…」

この手の相手ならば、エルネストの敵では無い。
エルネストは寸前で身を交わしつつ、ジャンの腹に剣を入れた。

見事だわ!

「ぐう…」ジャンが唸り、腹を押さえ膝を付いた。

「わああああ!」

歓声が上がる。

試合は時間制で、制限時間は5分。
その間に、反則行為があった場合や、相手が「参った」と言えばそれまでだ。
時間が来ると、審判が話合い、判定で勝者を決める。
剣が入る事は勿論だが、膝を付かせる事は大きなポイントとなる。

ジャンは何とか立ち上がると、「うおおおお!」と雄叫びを上げた。
これは所謂、本能的な威嚇行動だろうか?野性的だ。

「この人を夫にするのは嫌だわ…」

何故、書類審査を突破出来たのか、不思議でならない。

ジャンは、少しは学んだのか、剣を大きく振って来た。
もっとも、闇雲に振るので、自棄になっている様にしか見えない。

「美しくないわ…」

エルネストは剣を交わし、ジャンに攻撃を入れる。
大した力では無いと踏んだのか、ジャンはエルネストの攻撃を交わさない。
だが、受け続ければ、それなりにダメージは残るものだ。

ジャンは意識しなかっただろう、その腕は痺れ、剣を落としていた。

ガランガラン!!

「!?」

全く気付いていなかったジャンは、驚愕し目を見開いていた。

『それまでー!』

号令が掛かり、エルネストは剣を下ろした。
この勝敗は、観衆にも分かる事で、審判たちの話合いも直ぐに終わった。

『勝者、エルネスト=ジュレ!』

司会が勝者の名を告げると、観衆は立ち上がって歓声を送り、
楽団による祝福の音が闘技場を包んだのだった。

「ああ…いいわ!!これよこれ!!」

胸が熱くなる。
一緒になり、立ち上がり、エルネストの名を叫びそうになった。

「エルネストは剣も出来たのかい?」
「私、驚きましたわ~」

わたしの隣で、父と母が呑気に驚いている。

彼はわたしの一番弟子よ!!

わたしは内心でニヤリとしたのだった。


その後、二回戦でも、エルネストは危な気無く勝ち、A組の5強に決まったのだった。

「わたしの弟子なら、当然よ!」

勝ち上がった者たちは、観衆から称えられ、手を振り闘技場を周って応えていたが、
エルネストだけは、相変わらず冷めた様子で、つまらなそうに後尾を歩いている。

「もう少し、うれしそうな顔してもいいのに。きっと、根が暗いのね」

わたしは肩を竦めたのだった。

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