異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

ねこねこ大好き

文字の大きさ
表紙へ
上 下
53 / 83
皇都へ

いざ皇都へ

しおりを挟む
 朝起きたら歯を磨いて顔を洗って大食堂へ行って皆と一緒に朝ごはん。
 献立はトーストとベーコンと目玉焼きに鶏肉スープ。
 いつも通りの平和な朝だ。

「うにゅ~~~」
「むぎゅ~~~」
 そしてティアとゼラに抱き付かれるのもいつも通りだ。

「二人とも。食べられないんだけど」
 両腕が塞がって動けない。

「おお!」
「そうだったな!」
 二人とも今更気づいたという感じに声を上げる。

「麗夜。あーん」
 そしてティアがトーストを口元へ持ってくる。
「麗夜。あーんだ。ちゃんとふうふうしたから火傷しないぞ」
 反対側からゼラが口元へ目玉焼きを持ってくる。

 違う、そうじゃない。

 でも二人とも満面の笑みだから断れない。

「あ、あーん」
 ティアのトーストを一かじりした後、ゼラの目玉焼きを一かじりする。

 美味しいけど滅茶苦茶食べづらい!

「お主たち行儀が悪いぞ」
 ギンちゃんはそんな俺たちを見てため息を漏らした。
 すると二人は息を合わせて言う。
「大丈夫」
「問題ない」
 何が?

「む~~~」
 そしてなぜかハクちゃんが俺を見て唸っている。
「ゼラ。あーんして」
 ハクちゃんはゼラの膝に腰を移動させるとマリアちゃんが作ったデザートのショートケーキの苺をフォークにぶっ刺してゼラにあげる。

「お! ありがとう」
 ゼラは俺からハクちゃんに意識を変えてパクリと苺を食べる。
「美味しいな」
 そしてお姉ちゃんみたいにハクちゃんの頭を撫でた。
「にへへへへ」
 ハクちゃんは妹みたいに嬉しそうだった。

 ゼラが俺にべったりだったから嫉妬したのかな? 友達を盗られたみたいに。

「麗夜にもあげる」
 ハクちゃんはさっきと打って変わって楽しそうにゼラの膝の上で体を揺らしながらショートケーキをくれた。
「ありがと」
 パクリと食べると甘くて美味しい。

「お主らいい加減にせい!」
 そしてギンちゃんが大食堂に響き渡るくらいの大声で怒った。

「すいませんすいません!」
 するとそれに驚いた魔王たちが一斉にギンちゃんに頭を下げる。君たちは全く悪くないんだけどなぁ。

「いや、お主らに怒った訳では無いんじゃ」
 ギンちゃんは恥ずかしそうに口をもごもごさせる。
 その間にゼラとハクちゃんがぼそぼそ話し合う。
「今のうちに逃げるぞ」
「うん!」
 二人は仲良く身を屈めて大食堂から脱出した。

「俺たちも逃げるか」
「そうだね」
 それに習って俺とティアもギンちゃんから逃げる。

「あいつらはどこ行ったんじゃ!」
 大食堂を抜け出すとギンちゃんの怒鳴り声が耳を貫いた。

 こりゃしばらく戻れないな。



 おやつ時、ギンちゃんの怒りが収まった後、俺とティアは自室に戻り、まったりとゼラにギンちゃん、ハクちゃんと一緒にババ抜きで遊ぶ。

「そろそろ皇都へ行こうと思う」
 ティアから一枚カードを引く。
 ハートのエース。ペアは作れなかった。
 残り4枚。そろそろ終盤戦だ。

「皇都ってどこ?」
 ハクちゃんが質問しながら俺の手札を難しそうな顔で見る。
「麗夜、ババ持ってる?」
 皇都と質問してきたのにババを持って居るのか聞き直す。
 ハクちゃんはババ抜きに夢中だ。

「持ってないよ」
 微笑で答える。
「信じて良い?」
 疑い深い顔だ。
「信じて良いよ」
「嘘吐いたら針千本飲ませるよ」
「良いよ」
「本当に飲ませちゃうからね」
「持ってないから安心して」
 緊張したハクちゃんの顔が可愛らしくて笑ってしまう。

「分かった」
 ハクちゃんは恐る恐る右端のハートのキングを引いた。
「揃った!」
 ハクちゃんは顔を輝かせてテーブルに二枚のトランプを置く。
 ハクちゃんは残り二枚。一着に王手だ。

「早く引いて早く引いて!」
 ハクちゃんはゼラに手札を差し出す。
 さっきの質問はすっかり忘れてしまったようだ。

「ならこれをもらおう」
 ゼラは余裕な表情で右のトランプを取る。
「残念。揃わなかった」
 ゼラは首を振りながら五枚の手札をティアに差し出す。

「ババはゼラが持って居る」
 ティアは目を光らせる。
「どうしてそう思うんだ?」
 ピクリとゼラの眉毛が動いた。

 行方不明だったババはゼラが持って居たようだ。

「何となくゼラが持ってる気がする」
 ティアはトランプを見透かそうと難しい顔で凝視する。
「私は持って居ないぞ」
 ゼラはニッコリと花が咲いたように笑う。

 絶対にゼラが持ってる。分かりやすい。

「ふむ……たとえゼラが持っていてもティアはゼラから一枚引かないといけない」
 ティアは覚悟を決めたように真ん中のカードを引こうとする。

 ギュ!
 ゼラが指に力を込めて、カードを押さえた。

「ゼラ。カード引けない」
 ティアがムッとゼラを睨む。
「そのカードよりもこっちのカードが良い」
 ゼラは作り笑いをしながら右端のカードをティアに渡そうとする。

「ティアはこのカードが良いの」
「それはババだからダメだ」
 もうババ持ってるって公言してるよ。

「ゼラ。ルールは守れ」
 このままだとゲームが進まないのでゼラに注意する。
「う~~む。麗夜が言うなら仕方がない」
 ゼラは渋々といった感じに指の力を抜いた。
 するとピッとティアがカードを引く。

「げ!」
 ティアの表情が変わった。
「はっはっはっはっは! だから私の言う通りにカードを変えれば良かったのに! ティアは頑固な奴だなぁ!」
 ゼラは高笑い。
 もしかしてババはティアに移った?

「うにゅ~~~」
 ティアは不機嫌な顔で手札をテーブルの下に隠してシャッフルする。
 ティアは本当にババを引いてしまったようだ。

 どうやらゼラはティアをからかうために一芝居打ったらしい。
 素直に引かせておけばいいのに、意地悪な奴だ。

「はい、ギンちゃん」
 ティアはしかめっ面で手札をギンちゃんに向ける。
 ギンちゃんは迷わずにカードを引く。

「ぷぷぷ!」
 するとティアがほくそ笑んだ。
 ギンちゃんは表情一つ変えていないが、ティアの様子を見るに、ババはギンちゃんに移ったらしい。

「皇都に何しに行くんじゃ」
 ギンちゃんは素知らぬ顔で俺に手札を差し出す。

「そろそろ和平交渉しに行こうと思って」
 理由を言いながら手札を見る。
 五枚あるうちのどれがババなのか分からない。

「もう向こうはちょっかいかけてこないし、放っておいても良いんじゃないか」
 ギンちゃんは平然とした表情で言う。
 ポーカーフェイスが上手い。

「俺の目的は戦争を終わらせて、クラスメイトの奴らを勇者からタダの人に戻して、誰にも邪魔されないようにしてから勝負すること。そうもいかないさ」
 左端のカードを引く。

 ババだった。
 ギンちゃんは笑いもせず淡々とした表情だ。
 でも耳と尻尾がピクピク嬉しそうに動いているから喜んでいるのが分かった。
 次からは顔じゃなくて耳と尻尾に注目しよう。

「今の麗夜ならあいつらを屈服させるのも簡単だ」
 ゼラが余裕な表情でカップを持つと、鼻を近づけて紅茶の香りを楽しむ。
 ご機嫌だな。

「俺は彼らと戦う気はない。話し合いで解決したいんだ」
 魔軍総出で戦争を仕掛ければ、話は魔軍の勝利、人間の降伏という形で簡単に終わるだろう。
 でも戦争は嫌いだし、彼らに恨みはない。平和的に解決したい。

 何より今の魔軍はでたらめなほど強すぎる。こんな戦力差で戦っても可哀そうなだけだ。

「それだと時間がかかるんじゃないか。手間もかかって面倒そうだ」
 ゼラは眉間に眉を集める。
 回りくどい俺のやり方が疑問らしい。気持ちは分かる。

「まあね。でも手間をかけても戦争をしたくない」
 だからまずは皇都へ行って、人間たちの様子を偵察したい。
 行ってみて、もしも戦争する気満々なら仕方ない。こちらもそれに答える。
 しかしもしも戦争する気が無ければ、話し合いで解決できるし、その糸口も見つかる。

 とにもかくにも行ってみないと話にならない。

「そんなに難しく考えなくていい。皆で遊びに行く感覚で良いよ」
 偵察とか解決とか言ったが、やることはちょっと様子を見るだけ。一日で済む。
 それよりもこの世界で一番栄えていると言われている町を皆と見物して見たい。
 それが本音だ。

 せっかくゼラという仲間も増えたんだ。全員で親睦を深めたい。

「げ!」
 ハクちゃんが悲鳴を上げた。
 俺の手札を見てみるとババが無くなっていた。
 今度はハクちゃんに移ってしまったらしい。

「ゼラ! どうぞ!」
 ハクちゃんは尻尾の毛を逆立たせてゼラに手札を差し出す。

「遊びに行くか。それなら面倒臭くなくていい」
 ゼラは油断した顔で、優雅に紅茶を飲みながら、ハクちゃんの顔も見ないで、カードを引いた。

「なんで私のところに戻ってくるんだ!」
 そして引いたカードを見て叫んだ。

 勝負の結果はゼラの負けで終わった。



 翌朝、さっそく皇都へ出発する。

 メンバーは俺、ティア、ハクちゃん、ギンちゃん、ゼラ、ダイ君率いるドラゴン騎士団とキイちゃん率いるワイバーン騎士団、アンリ率いるエルフのお手伝い部隊、そして影に潜むことができるカーミラ率いる吸血鬼部隊だ。

 朱雀たちは魔王城でお留守番だ。

「皇都まで歩いて行こう」
 皇都まで千キロ以上の道のりだ。徒歩となると数か月かかる。

「遠いよ? ダイ君たちの背中に乗ればすぐだよ」
 ティアの言うことはもっともだ。

「人間と和平しに行くんだ。なら俺たちも人間らしく歩いて行こう」
 皇都の人たちを刺激したくない。こじれると面倒だ。

 何よりすぐに行ってしまっては忙しなくて風情も何も無い。
 たまにはゆっくり、皆と旅をしながら進み隊。

「ふむ。麗夜が言うならそうする」
 ティアたちはピンと来なかったみたいだが、すぐに歩き出した。

「ワハハハハハハ!」
 ハクちゃんは一目散に駆け出した。
「待たんか!」
 ギンちゃんはそれを追いかける。



 楽しそうな旅になりそうだ。
しおりを挟む
表紙へ
感想 571

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

ハイエルフの幼女は異世界をまったりと過ごしていく ~それを助ける過保護な転移者~

まぁ
ファンタジー
事故で亡くなった日本人、黒野大河はクロノとして異世界転移するはめに。 よし、神様からチートの力をもらって、無双だ!!! ではなく、神様の世界で厳しい修行の末に力を手に入れやっとのことで異世界転移。 目的もない異世界生活だがすぐにハイエルフの幼女とであう。 なぜか、その子が気になり世話をすることに。 神様と修行した力でこっそり無双、もらった力で快適生活を。 邪神あり勇者あり冒険者あり迷宮もありの世界を幼女とポチ(犬?)で駆け抜けます。 PS 2/12 1章を書き上げました。あとは手直しをして終わりです。 とりあえず、この1章でメインストーリーはほぼ8割終わる予定です。 伸ばそうと思えば、5割程度終了といったとこでしょうか。 2章からはまったりと?、自由に異世界を生活していきます。        以前書いたことのある話で戦闘が面白かったと感想をもらいましたので、 1章最後は戦闘を長めに書いてみました。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

神様に加護2人分貰いました

琳太
ファンタジー
ある日白い部屋で白い人に『勇者として召喚された』と言われたが、気づけば魔法陣から突き落とされ見知らぬ森の中にポツンと1人立っていた。ともかく『幼馴染』と合流しないと。 気付けばチートで異世界道中楽々かも?可愛いお供もゲットしたフブキの異世界の旅は続く…… この世界で初めて出会った人間?はケモ耳の少女いろいろあって仲間になり、ようやく幼馴染がいると思われる大陸へ船でやてきたところ…… 旧題【異世界召喚、神様に加護2人分貰いました】は改題され2018年3月書籍化、8巻まで発売中。 2019年7月吉祥寺笑先生によるコミカライズ連載開始、コミック1巻発売中です。 ご購入いただいた皆様のおかげで続刊が発売されます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。