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最終章 決着
最終章 オープニング:昔の親友
しおりを挟む 五人は駅前の喫茶店の席で、改めて自己紹介し合った。
「皆さん、意外と家が近いんですね」
上司が良縁であるかのように嬉しそうに言った。
栗山は顔を顰める。
「家が近いからって、なんだよ。毎日集まるわけでもねーだろ」
「そんな寂しいこと言わないでください。こうして出会ったのも何かの縁ですから、仲良くしましょうよ」
栗山の発言が不満で、願い出る口調で言う。
「それよりも……」
楠手が他の四人に顔を寄せて問いかける
「どうして、私達五人なのかな?」
「戦隊のメンバーがか?」
「そうですね。訊かれてみると、なんででしょう?」
「グラドルっていう共通点じゃないかしら?」
西之森が三人の顔を目に入れながら、決まりきった声で疑問に言葉を挟む。
「子供向けの戦隊モノには必ず固有のテーマがあるでしょう。だからグラビアアイドルが私達の戦隊のテーマなのよ、きっと」
「でも、目的は何かしらねぇ?」
ホットコーヒーのお代わりを注文し終えた新城が、西之森に探るような目を向ける。
「麻美ちゃんの憶測が正解だとしても、何故グラビアアイドルをテーマに選んだのかが、私は気になるわ」
「選んだ理由は、あのミスター・Kという人の趣向よ。といっても本人から聞いたわけじゃないから定かじゃないけど」
自信なく答えた。
「もしかして、皆グラドルっていうのも縁ですかね」
「上司さん、縁って言葉好きなの?」
楠手が何気なく尋ねる。
予想外の質問に、上司は瞬きをして楠手を見返した。
「好きってことはないですけど、どうしてそんなこと訊くんですか?」
「かなりの頻度で使ってるから、好きなのかと思って。違ったんだ」
「もしかすると、皆で仲良くしたいって思ってるから、縁って言葉が出てくるのかもしれません」
ケッ、と上司の隣で、栗山はくだらないことのように嘲り笑った。
「皆で仲良くするのは勝手にしてくれていいけどよ、無益な慣れ合いは御免だぜ」
「上司さんは良かれと思って言ってるのに、あなたは何で和を乱すようなことを言うのかしら?」
栗山の右向かいの席の西之森が、苛立った声音で問い詰める。
「あん? 和を乱してねぇだろ。仲良しこよしは嫌だって意見を言っただけだ」
「言い方が押しつけがましいのよ。もっと柔らかい言い方をしないと、上司さんが悪いみたいになるじゃない」
「はあ? お前は上司じゃねーだろ。知った口で言うんじゃねー」
二人の険悪な原因が自分にあると思い、上司は慌てて取り成すように言う。
「それぞれの意見があると思うので、わ、私が正しいなんてことはありません。だから私の言うことなんて聞き流してください」
「そんな謙遜しなくてもいいのに」
と、新城が微笑まし気にやり取りを眺める。
その時、五人のネックレスが小さく揺れた。
ネックレスを肌から離して、顔を寄せる。
(出動だ、西地区のマンション街だ)
ネックレスから出る木田の指令する声が、テーブル上で重なる。
五人は互いに頷き合って会計を手早く済まして、喫茶店を飛び出した――のだが。
走りながら胸の前で跳ねるネックレスを掌で包んだ瞬間、謎の力によって彼女たちの姿は消え去った。
気付いた時には、どこかのマンションの屋上に移動していた。
走っていた勢いのまま、楠手はたたらを踏んで、物干し台のアルミの棒に勢いよく鼻梁をぶつけた。
「いったぁ」
鼻を押さえて、その場に屈みこむ。
同時にテレポートして来た他の四人は、傍で起きた不運に何事かと顔を向ける。
「大丈夫か?」
栗山が訊く。
楠手は鼻を押さえたまま、ふるふると首を横に振る。
「大丈夫じゃないよ。鼻の骨が砕けてるかもしれないほどだよ」
答えているうちに、ドロリとした液体の感触を押さえている手に覚えた。
鼻から離して掌を見ると、赤々とした血が付いている。
「鼻血だな」
「見ればわかるよ」
言いながら上向いて、垂れ流れてきそうな鼻血を奥に戻す。
「皆さん、皆さん、鼻血よりも大変なことになってます」
メンバーの姿を見回して、上司は当惑する。
「私達、皆水着になってます!」
彼女の言葉に、楠手以外の三人が自分の身体を見下ろした。一様に表情を驚きで固める。
「どうなってんだ、こりゃ?」
栗山がコバルトブルーのワンピース水着の脇腹部分の生地をつまんで呟く。
「この胸の宝石は、何の素材かしら?」
胸の前面を覆うグリーンのハート型のクリスタルガラスを指の爪でつつく。
ちなみに水着の色は、楠手がレッド、栗山がブルー、上司がイエロー、西之森がグリーン、新城がパープルである。
「なんで水着なの?」
赤のワンピース水着の上を向いている楠手が誰にともなく尋ねる。
四人は揃って、知らないという顔をした。
「何者でぃ、おめぇたち」
五人の頭上から、チンピラっぽい鼻につく声が降り注ぐ。
「おいらの縄張りだい。新参者にはひいてもらうでぃ」
声の主を見上げた五人は、仰天して一斉に口を開いた。
「「「「「パンツザル!」」」」」
彼女たちの叫んだ通り、声の主は物干しざおに器用に乗っている、頭に女物のパンツを被った人間大の猿であった。
「それはおいらのことか?」
「他にいないでしょ」
パンツザルの問いに、楠手は当然の如く答えた。
「ウキィ、おいらはパンツザルでねぇ」
パンツザルは腹を立てると、歯を剥き出して五人を睨みつけた。
「それじゃあ、なんなんだよ? 名前があるのか?」
聞いてやるぞという傲岸な態度で栗山が尋ねる。
「ウキィ、おいらにも名前はあるんでぃ。猿男っていうんでぃ」
「パンツ要素がねぇじゃねぇか!」
名を聞いて、栗山は不満を吐き捨てた。
「うるせぃ、おいらの知ったところじゃねぇ。こっちは名乗ったんだ、次はおめぇ達だ。何者でぃ」
栗山の抗議には取り合わず、自称猿男は五人の中央にいた楠手を指さし誰何した。
「え、私達?」
「そうでぃ」
「私達はその……なんというか」
「なんでぃ、正体を明かせないほどの悪者でぃ?」
「そうではないんだけど、言っていいのかどうか」
グラドルレンジャーだと明かしてはならない、と厳命されたばかりで楠手は逡巡した。
「この猿、敵よ!」
じいっと猿男に注視していた西之森が、はっとして突然に声を張り上げた。他の四人と猿男の視線が彼女に向く。
嫌悪と憤怒の眼差しで、西之森は猿男の被るパンツを指さす。
「こいつの被ってる下着、私のものよ」
途端、猿男の剽軽な表情が固まり、眼を左右に泳がせる。
他の四人はまじまじと猿男の被る下着を見る。
「それ、ほんと?」
「腰ひもが少しほつれてるもの」
楠手が訊くと、確信的な声で言った。
「それに色も作りも私が持ってるものと同じ。間違いないわ」
栗山が西之森に向って、卑しいにやつきを浮かべる。
「しっかしお前、黒下着なんて持ってるんだな。勝負下着か?」
「ちっがうわよ。糸のほつれてるのが、勝負下着のわけがないでしょ」
「なんだ違うのか。それなら下着一枚くらいで喚くんじゃねえよ」
「はあ? 自分の履いた下着が、下着泥棒の猿に被られてるのよ。下着でどんな猥褻な事を何をするかと思うと耐えられないわよ、普通」
「相手は猿だぜ。どうこう使う知能があるわけないだろ?」
「聞き捨てならねぇ! これでもおいらはシキヨクマーの一員でぃ。舐められたままのわけにはいかねぇ」
悪意ある一言に猿男はいきり立ち、キィーと吠えてから物干し竿を蹴って、爪の鋭い片手を振り上げて栗山に飛び掛かった。
栗山と近くにいた他の四人は考える暇もなく、予測される猿男の着地地点から瞬時に後ろへ飛び退いた。彼女達自らが驚くほどの反応速度だった。
猿男の爪撃は、誰もいない空を切る。
「おめぇたち、ただの女じゃねぇな。おいらの降下攻撃を躱せるはずがねぇ」
着地の屈んだ姿勢から、敵意剥き出しの眼でぎょろりと見上げる。
「さては、おめぇたち。正義を謳う五人組の戦隊でぇねえか」
しばらく五人をじっと眺めると、猿男は獲物を捉えたかのように唇を歪めた。
「ちがいねぇ、おめぇ達只者でないでぃ」
確信を得て、流血に飢えたような目をして問い質す。
「おめぇ達は五人は何と言うんでぃ?」
「別になんだっていいでしょ」
西之森が下着を被られている憤りの籠めて、冷淡に言った。
途端、猿男の眼が昏く戦闘の意思を湛える。
「障害になり得る者は排除するのがシキヨクマーの規則でぃ。おめぇたちは無論、排除の対象。今ここでくたばってもらうでぃ!」
猿男の脚に力が入り地面を蹴立てようと、腰を落とした。
「グラドルレンジャーって言います!」
突然、上司が叫んだ。
猿男が落としていた腰を上げて、上司だけに眼を投げる。上司は怯えたようにビクッと身体を震わせる。
「偽りねぇか?」
「は、はい」
「グラドルレンジャーと言うんすねぇ。わかったでぃ」
猿男は顔に理解を顕す。
相手が手を引いてくれるのだろうと思い、上司は実際に胸を撫で下ろす気持ちになった。
間を置いて、猿男は暴力的な笑みを浮かべた。
「名を明かそうが明かさまいが、おめぇ達を排除することに変わりないでぃ!」
「そんな、ひどい」
上司は失意の声を小さく漏らした。
猿男は再び腰を落として、襲い掛かる前の姿勢を取る。
五人は敵であると認知され、戦いを避けられない状況に陥った。
鼻血が止まって血の気の盛った猿男をまともに目にした楠手は、決意を固める。
「皆!」
不意に声を上げた楠手に、他の四人が視線を移す。
「なんだ?」
「なによ?」
「どうしたんですか?」
「なあに?」
栗山、西之森、上司、新城が問い返す。
猿男を睨みつけて、楠手は四人に短く語り掛ける。
「戦おう」
楠手の一言に、各々が今までの日常を振り切るように、ふっと息を漏らして頷いた。
五人は警戒の糸を張り詰めて、猿男と対峙した。
「皆さん、意外と家が近いんですね」
上司が良縁であるかのように嬉しそうに言った。
栗山は顔を顰める。
「家が近いからって、なんだよ。毎日集まるわけでもねーだろ」
「そんな寂しいこと言わないでください。こうして出会ったのも何かの縁ですから、仲良くしましょうよ」
栗山の発言が不満で、願い出る口調で言う。
「それよりも……」
楠手が他の四人に顔を寄せて問いかける
「どうして、私達五人なのかな?」
「戦隊のメンバーがか?」
「そうですね。訊かれてみると、なんででしょう?」
「グラドルっていう共通点じゃないかしら?」
西之森が三人の顔を目に入れながら、決まりきった声で疑問に言葉を挟む。
「子供向けの戦隊モノには必ず固有のテーマがあるでしょう。だからグラビアアイドルが私達の戦隊のテーマなのよ、きっと」
「でも、目的は何かしらねぇ?」
ホットコーヒーのお代わりを注文し終えた新城が、西之森に探るような目を向ける。
「麻美ちゃんの憶測が正解だとしても、何故グラビアアイドルをテーマに選んだのかが、私は気になるわ」
「選んだ理由は、あのミスター・Kという人の趣向よ。といっても本人から聞いたわけじゃないから定かじゃないけど」
自信なく答えた。
「もしかして、皆グラドルっていうのも縁ですかね」
「上司さん、縁って言葉好きなの?」
楠手が何気なく尋ねる。
予想外の質問に、上司は瞬きをして楠手を見返した。
「好きってことはないですけど、どうしてそんなこと訊くんですか?」
「かなりの頻度で使ってるから、好きなのかと思って。違ったんだ」
「もしかすると、皆で仲良くしたいって思ってるから、縁って言葉が出てくるのかもしれません」
ケッ、と上司の隣で、栗山はくだらないことのように嘲り笑った。
「皆で仲良くするのは勝手にしてくれていいけどよ、無益な慣れ合いは御免だぜ」
「上司さんは良かれと思って言ってるのに、あなたは何で和を乱すようなことを言うのかしら?」
栗山の右向かいの席の西之森が、苛立った声音で問い詰める。
「あん? 和を乱してねぇだろ。仲良しこよしは嫌だって意見を言っただけだ」
「言い方が押しつけがましいのよ。もっと柔らかい言い方をしないと、上司さんが悪いみたいになるじゃない」
「はあ? お前は上司じゃねーだろ。知った口で言うんじゃねー」
二人の険悪な原因が自分にあると思い、上司は慌てて取り成すように言う。
「それぞれの意見があると思うので、わ、私が正しいなんてことはありません。だから私の言うことなんて聞き流してください」
「そんな謙遜しなくてもいいのに」
と、新城が微笑まし気にやり取りを眺める。
その時、五人のネックレスが小さく揺れた。
ネックレスを肌から離して、顔を寄せる。
(出動だ、西地区のマンション街だ)
ネックレスから出る木田の指令する声が、テーブル上で重なる。
五人は互いに頷き合って会計を手早く済まして、喫茶店を飛び出した――のだが。
走りながら胸の前で跳ねるネックレスを掌で包んだ瞬間、謎の力によって彼女たちの姿は消え去った。
気付いた時には、どこかのマンションの屋上に移動していた。
走っていた勢いのまま、楠手はたたらを踏んで、物干し台のアルミの棒に勢いよく鼻梁をぶつけた。
「いったぁ」
鼻を押さえて、その場に屈みこむ。
同時にテレポートして来た他の四人は、傍で起きた不運に何事かと顔を向ける。
「大丈夫か?」
栗山が訊く。
楠手は鼻を押さえたまま、ふるふると首を横に振る。
「大丈夫じゃないよ。鼻の骨が砕けてるかもしれないほどだよ」
答えているうちに、ドロリとした液体の感触を押さえている手に覚えた。
鼻から離して掌を見ると、赤々とした血が付いている。
「鼻血だな」
「見ればわかるよ」
言いながら上向いて、垂れ流れてきそうな鼻血を奥に戻す。
「皆さん、皆さん、鼻血よりも大変なことになってます」
メンバーの姿を見回して、上司は当惑する。
「私達、皆水着になってます!」
彼女の言葉に、楠手以外の三人が自分の身体を見下ろした。一様に表情を驚きで固める。
「どうなってんだ、こりゃ?」
栗山がコバルトブルーのワンピース水着の脇腹部分の生地をつまんで呟く。
「この胸の宝石は、何の素材かしら?」
胸の前面を覆うグリーンのハート型のクリスタルガラスを指の爪でつつく。
ちなみに水着の色は、楠手がレッド、栗山がブルー、上司がイエロー、西之森がグリーン、新城がパープルである。
「なんで水着なの?」
赤のワンピース水着の上を向いている楠手が誰にともなく尋ねる。
四人は揃って、知らないという顔をした。
「何者でぃ、おめぇたち」
五人の頭上から、チンピラっぽい鼻につく声が降り注ぐ。
「おいらの縄張りだい。新参者にはひいてもらうでぃ」
声の主を見上げた五人は、仰天して一斉に口を開いた。
「「「「「パンツザル!」」」」」
彼女たちの叫んだ通り、声の主は物干しざおに器用に乗っている、頭に女物のパンツを被った人間大の猿であった。
「それはおいらのことか?」
「他にいないでしょ」
パンツザルの問いに、楠手は当然の如く答えた。
「ウキィ、おいらはパンツザルでねぇ」
パンツザルは腹を立てると、歯を剥き出して五人を睨みつけた。
「それじゃあ、なんなんだよ? 名前があるのか?」
聞いてやるぞという傲岸な態度で栗山が尋ねる。
「ウキィ、おいらにも名前はあるんでぃ。猿男っていうんでぃ」
「パンツ要素がねぇじゃねぇか!」
名を聞いて、栗山は不満を吐き捨てた。
「うるせぃ、おいらの知ったところじゃねぇ。こっちは名乗ったんだ、次はおめぇ達だ。何者でぃ」
栗山の抗議には取り合わず、自称猿男は五人の中央にいた楠手を指さし誰何した。
「え、私達?」
「そうでぃ」
「私達はその……なんというか」
「なんでぃ、正体を明かせないほどの悪者でぃ?」
「そうではないんだけど、言っていいのかどうか」
グラドルレンジャーだと明かしてはならない、と厳命されたばかりで楠手は逡巡した。
「この猿、敵よ!」
じいっと猿男に注視していた西之森が、はっとして突然に声を張り上げた。他の四人と猿男の視線が彼女に向く。
嫌悪と憤怒の眼差しで、西之森は猿男の被るパンツを指さす。
「こいつの被ってる下着、私のものよ」
途端、猿男の剽軽な表情が固まり、眼を左右に泳がせる。
他の四人はまじまじと猿男の被る下着を見る。
「それ、ほんと?」
「腰ひもが少しほつれてるもの」
楠手が訊くと、確信的な声で言った。
「それに色も作りも私が持ってるものと同じ。間違いないわ」
栗山が西之森に向って、卑しいにやつきを浮かべる。
「しっかしお前、黒下着なんて持ってるんだな。勝負下着か?」
「ちっがうわよ。糸のほつれてるのが、勝負下着のわけがないでしょ」
「なんだ違うのか。それなら下着一枚くらいで喚くんじゃねえよ」
「はあ? 自分の履いた下着が、下着泥棒の猿に被られてるのよ。下着でどんな猥褻な事を何をするかと思うと耐えられないわよ、普通」
「相手は猿だぜ。どうこう使う知能があるわけないだろ?」
「聞き捨てならねぇ! これでもおいらはシキヨクマーの一員でぃ。舐められたままのわけにはいかねぇ」
悪意ある一言に猿男はいきり立ち、キィーと吠えてから物干し竿を蹴って、爪の鋭い片手を振り上げて栗山に飛び掛かった。
栗山と近くにいた他の四人は考える暇もなく、予測される猿男の着地地点から瞬時に後ろへ飛び退いた。彼女達自らが驚くほどの反応速度だった。
猿男の爪撃は、誰もいない空を切る。
「おめぇたち、ただの女じゃねぇな。おいらの降下攻撃を躱せるはずがねぇ」
着地の屈んだ姿勢から、敵意剥き出しの眼でぎょろりと見上げる。
「さては、おめぇたち。正義を謳う五人組の戦隊でぇねえか」
しばらく五人をじっと眺めると、猿男は獲物を捉えたかのように唇を歪めた。
「ちがいねぇ、おめぇ達只者でないでぃ」
確信を得て、流血に飢えたような目をして問い質す。
「おめぇ達は五人は何と言うんでぃ?」
「別になんだっていいでしょ」
西之森が下着を被られている憤りの籠めて、冷淡に言った。
途端、猿男の眼が昏く戦闘の意思を湛える。
「障害になり得る者は排除するのがシキヨクマーの規則でぃ。おめぇたちは無論、排除の対象。今ここでくたばってもらうでぃ!」
猿男の脚に力が入り地面を蹴立てようと、腰を落とした。
「グラドルレンジャーって言います!」
突然、上司が叫んだ。
猿男が落としていた腰を上げて、上司だけに眼を投げる。上司は怯えたようにビクッと身体を震わせる。
「偽りねぇか?」
「は、はい」
「グラドルレンジャーと言うんすねぇ。わかったでぃ」
猿男は顔に理解を顕す。
相手が手を引いてくれるのだろうと思い、上司は実際に胸を撫で下ろす気持ちになった。
間を置いて、猿男は暴力的な笑みを浮かべた。
「名を明かそうが明かさまいが、おめぇ達を排除することに変わりないでぃ!」
「そんな、ひどい」
上司は失意の声を小さく漏らした。
猿男は再び腰を落として、襲い掛かる前の姿勢を取る。
五人は敵であると認知され、戦いを避けられない状況に陥った。
鼻血が止まって血の気の盛った猿男をまともに目にした楠手は、決意を固める。
「皆!」
不意に声を上げた楠手に、他の四人が視線を移す。
「なんだ?」
「なによ?」
「どうしたんですか?」
「なあに?」
栗山、西之森、上司、新城が問い返す。
猿男を睨みつけて、楠手は四人に短く語り掛ける。
「戦おう」
楠手の一言に、各々が今までの日常を振り切るように、ふっと息を漏らして頷いた。
五人は警戒の糸を張り詰めて、猿男と対峙した。
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