異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

ねこねこ大好き

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最終章 決着

最終決戦:朱雀、カーミラvs【神が作りし拳】佐伯拓郎

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 朱雀とカーミラは森の中にあるダンジョンの通路に飛ばされていた。

「【神が定めし弱者】と【神の千里眼】に、おそらく、【神が作りし物語】の空間転移のコンビネーションか」
 朱雀は手のひらを握ったり開いたりして調子を確かめる。

「【神が定めし弱者】は視界に入った者のみしかレベルダウンできない。そこを【神の千里眼】によるサーチ能力でカバーする。さらに分断のために、限定的な現実改変である【神が作りし物語】で問答無用に空間転移させる。結果、私たちはレベル1の状態でちりじりになってしまった」
 カーミラはダンジョンの壁を叩いて、自分たちがどこに飛ばされたのか、状況を確認する。

「地下ダンジョン。それほど深度は深くないな」
 長年の経験からすぐに場所を把握した。

 一方、朱雀は準備運動するように、屈伸運動を繰り返す。
「チートを効果的に組み合わせて来るとは。麗夜の友達の友達って奴は想像以上に頭が良いな」
 朱雀は実に嬉しそうだ。

「楽しそうだな」
 カーミラはため息を吐く。

「まるで麗夜の兄貴と再会したみたいだからな」
「確かに。一馬様は様々なチートを組み合わせて、ゼラと対抗したな」
「そうそう。そう思うと、なんか懐かしい気持ちになってよ」
「私としては、麗夜様が心配でそれどころではないんだがな」
 そう言いながらもカーミラは懐かしそうに目を細める。

「ところで、お前は気づいているか?」
「ああ。レベル1の状態でも、しっかりと気配は感じるぜ」
 二人は通路の奥を睨んだ。

「あんたら、よく自分たちが弱った原因を冷静に理解できたな」
 驚いた顔で、佐伯拓郎が現れた。

「これでも俺たちは十万年以上生きてるからな。今更レベル1になったからってオタオタできねえよ」
「それに、初見なら未だしも、勇者のチートは全て見たことがある。ならば何をされたのか簡単に理解できる」
 二人は慌てた様子無く、佐伯拓郎の質問に返答した。

「なるほど。やっぱし、レベル1でも、油断しちゃいけない相手だな」
 キュッキュッと佐伯拓郎はボクシングの構えになってステップを踏む。

「挨拶も無しにいきなり戦闘態勢か?」
 朱雀はお道化たように肩をすくめる。

「油断しちゃいけない相手だからな!」
 佐伯は目にも止まらぬ速さで朱雀の懐に飛び込むと、ジャブを放った。

 ボ!
 しかし、朱雀は炎となって、拳をかわした。

「体を炎に変化させた!」
「これでも俺は不死鳥の魔王。体を炎に変化させるくらい何でもないぜ」
「チ! 単純な物理攻撃は通用しないか!」
 佐伯は朱雀に攻撃は通らないと思い、今度はカーミラに狙いを変える。

 スルリ!
 しかし、カーミラは影となって、拳を避けた。

「今度は影!」
「私は吸血鬼。夜の支配者。体を影にすることなど容易い」
「こっちも物理攻撃無効かよ!」
 佐伯はステップしながら、朱雀とカーミラから距離を取る。

「三村の奴。面倒な奴を寄こしやがって。レベル1なのに強いじゃねえか」
 佐伯は警戒心を強めた表情になる。

「お褒めの言葉感謝するぜ」
 朱雀は手のひらに野球ボールくらいのファイヤーボールを作る。
「レベル1だとこんなもんか」
 まるでキャッチボールをするように、佐伯に投げた。

 バシン!
 佐伯は軽々とファイヤーボールを手のひらで払う。

 ゴ!
 直後、ファイヤーボールが朱雀に跳ね返って来た!

「ふん!」
 朱雀は炎となって、ファイヤーボールを全身で受け止め、吸収した。

「本当に厄介な特殊能力を持ってるな。どうやって勝てばいいんだ?」
 佐伯は舌打ちする。
「こっちだって同じ感想さ」
 朱雀は苦笑する。

「お前のチートは【神が作りし拳】って奴だろ」
「なぜ分かる?」
「ボクシングって構えに、手のひらで火傷もせずに軽々と炎を反射させる。【神が作りし拳】じゃないとできない芸当だ」
「本当に物知りな奴だ。さすが十万年以上生きた魔王。データを見ても信じられなかったが、こうして対決すると良く分かる」
 佐伯は再度、朱雀の懐に潜り込み、ワンツースリーとパンチを放つ。

 ボッボッボ!
 拳は炎をすり抜けるだけだった。

「チ! 今度は炎ごと吹っ飛ばすつもりだったのに!」
「ああ。その狙いは正解だったぜ」
 朱雀は炎から人型へ戻る。

 ツツ―と、朱雀の頬から血が流れた。

「おお! ダメージが入った」
 佐伯は目を輝かせる。
「やっぱりレベル1はキツイな。炎に成れる時間が短い」
 朱雀は肩をすくめる。

「なら、お前も影になれる時間は短いんだな」
 佐伯は影から現れたカーミラを睨む。

「その通りだ。一発なら未だしも、二発三発となると厳しい」
 カーミラは動揺した様子無く頷く。

「ピンチの割に冷静だな」
 佐伯はしかめっ面で言う。

「二人とも降参しろ。勝ち目は無いって分かっただろ」
「それは認められないな」
 朱雀は微笑む。

「意地張っても苦しいだけだぞ」
「いやいや。意地だけじゃない」
 チッチッと、朱雀は指を振る。

「何か勝ち目でもあるのか?」
「もちろんある」
 佐伯は朱雀の答えに目を丸くする。

「どうやって俺に勝つ気だ?」
「それは負けた時のお楽しみって奴だ」
「ふざけた奴だ! 今度は手加減しないぞ!」
 佐伯は俊足の速さで朱雀に殴り掛かる。

 ゴキン!
 今度は綺麗に朱雀の鼻を捉えた。

「また当たった!」
 当てた佐伯本人がびっくりする。

「お前は速すぎる。本気に成られたら、レベル1じゃ反応しきれない」
 朱雀は鼻血を手の甲で拭う。

「ならやっぱり降伏しろ。そうしたら許してやる」
「いやいや。勝ち目がある勝負を投げ出すほど、俺たちはバカじゃないんでね」
 朱雀は不敵に微笑む。

「チ! お前もその男と一緒か!」
 佐伯はカーミラに険しい顔を向ける。

「お前たちは二つの弱点がある」
 カーミラは二本、指を立てる。

「弱点だと?」
「一つは魔王を舐め過ぎな所。もう一つは自分たちを過信し、己の弱点に気づいていないことだ」
「俺たちに弱点?」
「すぐに分かる」
 カーミラは影から黒い剣を取り出した。

「何が何だか分からねえが、すぐにお前たちをぶっ倒せば問題ないってことだな!」
 佐伯は再度、拳を固め、二人に殴り掛かった。
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