異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

ねこねこ大好き

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皇都へ

宿敵の暴走

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 魔王カーミラに手痛い仕打ちを受けた桃山たちは一目散に皇都の城へ乗り込み、霧島の部屋に押しかけた。
「あいつに高位の吸血鬼の仲間が居るなんて聞いてないぞ!」
 桃山は椅子に座ると、クラスメイトの回復魔法で、潰れた手を癒して貰いながら霧島へ怒鳴る。

「そんなの初めて知ったわ!」
 霧島は言い返す。
「だいたい、あんたたち勇者でしょ。そいつごとぶっ殺してくればよかったじゃない」
「俺たちが受けた依頼は人殺しじゃねえ」
 桃山は鼻で笑う。
 自分が受けた依頼は嫌がらせであって、人殺しではない。
 だから自分は身を引いた。怯えたわけではない。そう言いたい。

「怖かったから逃げただけでしょ」
 霧島も鼻で笑う。

 浅はかな霧島でも、桃山たちが怯えていることは手に取るように分かる。

「怖いんじゃねえ! 俺は犯罪者じゃねえんだ! だから殺しなんてやらねえだけだ!」
 桃山は激昂する。
「話にならないわね」
 霧島は落胆のため息を吐いた。

「少々よろしいですか」
 脇に控えていた、霧島の側近と化したマルス32世が手を上げる。
「何?」
 霧島は足を組んでマルス32世を睨む。

「いくら高位の吸血鬼とはいえ、桃山様の手を握り潰すなどできるのでしょうか?」
 マルス32世は情けない勇者たちを横目で見る。
「いくら勇者でもレベルが低かったらカス同然よ。こいつらみたいにぬくぬく生活していたら、高位の吸血鬼に勝てるはずないわ」
 霧島は舐め切った目で桃山たちを見た。

「ふざけんな。俺たちはこの世界で何百もモンスターを倒してきたんだ。レベルなんて100を超えてる」
 桃山は自慢げに振り返って、後ろに並ぶクラスメイトに笑いかける。
 するとクラスメイトは一斉に頷く。

「そうそう。私なんてレベル120よ」
「俺はレベル90だ。あんまり強いモンスターが居なくて」
「竜を倒したこともあるし、喋る吸血鬼を倒したこともある」
 クラスメイトは一斉に自慢話を始める。

「でしたら、桃山様の手を握り潰した吸血鬼のレベルは、いくつになるのでしょうか?」
 マルス32世は目を細める。

「……え」
 霧島と桃山たちは言葉を失った。

「麗夜のスキルって何か覚えてる奴居る?」
 霧島は青い顔でクラスメイトに聞く。

「確か、モンスターと話せるだけの雑魚スキルだった」
「レベルは1で弱かったよな」
 クラスメイトは一斉に麗夜を追いだした場面を思い出す。

「高位の吸血鬼も使役するようなスキルじゃなかったはずよね」
 霧島は親指の爪を噛む。

「本当にそれだけだ。お前だって覚えてるだろ!」
 桃山は悲鳴を上げるように大声を出した。
「ならなんであんたの手を握り潰す様な高位の吸血鬼があいつのところに居るのよ!」
 霧島は半狂乱だ。
「何かトリックがあるんだ! モンスターと話せるだけって見せかけて、実はどんなモンスターも操るとか! 漫画とかで良くあるだろ!」
 桃山も半狂乱だ。
「それが本当だったら魔王も操れるってこと!」
 霧島は唾を飛ばす。
「魔王も操る! いくら何でもありえねえ! 俺たちにも竜とか強いモンスターを操れる奴は居るが、魔王だけは無理だ! スキルの説明にそう書いてあった! だいたい何で魔王があいつのところに居るんだよ! 魔王は魔界に居るんだろ! どうやってあいつがそこに行くんだ!」
 桃山も唾を飛ばす。

「じゃあなんであいつのところに化け物みたいな吸血鬼が居るのよ!」
 霧島は同じ疑問を繰り返す。

 そこから先は堂々巡りだ。一向に話は進まない。
 皆、麗夜の恐ろしさに気づいてしまった。だから怖い。

 罪悪感は無いが、皆、麗夜を虐めたという自覚がある。
 復讐される。そう思ったら居ても立っても居られない!

「潮時か」
 マルス32世は不毛な言い争いをする霧島たちを見て、小声で呟いた。

 マルス32世は静かに部屋を出る。

「勇者を召喚し、魔軍との戦いに勝利した功績で、いずれは皇帝になる計画だったが、すべてはパーだ」
 マルス32世は独り言を呟く。

「霧島の奴め。洗脳という素晴らしい力を持って居ながら、私利私欲に走りやがって。全く俺の言うことを聞かない。俺を皇帝にする力があったと思ったから手元に置いたのに!」
 肩を怒らせて、赤い絨毯の上を歩く。
「やはりお人好しで扱いやすそうな大山を手元に置くべきだったか? しかしあいつは臆病で小心者。俺を皇帝にするために働くとは思えない。おまけに友人の三村は頭が切れる。手元に置いたら噛みつかれたかも」
 ギリギリと歯ぎしりしながら、長い廊下を歩く。
「これで俺は終わりなのか? 皇帝という道を諦め、辺境の国でふんぞり返るだけの王で一生を終えるのか?」
 ピタリと足を止める。

「手元に置くべき人材は、新庄麗夜だったか」
 ニヤリと意地汚い笑みを浮かべる。
「どんな経緯があったか知らないが、奴はどうも勇者すら超えるモンスターを仲間にできるらしい」
 ペロリと舌なめずり。
「勇者すら超える力を持つモンスターを仲間にしながらボランティアに勤しむ。何を考えているのか分からんが、霧島のような悪人ではない。行動力から考えて、大山のような小心者でも臆病者でもない」
 新たな計画を練る。

「新庄麗夜を手元に置いたらどうなるか? 霧島のように私利私欲に走るか? それは無いな。もしそうなら今頃皇都は地獄絵図だ。なら手元に置いたら、新庄麗夜はどんな行動を取る? ボランティアか何か良く分からないことに勤しむだろう。その時俺が隣に居たらどうなる? 俺の言うことをよく聞くだろう。霧島たちのようにバカではないはずだ。バカならあれだけ民に好かれる筈がない!」
 胸が弾む。

「新庄麗夜を手中に収めれば最強のモンスター軍を手に入れたも同然! その戦力は皇帝も恐れるはず!」
 興奮で鼻息が荒い。
「まずは新庄麗夜を手元に納めよう。そして俺の言うことを聞く操り人形にしてしまおう。時間はかかるだろうが所詮は子供。俺の手にかかればあんな奴の心を虜にするなど造作もない!」
 マルス32世は大笑いした。



「裏切ったわね」
 後ろに居た霧島が血走った目で言った。

「き、霧島様!」
 マルス32世は振り向くと口をパクパクさせる。
 霧島は狂ったように笑う。
「私はあんたに洗脳をかけた。あんたが何を考えているか、口に出す様に!」
「そ、そんな!」
「あんたは腹の中で私を笑っていた。でもそれは全部口に出ていたわ!」
 霧島は深呼吸する。

「あんたは利用価値があった。だからある程度の暴言は許した。でも私を裏切るなら許さない!」
「霧島様! 誤解です!」
「ここは一階よ。はははははははは!」
 霧島は命じる。

「マルス32世。腰の剣で自分の首を、ゆっくりと! 切り裂きなさい」
 霧島が命じると、マルス32世は腰に下げた剣を抜き、自分の首に押し当てる。
「霧島様! どうかお許しを!」
 マルス32世は命乞いする。しかし刃は首に食い込む。

「ゆっくり、ゆっくりよ。苦しんで死ぬように、恐怖で顔が歪むように、じわじわと」
 霧島は虫をいたぶるような目でマルス32世を見つめる。

「き、きりしま、さま」
 ゆっくりゆっくり、刃が食い込む。それは皮膚を裂き、筋肉を切り開き、ついに頸動脈に到達する。
「このクソ女がぁあああああああ!」
 マルス32世は絶叫とともに、己の命を絶った。

「そうよ、殺しちゃえばいいのよ。麗夜もマルス32世も。私の言うことを聞かない奴らは全員!」
 霧島は振り返る。そこに居るのは真っ青な顔をした桃山たちだ。

「麗夜を殺すわ。だから私の言うことを聞いてね」
 霧島は狂気の笑み。
「い、いくら何でも殺すなんて」
 さすがの桃山たちも、本物の殺人現場を見てドン引きだ。

「私に逆らうのね」
 霧島は桃山たちを凝視する。
「桃山以外自害しなさい。そして桃山はそこを動かないように」
 霧島のクラスメイトは一斉に武器を抜き、自分の首に押し当てる。

「待て霧島! 落ち着け!」
 桃山は血相変える。クラスメイトも泣き叫ぶ。しかし遅かった。
「私はあんたたちより低レベル。真面に戦ったら勝てない。でも私のスキルは世界最強! レベルも何もかも無意味!」
 霧島は冷笑する。
「さっさと死ね」
 クラスメイトは桃山を残して全滅した。

「桃山。あんたは私の言うことを聞くわね」
 血だまりの中、霧島は血しぶきに塗れた桃山を笑う。
「もちろん! どんな命令も聞く!」
 桃山はがくがくと頷く。

「なら最初の命令。大山たちがどこに居るか調べてきて」
「大山の居場所を?」
 桃山は唐突な命令内容に思わず疑問を口にする。

「あいつら、魔軍との戦争が収まったら休暇とかでどっか行っちゃったの。知ってる奴はさっき死んじゃったし。だからどこに居るか調べて」
「それは良いけど……どうして大山を? お前はあいつが大っ嫌いだっただろ?」
「もちろん嫌いよ! 大山も三村も桐山も! あいつの友達全員嫌い! 死ねばいい!」
 拳を握りしめる。
「でもあいつらは強い。いざという時に役に立つ」
「麗夜と戦わせるつもりか? あの大山がそんなことするとは思えないけど」
「しないでしょうね。でも、私が殺されそうになったら守ってくれる。あいつはそういう奴」
 霧島は薄笑いを浮かべる。
「あんたとしても悪い話じゃないでしょ」
「そ、そうだな。うん。分かった」
 桃山は納得した様に頷いた。霧島も頷いた。
「動いて良いわ。そしてすぐに大山たちを探しに行って。裏切ったら殺すから」
「分かった! 分かった!」
 桃山は逃げるように廊下を走った。

 一人になった霧島は窓から外を見る。

「全軍を出撃させたら、麗夜は死ぬかしら?」
 霧島は恐怖で狂ってしまった。



■■■■

 俺、新庄麗夜は、クラスメイトの影に潜んでいた吸血鬼の報告を聞いて驚いた。

「霧島の奴! なんちゅうことしたんだ!」
 俺はクラスメイトを憎んでいた。それは確かだ。だがまさか霧島が殺すとは思わなかった。さすがにドン引きだ。

 浅い友情だとは思う。社交辞令もあるだろう。腹の底では罵倒し合っていたのかもしれない。
 だが仮にも仲間だったはずなのに殺しやがった!
 しかも打算は有れど臣下だったマルス32世まで殺してこの先どうするつもりだ! 少し脅すだけで裏切りは防げたのに! 完全な無計画! 狂人だ! その場その場の感情で動いてる!

「麗夜様。どうされますか?」
 カーミラは厳かに言う。

「霧島を殺したらどうなると思う?」
「分かりません。それで洗脳が解ければ良いですが、解けなければ、結局戦うこととなるでしょう」
「もうすでに戦争準備に入ってる感じ?」
「そうです。明日には皇都は戦火の火で輝くでしょう」
 とんでもない事態だ。

「霧島を殺す? そんなことしてる場合なのか? というかもう戦闘は避けられない前提で動かないと」
 俺はもう部屋の中を当ても無く歩き回るしかなかった。

 皇都の全軍と戦う。まさかの展開だ。狂人となった霧島の暴挙に混乱するしかない。

 俺たちは大丈夫だ。レベル差がある。ティアやゼラ一人でもケチさせるだろう。傷一つ無い。
 しかし皇都に住む人たちは違う。戦火に巻き込まれたら死んでしまう!
 それに戦う相手は霧島に操られただけの罪のない軍人だ。傷つけたくない。

「麗夜様。魔軍はあなたの物です」
 カーミラは深々に頭を下げる。
「こういう時の魔軍です。このために私たちは居る。どうかご命令ください」
 俺はカーミラが言いたいことを理解した。

「魔軍を皇都へ集結させろ。ついでにフランさんとエルフの国のラルク王子も」
「分かりました。今日中に集結させます」
「命令はただ一つ。誰一人傷つけず、相手の戦力を無力化させろ。手段は問わない」
「分かりました」
 カーミラは影の中に消えた。

「ティアたちにも説明しないと」
 一人になるとまさかの展開にうんざりし、ドッと体が重くなる。

「ゼラには緊急で洗脳解除の宝石を作ってもらって……それで強引にでも皇帝の洗脳を解いて」
 とにかく事態を収めるために考える。

「お前たちはここに来るべきじゃなかったのかもしれないな」
 ふと、霧島とクラスメイトを思い出した。

 俺はここに来て幸せに成った。だが奴らは幸せになるどころか発狂し、死んでしまった。



「バカな奴らだったってことか」
 なぜか、寂しかった。
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