7 / 59
第7話
しおりを挟む
黒髪の少年は、長い前髪から狼のような鋭い目を覗かせ私たちを力いっぱい睨んだ。まるで敵に追い詰められたねずみのようだ。よく見ると傍らには大量のリンゴが入った袋がある。想像よりたくさん盗んでいたらしい。
「ひっ!」
三番目のベルタが、まるで化け物を見たかのような反応を見せた。おそらく彼女は少年の目付きではなく、髪色に怯えている。
私は日本人としての記憶があるから嫌悪感を抱いたことはないが、この世界に黒髪差別は根強く浸透しているのだ。
というのも、黒髪とは魔族の象徴。人の姿をしているということはこの子は魔族と人間の間に産まれた子なのだろうが、異種族というのはどうしても差別の標的にされやすい。
「こ、こんな黒髪はやく始末した方がいいと思いますわ!だってとっても危険ですもの……!どんな力が秘めてるかわかりませんのよ、今この瞬間お父様が殺される可能性だってありますのよ!」
「ふむ、ありがとう。一番目のベルタはどう思う?」
「えっと、あの……私は……、お金をたくさんあげて解放してあげたらいいと思います……」
そんなことして何になると言うんだ。根本的な解決にも処罰にもならない、それなら過激ではあるがまだ危険から当主を守ろうとしている妹の方が立派だ。
「二番目は?」
お父様が私に視線を向ける。えー……。
どうでもいいと思っていることに意見を求められることほど困るものは無い。私は考えるふりをしながら、少年の目を見た。
「ッ、なあ、そこのあんた!」
すると目が合った瞬間、少年が私に何かを叫んできた。驚いた姉と妹はお父様の後ろへ隠れ、少年は万一を危惧され兵に身体を押さえつけられている。私だけが、その場で歳不相応な淑女然とした姿勢を変えずにいた。
変える必要が無いからだ。一応私はこの二日間思う存分ぐうたらしたばかりなのだ。ここで殺されたって、きっと前の人生よりマシだろう。
「俺はマーメイドと人間の子だ!マーメイドは人型だから魔族とのハーフでも俺はちゃんと知性は持ってるし、逆に貴族の寝首をかけるような力は何も持ってない!」
……急に、少年は自己紹介を始めた。私が何も言わなくても少年は言葉を続ける。お父様は珍しく少し驚いた顔で少年を見ていた。そういえば、確かこの世界でマーメイドは希少種だったような。
知性があるという主張も、コーディリア家に侵入を果たせている時点で本当のことなのだろう。結果捕まってしまったけど、盗むものをリンゴに留めたのもまあ教育を受けていないスラムの者にしては賢い選択だろう。
「身体は丈夫だし、スラムに住んでるが読み書きと簡単な計算もできる、だからさ……あんた、俺を雇わないか」
しん、と辺りが静まりかえる。ええとつまり……就職面接?彼の意図は分からないが、縋るような目から雇ってほしいことは本当に思える。妹が私のために声を荒げたが彼は怯まない。
しかし何故私に?さっきまであんなに色んな人に睨みをきかせてたというのに。お姉様の案にしないと何をするか分からないぞとか適当に脅しをかけるでもなく、さっきから微動だにしていない私に雇えと?
「ん~……別にいいわよ」
「お姉様!?」
まあしかし断る理由もない。私としてはお父様からの質問に答えるのに迷っていたから、ちょうどいい。
少年が、まるで信じられないとでも言うような顔でこちらを見ていた。提案した本人が1番驚いているらしい。私を案じ止めてくれる妹に、ただ笑みを返した。
「ひっ!」
三番目のベルタが、まるで化け物を見たかのような反応を見せた。おそらく彼女は少年の目付きではなく、髪色に怯えている。
私は日本人としての記憶があるから嫌悪感を抱いたことはないが、この世界に黒髪差別は根強く浸透しているのだ。
というのも、黒髪とは魔族の象徴。人の姿をしているということはこの子は魔族と人間の間に産まれた子なのだろうが、異種族というのはどうしても差別の標的にされやすい。
「こ、こんな黒髪はやく始末した方がいいと思いますわ!だってとっても危険ですもの……!どんな力が秘めてるかわかりませんのよ、今この瞬間お父様が殺される可能性だってありますのよ!」
「ふむ、ありがとう。一番目のベルタはどう思う?」
「えっと、あの……私は……、お金をたくさんあげて解放してあげたらいいと思います……」
そんなことして何になると言うんだ。根本的な解決にも処罰にもならない、それなら過激ではあるがまだ危険から当主を守ろうとしている妹の方が立派だ。
「二番目は?」
お父様が私に視線を向ける。えー……。
どうでもいいと思っていることに意見を求められることほど困るものは無い。私は考えるふりをしながら、少年の目を見た。
「ッ、なあ、そこのあんた!」
すると目が合った瞬間、少年が私に何かを叫んできた。驚いた姉と妹はお父様の後ろへ隠れ、少年は万一を危惧され兵に身体を押さえつけられている。私だけが、その場で歳不相応な淑女然とした姿勢を変えずにいた。
変える必要が無いからだ。一応私はこの二日間思う存分ぐうたらしたばかりなのだ。ここで殺されたって、きっと前の人生よりマシだろう。
「俺はマーメイドと人間の子だ!マーメイドは人型だから魔族とのハーフでも俺はちゃんと知性は持ってるし、逆に貴族の寝首をかけるような力は何も持ってない!」
……急に、少年は自己紹介を始めた。私が何も言わなくても少年は言葉を続ける。お父様は珍しく少し驚いた顔で少年を見ていた。そういえば、確かこの世界でマーメイドは希少種だったような。
知性があるという主張も、コーディリア家に侵入を果たせている時点で本当のことなのだろう。結果捕まってしまったけど、盗むものをリンゴに留めたのもまあ教育を受けていないスラムの者にしては賢い選択だろう。
「身体は丈夫だし、スラムに住んでるが読み書きと簡単な計算もできる、だからさ……あんた、俺を雇わないか」
しん、と辺りが静まりかえる。ええとつまり……就職面接?彼の意図は分からないが、縋るような目から雇ってほしいことは本当に思える。妹が私のために声を荒げたが彼は怯まない。
しかし何故私に?さっきまであんなに色んな人に睨みをきかせてたというのに。お姉様の案にしないと何をするか分からないぞとか適当に脅しをかけるでもなく、さっきから微動だにしていない私に雇えと?
「ん~……別にいいわよ」
「お姉様!?」
まあしかし断る理由もない。私としてはお父様からの質問に答えるのに迷っていたから、ちょうどいい。
少年が、まるで信じられないとでも言うような顔でこちらを見ていた。提案した本人が1番驚いているらしい。私を案じ止めてくれる妹に、ただ笑みを返した。
2
お気に入りに追加
3,152
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
なりすまされた令嬢 〜健気に働く王室の寵姫〜
瀬乃アンナ
恋愛
国内随一の名門に生まれたセシル。しかし姉は選ばれし子に与えられる瞳を手に入れるために、赤ん坊のセシルを生贄として捨て、成り代わってしまう。順風満帆に人望を手に入れる姉とは別の場所で、奇しくも助けられたセシルは妖精も悪魔をも魅了する不思議な能力に助けられながら、平民として美しく成長する。
ひょんな事件をきっかけに皇族と接することになり、森と動物と育った世間知らずセシルは皇太子から名門貴族まで、素直関わる度に人の興味を惹いては何かと構われ始める。
何に対しても興味を持たなかった皇太子に慌てる周りと、無垢なセシルのお話
小説家になろう様でも掲載しております。
(更新は深夜か土日が多くなるかとおもいます!)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる