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打ち上げの場所は、学園の食堂に決めた。
休日だが、大会があるので、開けてくれていたのだ。
大人数で移動を始めた時だ、パトリックがわたしの隣に来て、小さく言った。

「ドレイパー、一応、エリーに謝っておいた方がいいんじゃないかな?
こんな試合で確執を持つなんて、馬鹿らしいよ」

わたしは《炎の連隊》チームの方に目を向けた。
彼等は優勝旗とトロフィーを手に、喜びに沸いていた。
エリーはブランドンの側で笑っている___

「そうね、一応、声を掛けておくわ…」

悪役令嬢としては「必要無い」と思えたが、ブランドンと拗れるのは避けたかったし、
パトリックに変に思われてもいけない。
パトリックとクララは「一緒に行く」と言ってくれたが、断り、先に食堂へ行って貰った。

好意はうれしいんだけど…
二人が一緒だと、更に拗れそうだ。

わたしが近付いて行くと、逸早くブランドンが気付き、エリーを守る様に前に出た。
今まであった笑顔を引っ込め、不機嫌な顔でわたしを睨む。

ああ…ブランドンとは、これまでかしら?
だけど、ブランドンルートは、絶対に避けなきゃ…
ブランドンに待ち受けるのは、《死》だ___

「ドレイパー!エリーを傷つける為に、試合を利用するなんて、おまえを見損なったぜ!」

「わたしはそんな事、していないわよ」

寧ろ、それを考えていたのは、エリーだ。
彼女は一球目からわたしを狙ってきた___
わたしは、ふと、それに思い当たった。

エリーに危険球を投げた事で、皆が怒り、わたしを狙って来た。
観覧していた生徒たちはわたしを責め、メンバーたちからも悪く言われた。
わたしを陥れる為に、エリーが企んだことなら…
可能だわ___!

「図々しいんだよ!エリーには二度と近付くんじゃねーぞ!!」

「あなたは関係ないでしょう、ブランドン!わたしはエリーに謝りに来たのよ!」

わたしは凛とした声を放った。
ブランドンは驚いた様に息を飲んだ。
だが、後ろにいたエリーが、「いや…あたし、怖い!」とブランドンに抱き着き、
彼はわたしを手で退けた。

「ほらみろ!エリーが怖がってるだろ!
あんな事しておいて、謝って済まそうとか、虫が良すぎるんだよ!」

カッとしたが、歯噛みし、それを抑えた。
わたしは大きく息を吸い、声を張り上げた。

「エリー!あれは、わたしの魔法ではないわ!
だけど、ボールが怖いなら、試合には出るべきではなかったわね!
わたしなら、どんな危険球でも防御出来たけど、あなたは見てただけ?
首席なのに、ガッカリだわ」

「お、おまえっ!」

「そうそう、ブランドン、あなたも見てただけだったわね!
わたしなら、簡単に撃ち落としたわよ?ボールが破裂する前にね!」

ブランドンが唖然とする中、わたしはさっとスカートを翻し、立ち去った。

熱くなっていた所為か、思考が鈍っていた様だ。
冷静に考えてみれば、色々と不自然な所が見えて来た。

エリーは二年の首席で、魔力も高く、その腕も評価されている。
危ないなら、防御魔法を使えば良かったのだ。
エリーはそれをしなかった。
仲間も、フォローするべき所を、フォローしなかった…

これは、《炎の連隊》チームが仕掛けた罠?
それとも、誰かの陰謀?

「恐らくは、エリーだと思うけど…」

証拠が無いし、証明も出来ない。
エリーはヒロインだし、彼女の為に、世界が動いているのかもしれない…

「ったく!そんなの、悪役令嬢如きが、太刀打ち出来る訳ないじゃない…!」


半ば自棄になりつつ食堂へ行くと、
《百花繚乱美しき薔薇》チームとファンダムの子たちが、
テーブルを繋ぎ合わせ、長く大きなテーブルを作り、賑やかにしていた。
テーブルには紅茶のポット、カップが置かれている。

「アラベラ様!こちらです!」

わたしを見つけたクララが席を立ち、笑顔と共に、大きく手を振った。
クララの隣の席は、当然の様に、パトリックが陣取っていた。

「ドレイパー、エリーはどうだった?」

わたしは「ああ、んー」と何とも言えず、苦笑し、頭を振った。
パトリックは顔を曇らせたが、思い直したのか、「気にする事ないよ」と励ましてくれた。

ドロシア、ジャネット、ファンダムの子たちの機嫌もすっかり直っていて、
わたしを見て、皆が立ち上がった。

「アラベラ様!この様な会を開いて下さり、私たちまで呼んで下さって、
ありがとうございます!アラベラ様はファンダムの女神だわ!」

崇められてしまったわ。

「いいのよ、今日は皆、ありがとう!
ファンダムの皆も、回復薬の差し入れなんて、気が利いていて、驚いたわ!
それじゃ、《百花繚乱美しき薔薇》チームの準優勝を祝って、楽しくやりましょう!」

「わあ!」と盛り上がる。
調理場から、続々と料理が運ばれて来た。

「準優勝だって?おめでとう!皆、お腹空いただろう?沢山食べな!」

大きな皿に、小さなサンドイッチが、これでもかと盛られている。
他にも、スコーン、ビスケット、ケーキ…どれも美味しそうだ。

「ありがとうございます!美味しそう!」
「ああ、お腹ぺこぺこだわ!」
「あなた、応援してただけでしょう!」
「ジェローム様!試合、素敵でした!」
「ふっ、観てくれて、ありがとう」

そんな、賑やかで楽しい雰囲気を破ったのは、優勝チーム、
《炎の連隊》のメンバーたちだった。
彼等も食堂で戦勝会をする事にしたらしい。
食堂に入って来るなり、こちらを睨み、ブツブツと言い立てた。

「フン!あいつら、あんな試合しておいて、パーティしてるぜ!いい気なもんだな!」
「恥ずかしくないのかねー」
「だから、出来るんだろ」
「あいつ等が居るから、エリーが来これないってのにさー」

エリーはそれを言い訳に来なかったらしい。
ブランドンの姿も無い…
これは良く無いわよね…
わたしが思いを馳せたのは、ブランドンルートを懸念したからだったが、
そんな事等知らない皆は、わたしが傷付いたと思ったのだろう、慰めてくれた。

「アラベラ様の所為ではありませんわ!」
「そうだよ、エリーは何か勘違いしているよ…」
「全く!アラベラ様の所為にするなんて、お門違いですわ!」

ファンダムもいきり立ち、堂々と言い返した。

「ふん!あなたたちの目が節穴なのよ!」
「これまでの素晴らしい戦いを、ご覧になっていないのではありません?」
「一回戦、二回戦と圧倒的強さをご存じなくて?実力は歴然ですわ!」
「ふん!危険球位!《ラピッドシュート》には付きものですわ!」
「惜しくも、優勝は譲りましたけど…」
「《百花繚乱美しき薔薇》チームは、準優勝に相応しいチームですわ!」

思ってもみなかったのだろう、猛反撃を受け、《炎の連隊》チームの面々は、
言い返す言葉も無く、すごすごと離れたテーブルへ行っていた。

何と言っても、こちらは《百花繚乱美しき薔薇》チームに加え、四十人程のファンダム付きだ。
《炎の連隊》チームは十人程度で、核となるブライアンも居ないし、
唯一の女性であるエリーも居ない。ファンダムなど、当然、無い。
彼等は、優勝チームに似つかわしく無く、ひっそりと戦勝会をしていた。


楽しい食事会を終え、それぞれ寮へ帰った。
女子生徒多数の中、男性はジェロームとパトリックだけで、
ジェロームは兎も角、パトリックは居心地が悪いのでは?と心配したが、
そこはそれ、隣にクララが居るだけで、彼は満足していた。
今も熱い視線をクララに向けている…

「それじゃ、週明けにね、クララ…ドレイパーも」

わたしは《ついで》である。
まぁ、パトリックルートが潰せるんだもの、許すわ!

「うん、またね、パトリック」
「パトリック、今日はありがとう!」

パトリックが居なければ、決勝までは勝ち残れなかっただろう。
そのお礼は、この食事会で十分でしょうけど!

パトリックと別れ、寮へ向かう途中、わたしはクララに提案した。

「クララ、明日、ハンナと出掛けて来なさいよ、今日の活躍を話すといいわ!
ハンナにも言っておくわね、昼前でいい?」

クララは驚きつつも、うれしそうな顔をした。

「アラベラ様、いつも良くして下さって、ありがとうございます。
姉はアラベラ様の元で働く事が出来て、とても喜んでいます。
アラベラ様は立派な方で、お世話が出来て光栄だと…」

「そんな大したものじゃないわよ、ハンナが大袈裟に言っているのよ!」

わたしは笑ったが、クララは真面目な顔で、「そんな事ありません!」と
大きく否定した。

《悪役令嬢》としては、微妙だけど…
ハンナとクララの気持ちは、正直、うれしかった。
誰に嫌われても、好きでいてくれる者がいれば、心は穏やかでいられる。
わたしは心に沁み、小さく笑い、頷いた。


部屋に戻ったわたしは、早速ハンナに話した。

「明日の昼前に、クララを迎えに行ってあげてね。
ついでに、大通りへ行って貰える?
買い物を頼みたいの、残りは手間賃よ、二人で食事でもしてね___」

わたしはお金と買い物リストを渡した。

「はい、ありがとうございます、アラベラ様」

「いいのよ、今日はクララを引っ張り回しちゃったから、明日は二人でゆっくりしてね。
帰りは日が沈む頃でいいわ」

「アラベラ様、試合はいかがでしたか?」

「楽しかったわよ!だけど、先にクララに話させてあげたいから、明日まで待ってね。
疲れたから、お風呂に入ってもいい?」

「はい、直ぐにご用意致します!」

ハンナがテキパキと用意を始め、わたしはローブを脱いだ。

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