29 / 59
第29話 ーディラン視点ー
しおりを挟む
スピードが落ちてるとはいえ、カイロスは今子供3人分を荷台ごと運んでいる。いくら俺よりいくつか年上とはいえ、相当無理をしているはずだ。
なぜ彼が急にこんなことを始めたのかわからないが、今は走る荷台の音がうるさくてまともに話は出来そうにない。後ろを振り返っても、一番目のベルタ様が追ってきている様子はなかった。
いくつかの曲がり角を走り抜けたあと、ようやく減速してカイロスがゆっくり立ち止まった。彼はとてつもなく息を切らしている。
「……と、とまった……!兄ちゃん何が起こったの?馬車、乗らないの?」
不安げな声を上げる弟をローブの中に隠すように抱き上げ、荷台から飛び降りた。弟たちは随分軽いように感じられた。息を切らしているカイロスにかけよる。
「いきなりなんなんだよカイロス!ちゃんと説明しろよ!」
「はあっ……はあ……、馬車は小回りがきかないからだいぶ時間は稼げたと思うが……一応こっちの路地に来てくれ。ここで話そう」
息を整えながら、カイロスは一層細い路地を顎でさした。この辺は路地が入り組んでいる。馬車が通れないのはもちろん、路地などに馴染みがない貴族では確かに探しづらいだろう。
只事ではないその様子に、俺は弟2人を抱き上げたままカイロスの指し示すほうへとついていく。
路地裏の壁にもたれ、息を整えながらカイロスは頭を抱えるようにしながら話し始めた。
「……多分、一番目のベルタ様はお前らを売り飛ばそうとしてる」
予想だにしていなかった不穏な言葉に、腕の中の弟たちが震えたのがわかった。これが冗談だったなら殴り飛ばしていたところだったが、目の前のカイロスはふざけている様子など微塵もない。自然と、弟たちを抱く手に力が入る。
「コーディリア家がこの国でどれだけ有名かくらいお前も知ってるだろ。その紋章があんなに大きく入った馬車が停まってるっていうのに、人集りどころか視線すらひとつも集まってなかった」
俺はその言葉に素直に驚き、そして彼の視野の広さに感心した。
感心するとと同時に、一番目のベルタ様の言葉に焦って周りが一切見えなくなっていた自分のことを反省する。確かにカイロスも目の前に迫ってくるまで馬車のことに気付いてなかったし、俺なんかカイロスに言われるまで一切気づいていなかった。
「あれは、魔法で意図的に気配を消してる。……いつも一番目のベルタ様が人を買いに行く時に、馬車にかけている魔法だ」
「……はあ?」
そう話す彼の顔は真っ青だ。
人を、買う?……いつも?
その言葉の意味を咀嚼して、その恐ろしさを理解した瞬間ゾッとした。ほんの15歳ほどの少女が、人の売り買いに手馴れているとはどういうことなのか。しかもそれをカイロスが知ってる意味もわからない。
「……意図的に気配を消してるのは、目立たないようにっていう俺たちへの配慮じゃないのか」
「それはない。あれは気配を消す魔法の中でも、かなり高度で繊細なうえに短時間しかもたないやつだ。一介の使用人の迎えのためだけに使えるようなもんじゃない。
……というかそもそも、今日は二番目のベルタ様が既に自分の馬車に魔法をかけてるんだ。二番目様の代わりに迎えに来るだけなら、そっちを使えばいい話だろ」
俺の言葉に彼はハッキリとそう断言した。確かに、それは納得できる。
この世界では魔女と聖女以外が魔法を使う場合、何らかの媒介となる物品を犠牲にする必要がある。
お嬢様が自らの馬車にかけたような、窓の中を見えなくする程度の魔法だと安価な宝石等で済むが、馬車丸ごととなるとその代償はただの宝石では済まないだろう。
そんな魔法を、専属であるカイロスのためならともかく俺のために使うとは到底思えない。
しかしカイロスがやけに詳しいことも気になってしまう。どうしてそんなことを知っているのか話せという意味を込めて、じとりと視線を向けるとカイロスは力なく笑った。
「俺がなんで一番目のベルタ様の専属従者をやってるか知ってるか?ディラン」
なぜ彼が急にこんなことを始めたのかわからないが、今は走る荷台の音がうるさくてまともに話は出来そうにない。後ろを振り返っても、一番目のベルタ様が追ってきている様子はなかった。
いくつかの曲がり角を走り抜けたあと、ようやく減速してカイロスがゆっくり立ち止まった。彼はとてつもなく息を切らしている。
「……と、とまった……!兄ちゃん何が起こったの?馬車、乗らないの?」
不安げな声を上げる弟をローブの中に隠すように抱き上げ、荷台から飛び降りた。弟たちは随分軽いように感じられた。息を切らしているカイロスにかけよる。
「いきなりなんなんだよカイロス!ちゃんと説明しろよ!」
「はあっ……はあ……、馬車は小回りがきかないからだいぶ時間は稼げたと思うが……一応こっちの路地に来てくれ。ここで話そう」
息を整えながら、カイロスは一層細い路地を顎でさした。この辺は路地が入り組んでいる。馬車が通れないのはもちろん、路地などに馴染みがない貴族では確かに探しづらいだろう。
只事ではないその様子に、俺は弟2人を抱き上げたままカイロスの指し示すほうへとついていく。
路地裏の壁にもたれ、息を整えながらカイロスは頭を抱えるようにしながら話し始めた。
「……多分、一番目のベルタ様はお前らを売り飛ばそうとしてる」
予想だにしていなかった不穏な言葉に、腕の中の弟たちが震えたのがわかった。これが冗談だったなら殴り飛ばしていたところだったが、目の前のカイロスはふざけている様子など微塵もない。自然と、弟たちを抱く手に力が入る。
「コーディリア家がこの国でどれだけ有名かくらいお前も知ってるだろ。その紋章があんなに大きく入った馬車が停まってるっていうのに、人集りどころか視線すらひとつも集まってなかった」
俺はその言葉に素直に驚き、そして彼の視野の広さに感心した。
感心するとと同時に、一番目のベルタ様の言葉に焦って周りが一切見えなくなっていた自分のことを反省する。確かにカイロスも目の前に迫ってくるまで馬車のことに気付いてなかったし、俺なんかカイロスに言われるまで一切気づいていなかった。
「あれは、魔法で意図的に気配を消してる。……いつも一番目のベルタ様が人を買いに行く時に、馬車にかけている魔法だ」
「……はあ?」
そう話す彼の顔は真っ青だ。
人を、買う?……いつも?
その言葉の意味を咀嚼して、その恐ろしさを理解した瞬間ゾッとした。ほんの15歳ほどの少女が、人の売り買いに手馴れているとはどういうことなのか。しかもそれをカイロスが知ってる意味もわからない。
「……意図的に気配を消してるのは、目立たないようにっていう俺たちへの配慮じゃないのか」
「それはない。あれは気配を消す魔法の中でも、かなり高度で繊細なうえに短時間しかもたないやつだ。一介の使用人の迎えのためだけに使えるようなもんじゃない。
……というかそもそも、今日は二番目のベルタ様が既に自分の馬車に魔法をかけてるんだ。二番目様の代わりに迎えに来るだけなら、そっちを使えばいい話だろ」
俺の言葉に彼はハッキリとそう断言した。確かに、それは納得できる。
この世界では魔女と聖女以外が魔法を使う場合、何らかの媒介となる物品を犠牲にする必要がある。
お嬢様が自らの馬車にかけたような、窓の中を見えなくする程度の魔法だと安価な宝石等で済むが、馬車丸ごととなるとその代償はただの宝石では済まないだろう。
そんな魔法を、専属であるカイロスのためならともかく俺のために使うとは到底思えない。
しかしカイロスがやけに詳しいことも気になってしまう。どうしてそんなことを知っているのか話せという意味を込めて、じとりと視線を向けるとカイロスは力なく笑った。
「俺がなんで一番目のベルタ様の専属従者をやってるか知ってるか?ディラン」
0
お気に入りに追加
3,145
あなたにおすすめの小説

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

私を利用するための婚約だと気付いたので、別れるまでチクチク攻撃することにしました
柚木ゆず
恋愛
※22日、本編は完結となりました。明日(23日)より、番外編を投稿させていただきます。
そちらでは、レオが太っちょレオを捨てるお話と、もう一つ別のお話を描く予定となっております。
婚約者であるエリックの卑劣な罠を知った、令嬢・リナ。
リナはエリックと別れる日まで、何も知らないフリをしてチクチク攻撃することにしたのでした。

今度は絶対死なないように
溯蓮
恋愛
「ごめんなぁ、お嬢。でもよ、やっぱ一国の王子の方が金払いが良いんだよ。わかってくれよな。」
嫉妬に狂ったせいで誰からも見放された末、昔自分が拾った従者によって殺されたアリアは気が付くと、件の発端である、平民の少女リリー・マグガーデンとで婚約者であるヴィルヘルム・オズワルドが出会う15歳の秋に時を遡っていた。
しかし、一回目の人生ですでに絶望しきっていたアリアは今度こそは死なない事だけを理念に自分の人生を改める。すると、一回目では利害関係でしかなかった従者の様子が変わってきて…?

虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる
珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて……
ゆっくり更新になるかと思います。
ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる