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第20話
しおりを挟む「そもそも、本物の魔女を処刑できたのはそれが初めてだったんですよ。……それまでは処刑前日に魔術で消失したり、処刑後に魔女ではなかったと判明するかのどちらかでした」
魔女狩りの話は、前の前の人生でも実際にあったことだ。魔女と疑わしき者を火炙りにし、死んだら魔女の疑いは晴れ生きていたら魔女だと確定する。なんとも残酷な文化だろう。
弱いものいじめは、本当にどこにでもある話だ。
「じゃあどうして、その魔女だけは処刑されてしまったの?魔女ならたとえ弱っていたって、逃げる力くらいはありそうなものだけど~……」
「……彼女は最期まで待っていたんです。最愛の騎士を」
随分ロマンチックな話だ。そこまでディランが話して、私はふと、どこかで聞いたことがある話だと思考をめぐらせた。魔女に、騎士?
……そういえば、少し前に流行った恋愛小説でそういうテーマのものがあったはず。
「ディラン……その話は、もしかして『森の魔女と王国の騎士』と関係があったりするのかしら~……?」
「それは確か……前にお嬢様が読んでいた小説ですよね?関係があるかは分かりませんが、俺のこの話が元になっている可能性はありますね」
「そうなの~……妙にリアルな物語と思ったのよね」
黒髪差別が蔓延るこの世界で、差別される側である魔族が主人公の物語は珍しい。ましては恋愛小説なんて激レアだ、元々恋愛小説が好きなのもあったが私はすぐに読破した。
……内容を簡単に言うとこうだ。騎士と魔女が囁かな愛を育むも、結婚式を挙げる道中で魔女が捕らえられてしまう。必ず迎えに行くと誓った騎士も、あっけなく上官に殺されてしまい物語は終わる。
『森の魔女と王国の騎士』のあらすじをディランに話すと、やはり大体は黒髪の呪いの起源と同じらしい。でも物語の中には、呪いなんて話は出てこなかった。
「処刑される寸前に騎士が殺されたと知った魔女は、ある呪いを国全体にかけました。同族である証の黒髪の者を守るために。……その呪いの大きさは、国が魔女狩りを禁止するほどのものだったんですよ」
ディランの真剣な眼差しに、私は息を飲んだ。今までの話のほとんどが、こんなに勉強した私でも初めて聞く話だ。いくら待ったって本が新鮮な噂話を話すことは無いから、これからディランに噂話を集めさせるのもいいなと私は関係ないことを思った。
「……呪いの内容は?」
「そこまでは誰も、俺も知りません。ただその魔女の話と黒髪の呪いが存在するという噂だけが……それこそ本になるほど、有名なんですよ」
予想外の答えに、私は思わず拍子抜けした。呪いがあることだけが有名で、呪いの内容は誰も知らない?それは単なる黒髪差別の延長ではないのか。
しばらくぽかん……としたあと、私は少々困惑しながらディランの黒髪に触れた。より一層、皆が何に怖がっているのかわからなくなってしまったのだ。
「話聞いてました!?」
「聞いてたわよ~?その話が本当だとしても、結局どうして黒髪の呪いを怖がることになるのかわからないわ……。その噂だけだと何にもわからないじゃない」
さっき中断してしまった続きをするように、私は彼の頭を撫でた。コミュニケーションが伴うご褒美は好きだが、ハグは恥ずかしすぎるので嫌だと前に彼は言っていた。
2回の人生を経て私はもう精神年齢は40に近い、これはきっと母性だ。愛情が足りないと言うならできるだけ注いであげたいと思う。
「でも、どういう呪いか分からないなんて普通一番怖いですよ。単なる噂でしかないと言えばそれまでですけど……」
「そんな根拠も何もない不確定な呪いより、最初はどちらかというとスラムの不衛生からくる伝染病の方が怖かったわ」
もちろん今のディランは清潔で健康そのものだけど。冗談として言ったそれに、彼は「笑えませんね」と冗談ぽく返してくれた。確かにちょっと、笑えない。
……これから先、一番目のベルタが聖女ベルタになった時。姉はスラムの改善にも動いてくれるのだろうか。動いてくれるといい。聖女になれない自分の無力さが、久しぶりに少しだけ嫌になった。
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