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第3話
しおりを挟むそのまま妹に手を引かれて食卓へと急ぐ。私たちは、三人姉妹とまだ赤ちゃんの長男1人を合わせた四人兄妹で、家族仲も極めて良好だった。
コーディリア家は、代々聖女を作るための家だ。女神ベルタの子孫だとされているコーディリア家では産まれた娘全員にその女神の名前をつける風習がある。
とてもややこしいが、何番目のベルタと呼ぶことでなんとか呼び分けるのだ。
聖女になる条件は小説に詳しく書いてなかったけれど……、きっと努力すれば私が聖女になれるはず。
「おはようございます、2人とも」
既に食卓についている姉が、遠慮がちに私たちに挨拶をした。それに笑顔で返して、私も席に座る。父や母とも挨拶を交わして和やかな食事が始まった。
当主であるお父様が銀髪なのを見るに、銀色の髪はコーディリア家特有のものらしい。一番目のベルタである姉は大人しく控えめな性格だ。姉は私たちとは違うストレートな銀髪をしている。
「あんまり食べるとこのあとの授業でお腹が痛くなりますよ」
「ふふ、大丈夫よ1番目のお姉様!」
姉と妹が私を挟んで楽しそうに会話している。いつもと同じ美味しいパンとスープとサラダを食べれば、そのあとはいつもと同じ厳しい教育が始まる。
厳しいといっても自主性を重んじる方針のため、令嬢としての基本教養以外は結構自由が利く。さいあく聖女になるための教育は一切受けないということも可能なのだ。
……けれど私たちは三人姉妹だ。そのなかで聖女になれるのは1人だけ。「ベルタ・コーディリア」はやがて1人になる。聖女になれなかった他の娘は、名前を変えてこの家から出なければいけない。そんなの絶対に嫌だ。
だから聖女になるには、少なくともこの2人よりかは努力しなくちゃいけない。授業を休むなんてもってのほかだ。
姉や妹には悪いけど、こっちは転生までしてるうえに小説の知識だってある。あとはふたりを蹴落とす覚悟で、聖女になるための努力を惜しまなかったらいい。……私はもう、前世のようなつまらない人生を歩みたくなかった。
「ねえお母様、私の授業……増やしてくれないかしら?」
三番目のベルタが、こちらをちらりと見るのがわかった。私の言葉に母はニコリと笑う。
それから私は10年間聖女になるためだけに、血のにじむような努力をした。遊ばず寝る間も惜しんで勉強し、奉仕活動だって積極的に行った。きっとこの努力は花咲くと、そう信じて。
10年の間で次第に私に影響されたのか、張り合うように妹も授業を増やしたり私をライバル視するようになった。
姉は相変わらず大人しかったが、私が本格的に聖女を目指し出してからはなんとなく家全体にギスギスした雰囲気が漂っていた。
末弟は幼いながらにそんな家の雰囲気を感じ取っていたのか、姉のそばにいることが多かった。
でもこれも仕方ないんだ。名実共に私たちはライバルなのだから。両親も、やがてこうなることがわかっていたように仲が悪くなっていく私たちを見ていつもニコニコと笑みを崩さなかった。
聖女を目指す者として努力は惜しまないのも勿論。付き合う友人は選び、私専属である護衛騎士も兼ねた従者についてもできるだけ優秀な者を選んだ。侍女だって見目麗しい者で揃えたし、ドレスだってアクセサリーだって、何でも姉妹で一番いいものを常につけるように努力した。
「だって聖女になるのは私なのよ!」
そういう私を周りも持ち上げた。聖女になるのは二番目のベルタで間違いないと誰もが私にそう言った。根拠の無い確信は、私を舞い上がらせた。自分は特別な存在なんだと、そう思うだけで私は無敵になった気さえした。
……実際、無敵だった。
17歳の冬、聖女の試験に落ちるまでは。
「……嘘、私?私が受かったの?私が……聖女?」
丸いメガネの奥でぼろぼろと涙を流して喜んでいるのは姉だった。
喜びの涙で潤む瞳はまさしくヒロインのもので、悔しいけどそれは本当に…なによりも綺麗で。
残酷なほどに、美しい光景だった。
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