【完結】愛に溺れたらバッドエンド!?巻き戻り身を引くと決めたのに、放っておいて貰えません!

白雨 音

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「大変だ!」
「早く来てくれ!こっちだ!」

何やら騒々しい。
何か大変な事が起きたという事は分かった。
どうしたのだろう?
わたしは黄昏に染まる空から、視線を地面に移した。

「ジスレーヌ!」

リアムの声に、わたしはドキリとした。
何故か、リアムがわたしの体を揺さぶり、叫んでいる。

《リアム様?》

わたしは声を掛けたつもりだったが、声は出ていなかったのか、
リアムは気付かない。
困惑していると、スッと、体が動き、気付くと、わたしはリアムの側で、《自分》を見下ろしていた。

《!?》

全身ずぶ濡れとなり、汚れ、顔は恐ろしく蒼褪めている。
目を閉じ、唇も動かない。
まるで、死んでしまったかの様に___

《ああ!》

わたしはそれを思い出した。
わたしはリアムから婚約を解消され、自暴自棄になり、自害したのだ。

リアムの婚約者として、生を終えたかった。
リアムのいない、この先の人生など、わたしには無意味に思えた。

「ジスレーヌ!どうしてこんな事を…!!」

リアムが泣いてくれている…

《わたしの為に、泣いて下さって、ありがとうございます…》
《まだ、少しでも、わたしを愛してくれていた?》

少し寂しくあったが、少しうれしさもあった。
わたしは彼の愛を完全に失ってしまったと思っていたから…

リアムは酷く取り乱していたが、やがて落ち着いたのか、
わたしの体に布を被せ、抱き上げると、運んで行った。

《さようなら、リアム様…》

わたしはリアムが見えなくなるまで見送った。
それから、空に溶け込めば消えるかもしれないと、形も重みも無い体…
恐らく魂だろう…で、空に向かった。
だが、幾ら飛び回っても、迎えが来る気配は無かった。

《直ぐに逝けると思っていたのに…》

仕方なく、再び地上に戻り、リアムの元を訪ねた。

驚く事に、そこには、わたしの家族の姿があった。

「ジスレーヌに婚約破棄を言い渡しただと!?
そんな事を言えば、ジスレーヌがどうするか、君は婚約者だというのに、想像も出来なかったのか!」

父が厳しくリアムに責め寄った。
リアムは暗い顔をし、視線を落としていた。

「あの子は、あなたの事をとても愛していたのよ…!
それなのに、婚約破棄だなんて…ああ、可哀想なジスレーヌ!」

母は号泣していた。

「妹は確かに馬鹿な娘だよ、純粋で信じ易く、思い込みも激しい。
俺の忠告など、まるで耳に入っていなかった。
だけど、君の言う事なら聞いた筈だ!君なら正す事も出来た筈だ!
それもせずに、都合が悪くなった途端、切り捨てるなんて…」

《お兄様、違うのよ!》

わたしは兄の忠告をまるで聞かなかった。
だが、リアムの話も聞かなかったのだ___

《リアム様は、何も悪くないの!わたしが悪いの!》
《お父様もお母様もお兄様も、リアム様を責めないで!》

わたしは懸命に言ったが、当然、誰にも届かなかった。

「妹の為にも、俺は絶対に、おまえを許さないからな!
今後、我が一族は、デュラン侯爵家とは、どんな取引もしない___」

兄が目を強く光らせ、言い放った。
リアムは一言も言い返さず、ただ、項垂れていた。

《酷いわ!お兄様の馬鹿馬鹿!》
《わたしの事で、報復なんてしないで!》
《リアム様を苦しめないで!》

自分が死ぬ事で、家族が怒りをリアムに向けるとは、思ってもみなかった。
わたしが勝手に自害したのに、どうして、リアムが責められなければいけないのか?
わたしはただ、リアム様の婚約者として死にたかっただけよ___

わたしはどうする事も出来ない苛立ちで、四方八方に飛び回った。
そうして戻って来ると、今度はリアムの父、デュラン侯爵とルイーズの姿があった。

「全く、あなたは何て事をしてくれたの、リアム!
婚約者に、しかも《聖なる泉》で自害されるなんて!ああ、不吉だわ!
ご先祖様もさぞお怒りでしょう、それに、きっと酷い悪評が立ちますよ!
侯爵家の名を貶めたリアムに、侯爵を継ぐ権利はありませんわよね?ヴィクトル」

デュラン侯爵は難しい顔で、低く唸った。

「だが、リアム以外には…」

「ジェシカがおりますでしょう、ジェシカの夫となる者に、侯爵を継いで貰えば良いのです」

侯爵は渋っていたが、ルイーズは強く進言した。

「まだ分かりませんの?誰が継いでも、リアムよりはマシというもの!
私が本当の母親なら、即刻、勘当している所ですよ!
あなたが優し過ぎるから、リアムも付け上がるんですよ!
リアムに任せていたら、侯爵家は終わりだわ!」

ルイーズが恐ろしい形相で、リアムを見た。
それは、わたしが知るルイーズとは違っていた。

彼女は、リアムを愛し、本当の息子の様に思っていると言っていたのに…
今のルイーズからは、リアムへの憎しみしか感じられない。
母親としてリアムを慰める所か、逆に酷い言葉で詰り、責め、
「追い出すのが当然」と言っている___

「ルイーズの言う事も一理あるだろう…リアム、暫く、遠くへ行くといい。
おまえは少し休む必要がある。
それに、おまえがここに居ては、騒ぎも収まらないだろう___」

侯爵の決断に、ルイーズは嘲笑うかの様な、勝ち誇った笑みを見せた。

《ルイーズ様…どうして?》

ルイーズが部屋を出て行くのを、わたしは追い駆けた。
ルイーズが自室に戻ると、そこには娘のジェシカが待っていた。
ジェシカは振り返ると、満面の笑みで迎えた。

「お母様!どうだった?リアムを追い出せた?」

開口一番に飛び出した言葉に、わたしは愕然となった。

リアムを追い出す!?どうして!?

ジェシカは、リアムとは異母兄妹だが、リアムを慕っている様に見えていた。

『あたし、お兄様の事、大好きよ!』
『だから、ジスレーヌとも仲良くしたいの!』

だが、思い返してみれば、ルイーズもジェシカも、「大好き」、「愛してる」とは言っても、
具体的なエピソードを聞いた事は無かった。
それに、彼女たちが一言でも、リアムを褒めた事はあっただろうか?

わたしは、もしかしたら、とんでもない間違いをしていたのではないか…?

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