上 下
58 / 73
ブラッド領北部と仲よくしよう!

ゼロVSクラウン

しおりを挟む
 クラウンさんと同時に動く! その瞬間右頬に衝撃が走る!
「目で追えてないね」
 クラウンさんが耳元で囁く! 背筋がゾワリとして、反射的に腕を振る!
「遅い遅い」
 クラウンさんは空中に浮いて笑っていた!

「素早さと攻撃力は感心。顔面を殴ったのに無傷なのもグッド。でもそれは赤子とスラ子が凄いだけ。肝心の君が未熟」
 チッチッチッと人差し指を振る。

「分かってますよ」
 右頬を触る。スラ子が咄嗟に守ってくれたので痛みは無い。しかし衝撃で一瞬目が眩んだ。
 何度も食らうと、失神する恐れがある。

「分かってるなら、どうすればいいか考えたほうが良いよ」
 クラウンさんの周りに数百枚のトランプカードが浮遊する。

「避け切れるかな?」
 クラウンさんが両手を動かすのを合図に、弾丸のように飛んでくる!

「く!」
 両腕で顔面を守る! 体中に着弾の衝撃が走る!

「避けなくちゃ」
 左から声が聞こえる刹那、脇腹に衝撃が走る!

「ぐ!」
 蹴飛ばされた衝撃で壁に叩きつけられる!

「隙だらけだよ」
 動く暇もなくクラウンさんの拳が放たれる! 両腕でガードするがお構いなしに叩いてくる!
 防戦一方! 動けない!

「ん!」
 突然攻撃が止む。
 ガードを解くと、クラウンさんは汗びっしょりで十メートルほど飛びのいていた。
 頬には鋭い切り傷が刻まれている。

「大丈夫か?」
 服の中で赤子さんが言う。足元を見ると、影から赤い刃が伸びていた。先端には血が付いている。

「平気です」
 どうやら、赤子さんが業を煮やして攻撃したようだ。追撃しなかったのは、僕が倒すというお願いを覚えていてくれたからだろう。

「ゼロ君、情けないぞ」
 クラウンさんは汗を拭うと微笑む。

「君は自分の力で僕を倒すんだろ? 赤子やスラ子に心配させちゃダメよ」
「分かってますよ!」
 しかし、拳を構えてみたがどうする? クラウンさんは百戦錬磨だ。僕の目では動きを捉えられない。攻撃もおそらくだが、予備動作を見抜かれて当たらない。

 赤子さんとスラ子の性能を持て余す自分に腹が立つ!

「じゃ、一つだけアドバイス」
 クラウンさんは構えを解いて深呼吸する。

「君は一人で戦おうと意地を張っている。でも君一人では勝てない。それは承知だろう? なら、赤子とスラ子の言葉に耳を傾けてごらん」
「言葉に?」
 僕も構えを解いて考える。

「君たちは今、三人で一人の勇者。ならそれを活かさないと」
 クラウンさんが再度構えたので、こちらも構えなおす。

「スラ子、防御頼む。赤子さん、僕はクラウンさんの動きが見えません。どちらへ動くか教えてください」
「分かった。必ず奴の心臓を貫かせる」
「スラ子、ゼロ、守る!」

「ありがとう!」
 クラウンさんに走る!

「右手で殴って来る。顔面で受けて殴り返せ」
 走り出した瞬間、赤子さんから指示が飛ぶ!
 赤子さんの言う通り防御せず突っ込む! 防御はスラ子に任せた! 僕は攻撃だけ考える!

「ふ!」
 左頬に衝撃が走り、クラリと脳が揺れる! だけど怯まない! 一歩踏み込む!

「そこだ!」
 赤子さんの声を頼りに拳を振る!

「がは!」
 拳はクラウンさんの胸に命中した。

 バキバキと嫌な感触が拳を包む。

「が! おえ!」
 クラウンさんは胸を押さえながらたたらを踏む。

「い、いい、さついだったよ」
 そして屋上から落ちた。

 急いで飛び降りる。

「クラウンさん……」
 クラウンさんは虫の息で、大の字に倒れていた。



「い、や、まけ、ちゃった」
 血の泡を出しながら笑う。

「で、も……ま、だ、いきて、るよ?」
 じっと僕を見つめる。

「赤子さん、スラ子。いつも通り、ポケットと影に隠れてください」
「良いのか?」
「ゼロ、危ない」

「最後は、僕だけの力で終わらせます」
 傍に落ちていた剣を拾う。

 そしてクラウンさんの頭に回ると、切っ先を喉に向ける。

「僕は万年都を守る。だからこそ、あなたを殺します。あなたは許されないことをしたから」
「そ、だね……ゆるし、たら……また……ころ、しに……いくから……」
 クラウンさんは全てを受け入れた目で見つめて来る。

 凍り付いたように、体が動かなくなる。

 突き刺すだけ、それだけの行為なのに、とてつもなく怖い。

 クラウンさんの目が怖い。血が怖い。悲鳴が怖い。

 人を殺すのが怖い。罪を犯すのが怖い。

 でも、やらないといけない。

「ない、てる?」
 クラウンさんは薄く見開いた目で言う。
 気づいたら、僕の頬に沢山の涙の筋ができていた。

 クラウンさんは大きくせき込むと、優しく笑いかける。

「こんな、ぼくのために、ないてくれて、ありがとう」
 浅く早い呼吸音が耳にこびり付く。

「そうだ、ぼくは、きみに、ないてほし、かった。ぼくの、ために」
 クラウンさんも涙を流す。

「ありがとう」
 とてもはっきりした声が、胸を締め付ける。

「……クラウンさん」
 僕はクラウンさんを一目見ただけで好きになった理由を思い出す。

 この人はあの時、僕に楽しんでほしいと、心の底から望んで、手品を見せてくれた。

「初めて会った時に見せてくれた手品。とっても、素敵でした。ありがとうございます」
「……ぼくも、きみにみてもらえて、ほんとうに、うれしかった」

 クラウンさんが目を瞑った瞬間、剣を喉へ突き刺す。

 ガスリと骨を削る感触がした。

「クラウンさんは死にました! 降伏してください!」
 腹の底から叫ぶ。



 戦争は終わった。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...