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第2話
しおりを挟む私は元々普通の日本人女性で、今日は親の勧めでお見合いをしていた。何もかも親の言う通り生きてきたつまらない人生を今更少しだけ後悔して、夜に自室で1人物思いに耽けっていたのだ。
私は、何気なく本棚から学生時代に流行った有名な恋愛冒険小説『サファイアの朝焼け』をとりだした。
「こんな色だったかしら」
数年ぶりに取り出したその本に少し違和感を覚える。表紙の中央のイラストの周りが、まるで銀色の蔦に絡まれたような模様に変わっていたのだ。私の記憶する限りでは中央のイラスト以外無地だったはず……。
しかし現実的に考えて、表紙の模様が変わるなんてことはありえない。
私はそのまま気のせいということにして、そのまま目線を少し下へと滑らせた。
「冒険と、運命の恋……」
大切に巻かれたままの帯に書かれてある文章を読み上げる。それらは私の人生に全くなかったものだ。この本は、私の小さな憧れで宝物だった。
もしもこんな人生を歩めたら。
サファイアの朝焼けは、主人公である聖女と王子様と選ばれた騎士達が共に冒険し魔王を倒す王道物語だ。25歳の女がこんな物語に憧れてると知ったら、親やお見合い相手は笑うだろうか。
そして、久しぶりに本を読み直そうと表紙に手をかけたその瞬間ーー、私の意識は途切れたのだろう。
そこからの記憶が全くない。気が付けばこの銀髪の幼女に転生していた。
「痛っ……」
サファイアの朝焼けを表紙を飾る銀色の蔦のことを思い出した瞬間、頭に激痛が走る。小さな手で思わず頭を抑えた。激痛と共に流れ込んでくるのは……「ベルタ・コーディリア」としての5年分の記憶だ。
「私は、ベルタ・コーディリア……。そう、私は二番目のベルタなの……。もう、愛菜なんかじゃないのよ……」
確かめるようにそう呟く。流れてきた記憶のおかげか、カナリアのような自分の可愛らしい声にも幾分か慣れた。
コーディリア家、それは……「サファイアの朝焼け」に出てくる聖女アーシュラが産まれ育った家の名前だ。
ベルタという名前は、コーディリア家で産まれた女全員に名付けられる仮の名前。私は2番目、次女のベルタだ。
この時私は自らの運命やこれから待ち受ける何もかもに対して、愚かにもわくわくしてしまっていた
大好きな本の中に入れて、つまらない人生から抜け出せたんだ。
私こそが選ばれた転生者で、聖女になるべき存在なんだ。
そう心の底から、信じて疑わなかった。
がちゃりとドアが開かれる。にこやかな侍女たちが朝の用意をしに来てくれたのだ。私はベルタの方の記憶を頼りに、なるべく自然にその人たちへと接する。一流の侍女たちの手によって私の銀色の髪は整えられ、人前に出るための服に着替えさせられる。
これが、私のこれからの日常だ。
「二番目のお姉様、朝ごはんよ!」
私より早起きだったのか、三番目のベルタである少し気の強い妹が私を迎えに来てくれた。軽くウェーブのかかった銀髪をおろしている私とは違って、彼女は強めの巻き髪を2つに結んでいる。
とても可愛らしい妹だ。コーディリア家として産まれなかったら、私はこの子を精一杯可愛がっただろう。
でもダメなの。ごめんね三番目のベルタ。私は聖女になるために、自分以外のベルタを蹴落とさなければいけないのよ。
「……おはよう、三番目のベルタ」
私が何を思っているかも知らずに、妹は私に可愛らしくも快活な笑みを見せた。
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