【完結】濡れ衣の令嬢は、籠の鳥

白雨 音

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幸せに微睡む中、クリスがわたしの髪を撫で、体を起こした。

「ん…クリス?」

わたしは離れて行くクリスを追い、手を伸ばす。
クリスはその手を取ってくれた。

指にキスをされる…


「ミシェル、僕と結婚して、僕の妻になって下さい」

「はい、喜んで、あなたの妻になります、クリストフ!」


◇◇◇


わたしがクリスに囲われてから、クリスが忙しくしていたのは、
公爵に毒を盛った者を探し出し、ミシェルの疑いを晴らす事。
そして、逃亡の準備の為だった。


当初、クリスはわたしを攫い、逃亡する予定でいたという。
公爵毒殺の嫌疑が晴れた事を黙っていれば、わたしはそれに従うより他無い。
だが、クリスは罪悪感に耐えかねて、告白してしまった。
それ程に、わたしを愛していたのだ。


わたしたちは、両親と話を付けた。

わたしは両親に気持ちを伝えた。
罪を自覚し、反省し、この先の生き方で償って欲しいと。
勿論、それは激しく両親の怒りを買った。

「今まで育ててやったというのに、恩知らずめが!」
「よくも、親にそんな事が言えたわね!あなたはミシェルなんかじゃないわ!」
「そうだ!私たちの娘は死んだんだ!!」

両親はミシェルを死んだままにしておきたかった。
その理由は、濡れ衣が晴れた時、ベルナルド公爵イーサンから謝罪があり、
賠償金を貰っていたからだ。
生きていたとなると、それを隠し、賠償金を受け取ったと疑われる。
疑われなくとも、賠償金の返還を求められるかもしれないからだ。

クリスの財産は、全て回収した。
デュラン侯爵家は苦しくなるだろうが、使い込みをしたのは父と母なので、
仕方が無いだろう。
それでも、両親が金を払ったのには、クリスの父、サロモン=ロベールを殺した事、
ミレーヌへの暴行、殺しを隠したかったからだ。
それらに口を噤むのと交換に、財産を回収し、そして絶縁した。


その後、わたしたちは隣国に渡った。

クリスは新しく大学に入り、通いながら、薬屋で働いている。
てっきり、侯爵を継ぐ為の勉強だと思っていたが、それはカモフラージュで、
実際に勉強していたのは、薬学だった。
クリスは最初から、侯爵家を出るつもりで、自立を考えていたのだ。

「愛する人が違う男と結婚するんだよ?
とても、傍には居られないよ、何処か遠くへ行くつもりでいたんだ」

その準備が、今回役に立った。

そして、もう一つ。
クリスはわたしが処刑を免れないと予想し、
『三日仮死状態になる』という薬を見つけ出し、手に入れて来てくれた。
その為に、クリスはあの日まで、会いに来られなかったのだ。

「本当は直ぐにでも会いに行きたかった、牢なんかに入れて置きたくなかった。
だけど、それよりも、救い出す方を優先したんだ…独りにしてごめんね、
心細かったよね?もし、君が自害してしまったらと、気が気じゃなかったよ…」

「でも、会いに来てくれた時、あなたは冷たかったわ…
わたしの死を望んでいるのだと思ったの…」

「演技だよ、君に薬を飲ませる為のね」

クリスの思惑通りに、わたしは行動したという訳だ。
クリス程、わたしを理解している者はいないだろう。


わたしは今の処、家事をするので手一杯だ。
クリスの為に食事を作り、洗濯、掃除…
侯爵令嬢だったわたしには初めての事で、最初の一月は酷いものだった。
クリスに呆れられないかと不安だったが、クリスはわたしの失敗を笑って、一緒に処理してくれた。
失敗を重ねて、早半年、最近では失敗する事も無く、上手くやれている気がする。

今日も、上手にお肉が焼き上がった。
お肉に、野菜の入ったスープ、バケット、チーズ、バター、果物。
デザートのプディングは手作りだ。

今日は特別に豪華にしていた。
その理由は…
わたしは自分の下腹に手を当て、「ふふふ」と笑った。

ガチャ、ガチャ、ガチャリ

鍵を開ける音がし、わたしは椅子から立ち上がる。
扉が開き、愛おしい人の顔が見えた。
わたしの胸は高鳴った。

「ミシェル!」
「クリス!」

クリスは目を輝かせ、高潮している。
きっと、わたしも同じだろう。

「引っ越そう!今週末!」
「子供が出来たの!」

声が揃った。
お互いの言葉を頭で飲み込み…

「子供が!?ああ、ミシェル!最高だよ!!」

クリスはわたしを高く抱き上げた。
ここが広い部屋だったら、クルクル回っていただろう、喜びようだ。

「ミシェル、いつ生まれるの!?」
「春頃だって、お医者様はおっしゃってたわ!クリス、急な引っ越しなのね?」
「うん、大学の講師が一軒家の空き家を紹介してくれたんだ、家族が増えるなら、丁度良いよ!」

今の部屋は、二人で住むには良かったが、アパートメントで、
クリスは一軒家に住みたいと言っていた。
大学を出てから引っ越すのが良いのだが、理由は、夜の行為に集中出来ないから。
思い切り、声を出させてあげたいのだとか…
それを思い出し、わたしは頬を染める。

「ミシェル、そんな可愛い顔をしないでよ…暫くは我慢しないとね」
「お医者様は大丈夫だとおっしゃっていたけど」
「でも、大切にしたいから…」

クリスがわたしに甘いキスをする。

こんな事をされて、我慢出来るだろうか?

「いけないパパね」

わたしはお腹を撫でて言う。

「僕も触ってもいい?」
「ええ、わたしたちの子だもの」

わたしはクリスの手を導いた


《完》
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