転生聖女のなりそこないは、全てを諦めのんびり生きていくことにした。

迎木尚

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第29話 ーディラン視点ー

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スピードが落ちてるとはいえ、カイロスは今子供3人分を荷台ごと運んでいる。いくら俺よりいくつか年上とはいえ、相当無理をしているはずだ。

なぜ彼が急にこんなことを始めたのかわからないが、今は走る荷台の音がうるさくてまともに話は出来そうにない。後ろを振り返っても、一番目のベルタ様が追ってきている様子はなかった。


いくつかの曲がり角を走り抜けたあと、ようやく減速してカイロスがゆっくり立ち止まった。彼はとてつもなく息を切らしている。


「……と、とまった……!兄ちゃん何が起こったの?馬車、乗らないの?」

不安げな声を上げる弟をローブの中に隠すように抱き上げ、荷台から飛び降りた。弟たちは随分軽いように感じられた。息を切らしているカイロスにかけよる。


「いきなりなんなんだよカイロス!ちゃんと説明しろよ!」

「はあっ……はあ……、馬車は小回りがきかないからだいぶ時間は稼げたと思うが……一応こっちの路地に来てくれ。ここで話そう」


息を整えながら、カイロスは一層細い路地を顎でさした。この辺は路地が入り組んでいる。馬車が通れないのはもちろん、路地などに馴染みがない貴族では確かに探しづらいだろう。

只事ではないその様子に、俺は弟2人を抱き上げたままカイロスの指し示すほうへとついていく。

路地裏の壁にもたれ、息を整えながらカイロスは頭を抱えるようにしながら話し始めた。


「……多分、一番目のベルタ様はお前らを売り飛ばそうとしてる」


予想だにしていなかった不穏な言葉に、腕の中の弟たちが震えたのがわかった。これが冗談だったなら殴り飛ばしていたところだったが、目の前のカイロスはふざけている様子など微塵もない。自然と、弟たちを抱く手に力が入る。


「コーディリア家がこの国でどれだけ有名かくらいお前も知ってるだろ。その紋章があんなに大きく入った馬車が停まってるっていうのに、人集りどころか視線すらひとつも集まってなかった」


俺はその言葉に素直に驚き、そして彼の視野の広さに感心した。
感心するとと同時に、一番目のベルタ様の言葉に焦って周りが一切見えなくなっていた自分のことを反省する。確かにカイロスも目の前に迫ってくるまで馬車のことに気付いてなかったし、俺なんかカイロスに言われるまで一切気づいていなかった。


「あれは、魔法で意図的に気配を消してる。……いつも一番目のベルタ様が人を買いに行く時に、馬車にかけている魔法だ」

「……はあ?」


そう話す彼の顔は真っ青だ。
人を、買う?……いつも?
その言葉の意味を咀嚼して、その恐ろしさを理解した瞬間ゾッとした。ほんの15歳ほどの少女が、人の売り買いに手馴れているとはどういうことなのか。しかもそれをカイロスが知ってる意味もわからない。


「……意図的に気配を消してるのは、目立たないようにっていう俺たちへの配慮じゃないのか」

「それはない。あれは気配を消す魔法の中でも、かなり高度で繊細なうえに短時間しかもたないやつだ。一介の使用人の迎えのためだけに使えるようなもんじゃない。
……というかそもそも、今日は二番目のベルタ様が既に自分の馬車に魔法をかけてるんだ。二番目様の代わりに迎えに来るだけなら、そっちを使えばいい話だろ」


俺の言葉に彼はハッキリとそう断言した。確かに、それは納得できる。

この世界では魔女と聖女以外が魔法を使う場合、何らかの媒介となる物品を犠牲にする必要がある。
お嬢様が自らの馬車にかけたような、窓の中を見えなくする程度の魔法だと安価な宝石等で済むが、馬車丸ごととなるとその代償はただの宝石では済まないだろう。

そんな魔法を、専属であるカイロスのためならともかく俺のために使うとは到底思えない。

しかしカイロスがやけに詳しいことも気になってしまう。どうしてそんなことを知っているのか話せという意味を込めて、じとりと視線を向けるとカイロスは力なく笑った。


「俺がなんで一番目のベルタ様の専属従者をやってるか知ってるか?ディラン」
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