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二度目
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しおりを挟むマリアンヌは志願兵を求めた。
マリアンヌが幾ら聖女であったとしても、隣国を奪う等、出来る筈がない___
志願する者は少なかった。
マリアンヌと親しい使用人たちは、手伝いを申し出てくれた。
マリアンヌは少ない兵と使用人たちを引き連れ、隣国へ向かった。
「隣国を奪うなど、無理に決まっておる!」
王はマリアンヌが死んでくれるのを期待していた。
だが、マリアンヌの死所か、一行が隣国に攻め入ったという情報すら、届かなかった。
どうやら、一行は忽然と消えたらしい。
「逃げられたか!」と、王は怒ったが、民の考えは違っていた。
「神の怒りを買ったのだ!」
「王の所為で、聖女がいなくなってしまった!」
「この国は、もう、お終いだ!!」
民の怒りは王に向けられた。
混乱に陥っていた所、再び城を攻められた。
「我が国が要求するのは、この国の統治、王、妃、王子、王女の身柄である!
大人しく差し出すならば、他の者たちに危害を加える気は無い___」
敵国の騎士団長が降伏勧告を行うと、兵たちは皆、それに従った。
王は暴君で、臣下たちは皆、辟易していたのだ。
王、妃、王子、王女は逃げ出そうとしたものの、自国の側近や衛兵により、
あっさりと捕らえられ、懇願も聞き入れては貰えず、差し出された。
暫くの間という事で、騎士団長が王座に就いた。
マリアンヌの母と姉王女は、危うい立場にいた。
城に残っても、使用人に落とされるだけだろう。
マリアンヌの暮らしを知っていた二人は、ぞっとした。
「あんな風にはなりたくないわね!」
「マリアンヌってば、プライドが無いのかしら!」
これまで二人はマリアンヌを散々に嘲ってきた。
自分たちもそうなるのだと思うと、耐えられず、
二人は権力者である騎士団長に狙いを定め、取り入る事にした。
だが、厳格な騎士団長は嫌悪し、即座に二人を捕らえ、
王たちと一緒に敵国に送る事にした。
王、妃、王子、王女、マリアンヌの母、姉が、敵国に連行されて行くのと入れ替わりに、
マリアンヌが城に戻って来た。
今回の事は、マリアンヌが策を練り、敵国に持ちかけた事だった。
マリアンヌの願いは、「国から戦を無くし、泰平の世を作る事」だった。
敵国はマリアンヌの話に乗り、敵国の名のある要人に国を統治させる事にした。
事実上、敵国の地になったと言えるので、
敵国の王は「戦わずして手に入るなら、これ程楽な事は無い」と、喜んだ。
マリアンヌと一行は、自国の王の目を欺く為、敵国に身を潜めていた。
その間に、マリアンヌは敵国の土地の瘴気を祓い、土地を豊かにしていった。
王は喜び、マリアンヌが連れて来た兵たちや使用人たちに、土地を与えた。
今は、皆、そこで暮らしている。
国に戻ったマリアンヌは、新王に結婚を迫られるも、断り、
生涯、国を巡り、瘴気を祓い、民の為に尽くした。
マリアンヌがその寿命を終えるまで、国では一度も戦が起こる事は無かった。
その二百年後、大きな戦いが起こった際、隣国と統一され、
我がロクザンプール王国が誕生した___
◇◇
本を読み終えたわたしは、「ほう…」と息を吐いた。
マリアンヌと自分が重なる部分があり、複雑な思いだった。
結局、マリアンヌは許されたのだろうか?
女神から力を与えられた時に、許されたのだろうか?
許されたかどうかは分からないが、
マリアンヌはそれよりもずっと以前に、苦しみから解き放たれていた…
「ああ、わたしも、マリアンヌの様に生きたい!」
わたしの贖罪は、リアムに会わない事だったが、
それだけでは足りなかったのだ___!
わたしも、マリアンヌの様に、罪を償いたい!
わたしは強い思いに突き動かされていた。
神父を訪ね、本を返し、それを申し出た。
「わたしにも、何か出来ないでしょうか?誰かの役に立ちたいのです!」
「そうですね…それでは、子供の聖歌隊に入りますか?」
「歌を歌う事が、役に立つのですか?」
「はい、神に捧げる歌です、それに、聖歌隊の歌は、皆を元気付けます」
わたしは目の前が、パッと開けた気がした。
「わたし、やってみたいです!」
「練習は週三日、午後の二時間です。
まずは、ご両親から許可を頂いてきて下さい」
わたしは急いで館に帰り、両親の許可を求めた。
だが、思うよりも、すんなりとはいかなかった。
両親は急な事に驚いていたし、乗り気では無かった。
「聖歌隊?同じ年頃の子とはいえ、皆、平民の子たちだろう?
男の子たちもいる…ジスレーヌが、その中でやっていけるか…」
「そんなの、危ないわよ!暴力を振るったり、酷い事を言う子もいるから…」
「それなら、一度だけ!行ってみなくちゃ分からないし、それに、平民の子だって、
わたしたちと同じ人間よ!」
両親は目を丸くした。
「ああ…だがね、世の中には、話の通じない者もいる」
「そうよ、あなたの優しさに付け入って、騙すかもしれないわ」
それは、もう、経験済よ!
わたしは心の中で言っていた。
「そうならない為に、世の中を知りたいの!
お願いです!酷い所だったら、諦めます、だから、わたしに機会を下さい!」
わたしが必死で頼み込むと、渋々ではあったが、
「それなら、一度だけ…」と許してくれた。
「ありがとう!お父様、お母様!愛してるわ!」
わたしは両親に飛びつき、頬にキスをした。
両親は呆れながらも、うれしそうに笑っていた。
「ジスレーヌもしっかりしてきたな…」
「本当に、あの子がこんな事を言い出すなんて、思いませんでしたわ…」
「時々、妙に大人な事を言う…」
「ジスレーヌは飲み込みが早いって、先生も言っていましたわ」
両親の会話に冷や冷やしつつ、わたしは部屋を後にした。
◇◇
練習の日、いつも教会に付いて来てくれていた、侍女のロラがお守役を買って出てくれ、
わたしはなるべく質素なワンピースに着替え、教会に向かった。
「よく来ましたね、ご両親から許可は頂けましたか?」
神父はわたしの事を覚えていてくれた。
「はい!今日からよろしくお願いします!」
子供の聖歌隊は、九歳から十四歳までの町の子供たちで、二十人程度だった。
賑やかに話していたが、神父が手を叩くと話を止めた。
「彼女はジスレーヌ、新しい仲間です、皆、仲良くしてあげて下さいね」
神父が紹介してくれ、わたしは歌の指導教師の修道女メアリに預けられた。
「声を聞きたいから、ピアノに合わせて声を出してみて…アーーーーーー」
わたしはその声の大きさに、ビクリとした。
「ジスレーヌ、声を出して」
「アーーーー」
言われるまま声を出したのだが、思った以上に小さかった。
後ろに並んだ子供たちが「くすくす」と笑う。
わたしは恥ずかしく、顔が真っ赤になった。
だが、修道女メアリは全く気にせずに、続けた。
「いいわよ、続けて、アーーーーーー」
ピアノの音階が上がって行くのに合わせ、わたしは必死に声を出した。
「いいわよ、ジスレーヌ、でも、まずは発声練習をしましょう。
それから、あなたにはソプラノに入って貰います____」
わたしは皆と別れ、隣室で発声の練習をした。
これが出来るまでは、皆の中に入れないらしい。
わたしは皆に追いつこうと、必死に取り組んだ。
気付くと、隣室からは、見事な讃美歌が聞こえてきていた。
自分も同じ様に歌えるか、自信は全く無かったが、
「努力するの!マリアンヌ様だって、最初は上手く出来なかったもの!」と、自分を鼓舞した。
◇◇
発声や歌の基礎を習い、聖歌隊の歌を聴いて覚える。
わたしは館に帰ってからも、一人で練習した。
わたしは楽譜を読む事が出来、ピアノが弾けるので、曲を覚える事は得意だった。
だが、思う様に声は出てくれなかった。
練習を重ね、一週間後___
「良いでしょう、良く頑張りましたね、今日から皆と一緒に歌いましょう」
わたしは漸く、皆の中に入り、一緒に歌う事が許された。
わたしは十歳で、聖歌隊の中でも小さい方なので、前列の端に迎えられた。
「良かったね!」と声を掛けて貰い、「ありがとう」とはにかんで答えた。
最初は緊張したが、ピアノが流れ出すと、皆に合わせ、声を出していた。
◇◇
両親は心配していたが、聖歌隊の子供たちは、平民の子たちではあるが、
裕福な家庭の子たちが多く、皆、行儀が良かった。
教会で走り回る事も無く、練習が始まるまでは賑やかにしているが、
始まると途端に真面目になり、ピンと背を正し、口を大きく開けて歌った。
その歌声は素晴らしく、天使の声を思わせた。
「あなた、貴族って本当?」
「馬鹿!貴族に話し掛けたら、首を刎ねられるんだぞ!」
「貴族だけど、仲良くしてね、ジスレーヌって呼んでね」
わたしはなるべく愛想良く言った。
一度十九歳まで生きているからか、皆が可愛く見えた。
「あたし、レナよ、よろしくね!」
「あたしは、ミラ!」
「メリッサよ!」
ほとんどの子たちは、貴族令嬢に興味津々で、良くしてくれた。
残りの子たちは、目障りに感じていた様だ。
「貴族は、聖歌隊に来ないで欲しいわ」
「なんか、浮いてるよねー」
「きっと、教会に、すげー寄付したんだよ」
「でも、彼女、貧乏貴族なんじゃない?」
「服がダサイもの!」
悪く言われると、自分が何かしてしまった気になったが、
「これは、贖罪だもの」と自分に言い聞かせた。
そして、なるべく目立たない様に、皆と同じ様にしようと努めた。
なので、ブルネットの髪はいつも二つの三つ編みにし、
ワンピースは町娘が着る物を買って貰った。
歌で、皆の役に立てるようになろう。
神様は、平民も貴族も、《同じ人間》だと言うわ。
皆の声と同じ、わたしの声も神様に届く筈___
◇◇
わたしは練習時間よりも少し早く教会に行き、礼拝堂で祈る様にしていた。
ある時、修道女が掃除をしているのに気付いた。
「わたしにも、何かお手伝いさせて下さい」
わたしが申し出ると、お守役の侍女ロラは慌てた。
「ジスレーヌ様!その様な事をなさってはいけません!
旦那様や奥様に叱られます!ここは、私が…」
「わたしがやりたいの、これも、神様へのご奉仕でしょう?
お父様もお母様も気を悪くしたりはしないわ」
「良い心掛けですね、きっと神のご加護がありますよ」
修道女は微笑み、わたしに布を渡してくれた。
それから、掃除のやり方を教えてくれ、わたしは礼拝堂のテーブルを、心を込めて拭いていった。
それから、わたしは教会に訪れる度、何かしら手伝いをさせて貰う様になった。
ロラには見ていて貰い、分からない事は彼女に教えて貰った。
「ああ、ジスレーヌ様、磨き粉を付け過ぎです!床が傷みますよ…」
ロラは侍女なので、一通りの掃除や家事は出来る。
しかも、驚く程、手際が良いし、物知りだ。
わたしはその事に、改めて気付かされたのだった。
「ロラは凄いのね、いつも教えて下さって、ありがとう」
「そんな!大袈裟ですよ!この位、侍女なら当前です」
「それなら、侍女は皆凄い人たちだわ!」
「ジスレーヌ様ってば…」
ロラは頬を赤くし、照れていた。
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