13 / 43
13
しおりを挟む「あいつ馬鹿じゃね?」
「自分で足滑らせてんの!笑うよなー」
「あいつ、マジでムカつくんだよ…」
「明日もさー…」
放課後、《アラベラの庭》に向かっていた所、数人の男子生徒と擦れ違った。
男子生徒たちはわたしに気付くと、さっと顔を伏せ、走って行った。
わたしを恐れているのかと思ったが、どうやらそうでは無かったらしい…
次に、一人の女子生徒が、のろのろと歩いて来た。
彼女は頭から水を被ったのか、全身がびしょ濡れで、震えていた。
一瞬、エリーかと思ったが、違っていた。
濡れて、棒にも見えるその二本のおさげの髪は、茶色だ。
「あなた、どうしたの?大丈夫?」
わたしが声を掛けると、彼女はビクリとし顔を上げた。
その顔は酷く蒼褪めている。
大丈夫そうではないわね!
「大変!兎に角、拭いて、体を暖めなきゃ!」
わたしは取り敢えず、覚えたての防寒魔法を彼女に掛けた。
「どう?少しはマシになった?」
「は、はい…ありがとうございます…」
「いいわよ、それより、早く医務室に行きましょう!着替えなきゃ!
そういえば、服を乾かす魔法ってないの?わたしは知らないんだけど…」
「私の魔力では、難しくて…」
「そう、だったら、急ぎましょう!風邪をひいちゃうわ!」
わたしが彼女を急かし、校舎に戻っていた時だ。
校舎から、小柄な男子生徒…パトリックが走り出て来た。
「ドレイパー!君、クララに何をしたんだ!」
パトリックが恐ろしい顔をして、わたしを責め始めたので、思わずポカンとしてしまった。
「ここの所、大人しくしていると思っていたけど…僕たちを欺く為だったんだね!
エリーが言っていた通りだ!君を信じた僕が馬鹿だったよ!」
成程、エリーはわたしを疑っているのね…
この間は助けてあげたのに、それも《企み》だと思われていた様だ。
ガッカリするが、ヒロインには、嫌われておく必要がある…
わたしがぼんやりと考えていたからか、パトリックはそれを肯定と受け取った。
顔を引きつらせ、強引にクララの手を掴むと、わたしから引き離した。
あら!男らしい所もあるのね!
感心するも、男らしいパトリックはそこまでだった。
「パトリック、違うの!アラベラ様は、私を助けてくれたの!
アラベラ様に酷い事、言わないで!」
クララに言われたパトリックは、ポカンとし、「え?え?」と、わたしとクララを交互に見た。
わたしも、クララとパトリックを交互に見てしまった。
二人は知り合いなの??
「だけど、その恰好は…?」
パトリックに聞かれたクララは、急に勢いを消し、目を落とした。
「私が、自分で足を滑らせて…池に落ちたの」
パトリックは再び怪しむ顔になった。
「今は冬だよ?池に行くにしては、早いんじゃないの?」
わたしはその時、彼女の前に擦れ違った、男子生徒たちの事を思い出した。
「あなた、虐められているんじゃない?」
わたしが聞くと、クララは体を固くした。
パトリックはというと、息を飲み、クララに詰め寄った。
「虐められてるなんて、僕は聞いていないよ!?
何故、僕に話さなかったんだよ!クララ!」
クララは俯き、身を固くしている。
パトリックには話したくないのだろう…
「パトリック、彼女を責めるのは止めて、早く着替えさせなきゃ!まずは、医務室よ!」
「あ、ああ…ごめん」
パトリックは我に返り、クララを離した。
だが、わたしもパトリックもクララも、冷静では無かったのだろう。
『パトリックの魔法で乾かせば良い』と、誰も思い付かなかったのだから。
「パトリックは、そこで待っていてね」
パトリックには、廊下で待っていてもらう事にして、二人で医務室に入った。
医務室には先生がいて、クララの格好を見て驚いていた。
「まぁ!どうしたの?早く着替えましょう…」
濡れた服を脱がせ、タオルで体を拭く…
幸い、怪我はしていなかった。
借り物の制服に身を包むと、クララも幾らか安堵した様だった。
医務室の先生が魔法で髪を乾かしてくれ、彼女は再びおさげに結っていた。
結わない方が可愛いのに…
「自分で足を滑らせて、池に落ちたんです…」
クララは先生にも同じ事を言っていた。
先生も怪しんでいたが、「何かあれば、いつでも来ていいのよ」と温かい紅茶を出してくれた。
「あなた、パトリックと知り合いだったのね、どういう関係?」
わたしが聞くと、クララは視線を紅茶のカップに落とした。
「親同士が、仲が良くて…パトリックとは、幼馴染です…」
パトリックの幼馴染…
ゲームにそんな子居たかしら?
記憶を辿ったわたしは、それを思い出した。
居たわ!
パトリックの幼馴染の女の子!
クララ・ケード男爵令嬢!
パトリックに片思いをしていて、パトリックルートでは、ヒロインの恋敵になる!
内気で大人しく、パトリックも何かと気に掛けている。
大体の所、パトリックに片思いをしたまま、ゲームは終わってしまうが、
唯一、トゥルーエンドでは、両想いになれていた気がする。
「虐めに遭っている事、パトリックに知られたくないのね?」
わたしが小さく聞くと、クララは顔を赤くした。
成程ね…
この世界でも、クララはパトリックに片思い中らしい。
「パトリックが知れば、守ってくれるわよ?」
クララは頭を振った。
「私、小さい頃から、パトリックに迷惑を掛けてばかりいるから…
私一人でも、ちゃんと出来るって、見せたいんです…」
擁護対象ではなく、対等な女性として、パトリックに見て欲しいのだろう。
「その考えは偉いと思うわ。
だけど、男子から虐められるなんて…放っておけないわ!
そういえば…何故、虐められているの?」
「私が…こんな風だから…見ていて苛々するみたいで…」
クララがもじもじとカップを弄る。
「内気でオドオドしているから?
そんなの、人の勝手じゃない!
放っておけばいいのに、虐めるなんて、許せないわね!」
さて、どうしてやろうかしら?
「クララ、今からわたしとあなたは友達よ!
虐められそうになったら、わたしの名を出すといいわ。
『アラベラ様に言い付けるわよ!』ってね!
わたしは皆から恐れられているから、効果あると思うわよ?」
「でも…アラベラ様にご迷惑が…
それに、私なんかと友達では、アラベラ様が恥ずかしい思いをします…」
「恥ずかしくなんてないわよ!クララ、もっと自分に自信を持って!」
「自信なんて…」
クララがふるふると頭を振る。
「まぁ、いいわ、これからよろしくね、クララ!」
わたしが手を差し出すと、クララは縋る様にわたしを見た。
「あの、本当に?私なんかを…アラベラ様のお友達に、して下さるのですか?」
「《私なんか》って言うのを止めたらね!」
わたしは強引に、彼女の手を取り、握手をした。
「ありがとうございます…
あの、アラベラ様、私が虐められている事、姉には言わないで頂けますか?」
「お姉さん??」
「はい、私の姉は、アラベラ様の侍女をしています…」
ああ!と、それを思い出した。
「あなたが、ハンナの妹だったの!?」
二年Cクラスに居ると聞いていた…
クララは顔を赤くし、頷いた。
「はい…姉から、アラベラ様の事を聞いています…
とてもお優しい方だって…薔薇を下さったり、お休みも下さって…
この間は、姉と一緒にお茶をしたんです…
あんな風に姉と過ごせるるなんて、夢みたいで…アラベラ様のお陰です…」
感謝されているけど…
お休みをあげるのは当然だし、これまでは酷い扱いをしてきた筈だ…
わたしは過去の自分を思い出し、冷や汗が落ちた。
「そ、そう、良かったわね、姉妹仲が良いのね、羨ましいわ!
ハンナは優しいし、良く気が付くの、素敵なお姉さんね。
さぁ、パトリックが心配しているわよ、行きましょう!」
わたしは強引に話を切り上げ、クララの背を押した。
12
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
転生悪役令嬢は婚約破棄で逆ハーに?!
アイリス
恋愛
公爵令嬢ブリジットは、ある日突然王太子に婚約破棄を言い渡された。
その瞬間、ここが前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分が火あぶりになる運命の悪役令嬢だと気付く。
絶対火あぶりは回避します!
そのためには地味に田舎に引きこもって……って、どうして攻略対象が次々に求婚しに来るの?!
派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。
木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。
当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。
私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。
だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。
そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。
だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。
彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。
そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。
第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~
斯波
恋愛
辺境伯令嬢ウェスパルは王家主催のお茶会で見知らぬ令嬢達に嫌味を言われ、すっかり王都への苦手意識が出来上がってしまった。母に泣きついて予定よりも早く領地に帰ることになったが、五年後、学園入学のために再び王都を訪れなければならないと思うと憂鬱でたまらない。泣き叫ぶ兄を横目に地元へと戻ったウェスパルは新鮮な空気を吸い込むと同時に、自らの中に眠っていた前世の記憶を思い出した。
「やっば、私、悪役令嬢じゃん。しかもブラックサイドの方」
ウェスパル=シルヴェスターは三部作で構成される乙女ゲームの第二部 ブラックsideに登場する悪役令嬢だったのだ。第一部の悪役令嬢とは違い、ウェスパルのラストは断罪ではなく闇落ちである。彼女は辺境伯領に封印された邪神を復活させ、国を滅ぼそうとするのだ。
ヒロインが第一部の攻略者とくっついてくれればウェスパルは確実に闇落ちを免れる。だがプレイヤーの推しに左右されることのないヒロインが六人中誰を選ぶかはその時になってみないと分からない。もしかしたら誰も選ばないかもしれないが、そこまで待っていられるほど気が長くない。
ヒロインの行動に関わらず、絶対に闇落ちを回避する方法はないかと考え、一つの名案? が頭に浮かんだ。
「そうだ、邪神を仲間に引き入れよう」
闇落ちしたくない悪役令嬢が未来の邪神を仲間にしたら、学園入学前からいろいろ変わってしまった話。
未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~
キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。
その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。
絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。
今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。
それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!?
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【完結】悪役令嬢になるはずだった令嬢の観察日記
かのん
恋愛
こちらの小説は、皇女は当て馬令息に恋をする、の、とある令嬢が記す、観察日記となります。
作者が書きたくなってしまった物語なので、お時間があれば読んでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる