【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音

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「おまえが置かれている状況も知らず、貴族の娘の戯れと決めつけていた…
おまえにも抱えているものはあったんだな…
この間は、八つ当たりをして、すまなかった…」

食堂へ向かいながら、イレールに謝られた。
わたしが勘当になった事で、幼い頃の自分と重ね合わせたのかもしれない。
愛されない子供。

理解し合える事は確かにうれしい。
だけど、欲しいのは、同情ではない。
それに、わたしは、両親の愛を欲して、それが得られなくて、誰かに愛して貰おうとしているのではない。

寂しいからでも、誰かの代わりでもなく、あなたが好きなの!

胸の奥で叫ぶ。
だけど、イレールが必要としているのは…理解者かもしれない。

イレールの心の傷を癒してあげたい___

わたしは隣を歩くイレールの手を握る。
イレールは握り返してくれた。

傷を舐め合う行為でしかない。
その先に、愛があるとも思えない。

だけど、きっと、これは、わたしにしか出来ない事だ___


イレールは食事が終わるまで付いていてくれ、
別れ際には、「勉強、頑張れ」と、わたしの頭をぽんと叩いて行った。
急に近くなった距離が、うれしくもあり、悲しくもある…

「悲しいなんて、贅沢よ!イレール様の心に近付く第一歩よ!」

前向きに考える事にし、わたしは去って行くイレールの後ろ姿を、うっとりと見送っていたが、
「ビシュ!!」と、足元を掠めたものに気付き、下を見た。
脹脛に違和感を覚え、長いスカートをそっと持ち上げてみると、
そこには、5センチ程の切り傷があった。

「ええ!?」

みるみる、赤い血が滲み出てくる。
メロディが居れば治癒魔法を掛けて貰えたが、気を利かせて、食堂にも付いて来なかった。
その時は有難かったけど、今は居て欲しかったわ!!

「治癒魔法…医務室よ!!」

医務室の養護教諭ならば、治癒魔法も使える筈だ。
わたしはスカートを抱え、走った。

「ヴィオレット様だ、今度は何したんだ?」
「大人しくしていられないのかねー」

そんな周囲の言葉など、無視だ!
わたしは医務室へ駆け込んだ。

「先生!怪我したの!診て下さい!!」

勢いよく入ったものの、またもや人の気配が無い。

「もう!いつ来ても居ないじゃないの!職務怠慢よ!!」

わたしは仕方なく、靴下を脱ぐと、置いてあった布を足に巻き、止血をした。
そして、薬を求め、棚を漁った。
似た様な薬ばかりだ。

「ヴィオレットは薬学を専攻していないのよね…
イレール様が使っていた薬は何だったかしら??
ああ、わたしにも治癒魔法が使えたら便利だったのに~~!!」

わたしは養護教諭が戻って来るのを待つ事にし、布を濡らし、傷口を拭いた。
まだ血が止まらないし、じんじんと痛む。
わたしは手を翳した。

「魔力はあるんだもの、治癒の一つや二つ、出来なくて、大魔術師になれますか!!」

治れ治れ治れー――ぐぬおおおお!!!

わたしは強く念じ、魔力を注ぎ込んだ。
痛みが消えた気がし、手を放すと、驚く事に傷は消えていた。
傷跡処か、血の跡も無い。
まるで、怪我をしていなかったかの様だ…

「ええ…治癒出来た??
やだ、嘘!?すごーい!やったやったー!
わたしって凄いじゃん!流石、未来の大魔術師ね!」

わたしは医務室だという事も忘れ、飛び跳ねていた。
その所為で、気付くのが遅くなってしまった。

「それにしても、誰がやったのかしら…」

最初は廊下での転倒、そして、鞄への悪戯、スカートを切られ、
とうとう体に傷を付けられた___
ここまで来ると、流石に見過ごせないわ!
それに、エスカレートしてきている。

「何がしたいのかしら?わたしに恨みがあって、傷付けたいだけ?
それとも、学園から追い出したいの?
まぁ、聞いた処で、それを叶えてあげる気は無いけど」

わたしは使った物を片付け、医務室を出た。
教室に戻りながら、ふと、《それ》に気付いた。

廊下で転倒したのは、イレールに声を掛けようとしていた時だった。
鞄の時は、イレールを待ち伏せしていた時。
スカートはその帰りだし、今もイレールと会い、見送っていた…

「いつも、《イレール》が絡んでいる?」

偶然だろうか?
だが、このパターンは、ヴィオレットがメロディを虐めていた時と似ている。

アランに会っているメロディに嫉妬し、立場を思い知らせる為に、
嫌味を言ったり、《平民女》と嘲笑ったり、持ち物を破ったり壊したりしていた。

「イレール様に近付くなという警告?」





放課後、わたしは図書室へ行き、魔法集に治癒魔法の本、魔族関係の本…
目に付いた本を端から取り出し、貸出の手続きをした。
残念だが、これだけ問題を抱えていては、イレール様に会っている暇は無い。
暫くは、朝の挨拶と昼食だけで我慢しよう___

本を山と積み上げ、寮へ向かっていたのだが、不意に視界が開けたかと思うと、
愛おしい顔が目に入り、わたしは反射的に息を飲んだ。

「い、イレール様!?」

胸がドキドキし、顔が赤くなる。
ああ、突然のこの顔面偏差値は、心臓に悪いわ!!

「寮までか?手伝おう」

イレールが本を半分持ってくれた。

「勉強熱心だな」
「休んでいたので、追い付こうと…」

本当の事を言う訳にもいかず、わたしは誤魔化した。
だが、良い機会なので、聞いてみる事にした。

「イレール様は、もし、魔族が襲って来た場合は、どの様に対処されますか?」
「魔族か、俺ならば、魔法、魔剣を使うだろう」

魔族に対抗する武器は、《金の武器》だけだと思っていた。
魔剣というものもあるのね…

「魔剣?イレール様はお持ちなのですか?」
「いや、魔剣は希少で国宝級だ、王族や一部の者しか持っていないだろう」

王族は金の武器だけじゃく、魔剣まで独り占めしてるの!?
王族は国を守る為でしょうけど、裕福層が趣味で保有している場合もありそうね…
世の中金ね!!

「魔剣には劣るが、対魔族の魔法式を組み込んだ剣がある。
普段は普通の剣だが、魔力を込めれば魔族に対抗出来る、
魔力の強い者であれば十分に役に立つ。
良し悪しはあるが、比較的手に入れ易い物だ。
俺は授業を取っていたから、自分の剣に魔法式を入れている___」

授業で作れる物なの!??それは、とってもリーズナブルね!!
今や没落貴族のわたしは目を輝かせた。

「わたし、その、魔族対抗出来る剣に興味があります!
イレール様、どうかわたしに作り方を教えて下さい!」

「教えてやりたいが、学園では授業以外で作る事は禁止されている。
普通でも、魔法式を組むには、免許の取得と許可等、必要だ」

そうですよね…
危険な物や怪しい物が出来上がっても困りますし…
ガクリと肩を落とす。

「三年になって習うといい」

それでは、遅いのよね…
一年以内に魔族が襲って来る可能性は大だもの!

「はい、そう致します…」
「…魔族に関する本が多い、不安なのか?」
「はい、考え出すと気になってしまって…」

魔族の侵攻はあるのかとか、イレール様をどうやって守るかとか…

「最近、良くない事が重なっている所為だろう」

確かに、良くない事が重なっている。
イレールに指摘されて、それに気付いた。
言い訳としては、自然な気がし、わたしはそれに乗る事にした。

「きっと、そうだと思います、不安になっている様です」
「昼間、俺と別れた後も何かあったのでは無いか?噂を耳にした」

もう!!誰よ!!余計な事をイレール様の耳に入れないで欲しいわ!!
スカートを抱えて走っていたとか…
どう想像しても、コントじゃないの!!恥ずかし過ぎるわ!!

「あ、あれは、その…大した事ではございませんので…お忘れ下さい!!」

わたしが真っ赤な顔でワタワタしていると、イレールは嘆息した。

「メロディが言っていた、君は自分の罪を悔いている所為で、
同じ事をされても、当然の報いだと受け入れてしまう処があると。
だが、それでは、根本的な問題は解決しない、相手を付け上がらせる事にもなる。
誰かに何か嫌がらせをされているなら、言って欲しい。その者の話も聞いてみよう」

「イレール様、ありがとうございます、ですが、実は、誰かは分からないのです。
姿処か、気配も感じ無いので、嫌がらせかどうかも分かりませんし…」

「それは、かなりの力の持ち主かもしれない…それで、魔法集を?」

イレールが本に目をやる。
イレールは良く気付く人だわ!

「はい、魔法や攻撃を弾く魔法があれば良いと思って…」

「魔法ならば護符が効くが、純粋に魔法攻撃に対してのものだ。
魔法の火であれば防げるが…例えばこの本を、魔法で動かし投げつけた場合には、
護符で防ぐ事は出来ない」

微妙に役立たず!!
でも、スカートを切られたり、足を切られるのは防げるわね…

「護符は魔石と魔法式の物がある、魔石はやはり高価な物になる。
魔法式の物は発動すれば効果は消えるが、魔力を込めると効果は戻る、
簡単な物だと安価で手に入る。
裕福な家では、代々受け継ぎ持たされる物があると聞くが、覚えは無いか?」

わたしはそれを思い出そうとした。
ヴィオレットは護符には興味が無く、信じないタイプだったし、古臭い物が嫌いだった。
ああ、勿体ない事を!!
わたしは頭を振り、「週末に見に行ってみます」と答えた。

「金はあるのか?」
「少し持っていますし、売る物もありますので、大丈夫です」
「そうか、困った時はいつでも言ってくれ、俺では頼りないなら、アランに頼むといい」

イレールも援助を受け学園に通っている身だ。
それに、イレールの所持金は、彼が働いて稼いだお金だ。
彼はデジー家の養子だが、家族や家に気を遣い、子供の頃から働いていたし、
学園に入ってからも、夏休暇には仕事をしている。
ゲームでは、イレールに会おうとしても、勉強や仕事で会えない場合が多かった。

そんな貴重なお金を、わたしに貸してくれようとするなんて…
ああ、何て優しい人なのだろう…感動で目が潤んでしまった。

「ありがとうございます、イレール様、心強いですわ」

「心配する事は無い、アランもメロディも俺も、君の味方だ、ヴィオレット」

イレールの指がわたしの目元をそっと拭う。
その優しさに、わたしは崩壊してしまった。

わたしは弱い人間では無い筈だった。
両親から冷たくされても、勘当されても構わないし、
意地悪をされれば返り討ちにしてやるつもりだし、
魔族にだって絶対に負けないし、イレール様を守り抜くつもりだったし…

なのに、今、どうして、胸が痛いんだろう…
こんなに簡単に壊れてしまうなんて…

「う…くっ…う、うぇぇ…」

イレールは、わたしが抱えていた本を全て持ってくれ、わたしは思う存分に泣いたのだった。

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