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第2章
第41話
しおりを挟むカイロスとお姉様が入室した後、すぐに三番目のベルタを迎えに来た専属侍女のマリアンヌも部屋へやってきた。もう夜も遅い、本来なら寝るべき時間だ。
3年ぶりに見る、目の前で紅茶を飲むお姉様。お姉様はもう19だ、随分大人びたが癖ひとつない髪もメガネも変わらない。ずっと下ろしていた髪を、今は上げているが。
今この場に、コーディリア家の三姉妹とその専属従者が全員揃っている。この人生ではこれが初めてのことかもしれない。マリアンヌも、入室した瞬間ぎょっとした顔をしていた。
「まさか……」
少し気まずい無言の空間の中、お姉様が口を開いた。紅茶をテーブルに置き、私の目と向き合う。
「4年の間、全く聖女の秘密を聞きに来ないなんて。さすがに想定外でした」
じとりと訝しげな顔でそう言われて何も返せなくなる。それには2人も思うところがあったのか、カイロスとディランも同じような顔をしていた。妹だけが何の話かわからず不思議そうにしている。
「だって面倒だったんだもの~……」
「……貴方は本当に『前』と変わりましたね。まああんな最期を迎えれば当然でしょう」
一番目のベルタが言う「最期」は、前の人生で私が父親に殺されたことだろう。……この集まりの中話を理解出来ていそうなのは私と姉。それと、カイロスだ。きっと姉はもうカイロスに前の人生の記憶があることを話しているんだろう。
「お姉様方……さっきから何のお話をしていますの?」
訝しげに、三番目のベルタが私たちの顔色を伺う。それを見た一番目のベルタは少し考えた素振りをした後……何かを呟いた。
途端に、お姉様が座るソファを中心に部屋の床一面に光の筋のようなものが現れる。銀色に光るそれは、蔦のような模様を描き床一面に広がっていく。やがてそれは壁や天井を覆った。
私の部屋が銀色の蔦のような光で覆われてしまった。これは、魔法だ。それもとてつもなく大きな。それでも害はなさそうだ、それどころか神秘的と感じる。咄嗟に、ディランが庇うように私の前に出た。
「えっ!?お姉様これはなんですの!?」
「お前っ、またお嬢様達に何かしたら……!!」
「落ち着けってディラン、大丈夫だよ」
カイロスのその言葉に、ディランは腑に落ちない顔をしながらも大人しくなった。妹はその不思議な現象に目を輝かせている。
私は黙ったまま、姉の瞳から目を逸らせなかった。間違いなく、今お姉様はなんの代償も払わずにこんな大きい魔法を使った。……こんなことができるのは、魔女か聖女だけだ。
「この蔦がある限りここでの話は外に一切漏れません。これはそういう魔法です、貴方たちを害すことはありません」
淡々と、お姉様はそう話す。どうやら聖女の秘密とやらをわざわざ話に来てくれたらしい。面倒事は嫌だし私はのんびり暮らせられたらそれでいいのに。
「……、これは聖女の力ね?」
「そうです」
「一番目のベルタ様、それは一体どういう……」
「そのままの意味ですよ。私は聖女の力を持っています」
ほぼ確信してそう問いかけたが、本当にこれが聖女の力だと聞いて驚いた。姉もこの人生が二回目なのは知っていたが、一度得た聖女の力まで巻きもどるのか。
「厳密に言えば、これは貴方に貰った力なんですよ」
姉の言葉の意味が分からない。そんな話原作小説にも前の人生にも今回の人生でも初めて聞いた。勿論、あげた覚えもない。
……前の人生で、私が死んだあと一体何があったのか。面倒なことは嫌だったが、途端に恐怖に近い好奇心が湧いてくるのがわかった。
ずっと仏頂面だったお姉様は、そのときはじめてどこか困ったように笑った。
姉はそのまま私から視線を逸らし、三番目のベルタへと微笑みかける。
「三番目のベルタは何の話かわからないんでしたね。最初から説明しましょうか」
そう言って一番目のベルタが手始めに説明したのは、私と姉の2人の人生が一度巻き戻っている、ということだった。
あまりにもあっさりと話されたそれに、ディランと妹とマリアンヌは信じられないようなどこか納得したような反応を示している。
最後まで成績が私より奮わなかった姉が、こんなに大きな魔法を使えたというのが何よりの証拠だった。
一番目のベルタはこれから、何を話そうとしているんだろうか。
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