上 下
33 / 44

管理者たちの動向

しおりを挟む
「ヘクタール、傷の具合はどう?」
 ヴィーナスシティの一室で、ヴィーナスシティの管理者サニーがベッドで休むヘクタールに話しかける。
「だいぶ、良くなった」
 ヘクタールは包帯越しに腹の傷をさする。
「全く、凄まじい男だ。手負いでなければ即死だった」
 ヘクタールはベッドから起き上がると笑みを浮かべて、酒瓶を持つ。
「こら! まだけが人なんだからお酒なんてダメよ!」
「飲んだほうが傷の治りが早くなる。知らなかったのか?」
「嘘つくんじゃないの!」
「ごちゃごちゃうるさい奴だ」
 ごくごくと酒瓶を飲み干す。
「ラーグの容体はどうだ」
「手紙で順調に回復してるって連絡あったわよ!」
 ヘクタールが次の酒瓶に手を回そうとすると、サニーはその前に没収する。
「そいつはいいことだ。あいつは戦力として重要だからな」
 ヘクタールは葉巻に火をつける。
「またあいつと戦うつもり?」
 サニーは心底嫌という思いを込めて聞く。
「あいつの狙いは代行者を殺すこと。必然、俺たちとぶつかる」
 ヘクタールはカーテンを開ける。地平線から日差しが差す。
「しかし、この街は少女趣味全開だな」
 窓の外は、城の花壇、干された真っ白なシーツにタオル、小奇麗で中世的な街並みが見える。
「どこが少女趣味なのよ!」
「工場が無ければ街も清潔すぎる。綺麗好きにも限度がある。それにいくら金を使っている?」
「清潔なのはいいことでしょ!」
「兵士たちの服装や装備はなんだ? まるでおとぎ話の騎士じゃないか。あんな派手な物、パレードでしか見ない」
「戦争する必要ないからあれでいいんです!」
「だいたい何で女ばかりなんだ? 男も居ないと不便だろ」
「別に選んでるわけじゃありません! 粗野で不潔な男が嫌いなだけです!」
「国を運営するなら鼻をつまむことも必要だぞ」
「私の国なんだから放っておいて!」
「はいはい。悪かったな」
 ヘクタールはため息を吐いてベッドに座る。
「ところで、メリーからの連絡は?」
 サニーは顔を曇らせる。
「なるほど。代行者は相当怯えているようだな」
「ヘクタール負けた。仕方ない」
 ヘクタールたちは部屋の隅に顔を向ける。少女メリーが立っていた。
「ヘクタール、一番強い。でも負けた。あの人驚いた。だからわたし離さない。わたし捕まったら殺されると思ってる」
「俺に匹敵する奴は管理者でも数えるくらいしかいないからな」
 ヘクタールはお菓子を持つとメリーの前で屈む。
「よく来てくれた」
 ヘクタールはメリーにお菓子を渡すと頭を撫でる。メリーの頬が緩む。
「それで、何かあったのか?」
「あの人の伝言。狂太郎殺せ。早く」
「それができたら苦労しないわ!」
 サニーはベッドの足を蹴っ飛ばす。
「あいつは何か私たちに魔法でもプレゼントしないの!」
「しない」
「調子いいわね!」
「あと、報告会中止。狂太郎死ぬまで」
「徹底的に引きこもるつもりか。臆病な奴だが、変に口を出されても困るから丁度いい」
「あと、狂太郎、今アルカトラズ居ない。プリズム行った」
「何だと! どうやってそれを知った!」
 ヘクタールは目の色を変える。メリーは目をパチパチさせる。
「ワープした。アルカトラズ行ったら、狂太郎車乗ってた。女がプリズム行くって言ってた」
「無茶をするな! 狂太郎に見つかったら殺されるぞ!」
「大丈夫。すぐ逃げた」
「あいつはラーグの力を得て、体を電気に変えられる! だから電気と同じ速さで動ける! 逃げる暇はない!」
「でも、逃げれた」
「そうじゃない! もうそんなことはするな! 絶対に!」
 ヘクタールに怒鳴られると、メリーが大粒の涙を流す。
「わたし、悪い子?」
「違うわ。ただあなたが心配なだけ」
 サニーは優しくメリーを抱きしめる。
「私たちのためにアルカトラズへ行ってくれてありがとう。凄く嬉しいわ。でも、もう行かなくていいわ」
 サニーは泣きじゃくるメリーの背中を摩る。
「メリー、すまない。怒鳴って悪かった」
 ヘクタールは笑顔を作り、メリーの頭を撫でる。
「怒ってない?」
「怒ってない」
 メリーは涙を袖でグチグチと拭うと花のような笑顔を見せる。
「それはそれとして、狂太郎がアルカトラズに居ないなら、アルカトラズを取り戻すチャンスじゃないの?」
「今更アルカトラズを取り戻しても意味がない。拠点としているようだから、破壊する意味はあるだろうが」
 ヘクタールは深いため息を吐く。
「あいつは電気と同じ速度で動ける。つまり瞬間移動ができる。アルカトラズが騒げば、すぐに駆けつけてくるだろう」
「でも、私たちが確認したのは体を電気にするまで。電気と同じ速さで動けるかは分からないわ」
「命を懸けて試す価値はない」
「そう……ね……でも、あいつの仲間を殺すチャンスじゃない? そうすれば少しは被害を減らせる」
 サニーの瞳が殺意を秘める。
「私の能力ならできるわ!」
「ダメだ」
 ヘクタールはスッパリと計画を否定する。
「狂太郎は単独で国を亡ぼせる力を持っている。仲間を殺したところで焼け石に水だ」
「じゃあ、どうしたら?」
 サニーが不安げに体を震わせる。メリーは幼い瞳で二人を見つめる。
「手が無い訳ではない。危険な賭けになるが」
 ヘクタールは力強く笑い、二人の頭をぐしぐし撫でる。
「まずは、俺の傷が癒えてから。その後、管理者たちに協力を求めよう。三本の矢ならぬ百本の矢だ! 必ず倒せる! だから安心しろ」
「でも、狂太郎、不老不死」
「だから何だって話だ。体を電気に変えようが、時を止められようが、不死身だろうが、弱点はある。必ずな。ただ、まだ気づけていないだけだ。俺たちも、狂太郎も。だから安心しろ。俺が必ず、お前たちを守る」
 メリーは満面の笑みでヘクタールを抱きしめる。
「何だか、楽しそうね」
 サニーは朗らかに笑う。
「少しだけね。何せ、前世で殺された借りを返すチャンスだからな」
 サニーがハッとする。
「あなた、記憶が戻ったの!」
「ああ」
 ヘクタールは二人を抱きしめる。
「俺の本当の名前はトール・エール。エールファミリーのボスで、あいつにファミリー全員を皆殺しにされた!」
 ヘクタール改め、トール・エールは歯を食いしばる。
「次は必ず殺す! 絶対に!」
「……トール」
 サニーはトールの体を抱きしめ返す。
「私も一緒よ」
「メリーも、一緒」
 メリーもサニーと同じように抱きしめ返す。
「ありがとう」
 トールは二人を離すと窓から太陽を見上げる。
「次はこっちの番だ!」
 トールは殺意と決意を拳に握りしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...