いちばんの友達

あなたの笑顔

 「泉、一緒に帰ろ？」

ふわりとせつが私に微笑みかけた。
少しぎこちない、昔からよくみていた笑顔だった。

「うん、せつから誘ってもらえるなんて、久しぶり？だよね」

久しぶり？いや、いつもだっけ。

「…？いつもでしょ。私たち、親友じゃない」

そうだっけ？そうだよね。

 「大好き。私、泉をずっと好きよ。」

そうだ。私たちはずっと好き同士。
そう、だよね。
でも、せつはこんな顔、私に見せてた？
せつは、大嫌いって私を…あれ？

「せつ、ここは、どこ？」

「そんなの、どうでもいいでしょ？」

せつは笑った。
私が良くするあの笑顔によく似ている。

ああ、やっぱり違う。
こんなの全部、嘘だよ。

こんなの起きる筈なかった。

「せつ、愛してるよ。」

無邪気に喜んでいるような顔。
せつはもう、そんな顔絶対しない。

自分の首を絞める
苦しい。

頭がくらくらしてくる。
こういうところだけリアルだ。
視界が真っ暗になって、だんだん何も考えられなくなる。


目が覚める。
あ、自分の部屋だ。

今日もまた、こんな夢を見てしまうのだ。
あの日から毎日見ているのに、いつも気付けない。

こんな日、来る筈ないのにね。



■■■■■■■■■■



「せつ、せつ。私にはあなただけだから。捨てないで」

あはは。
良い気味だ。
まわりの皆に嫌われたんだ。


「せつ、愛してるの。はなれていかないで」

私の腕にぎゅっと絡ませた。
目にはうっすら涙が浮かび、いつものような余裕など全くない
泉には、私しかいない。

いつ捨ててやろうか。
泉を他でもない私が、痛め付けてやりたい。

「せつ、好き。大好きよ。そう、あなただけだから。」

ニヤリと口角が上がった。
待って、本当に泉がこんなことになる？
泉がこんなことになるわけない。

泉はわざとすがりつきに来た？

いつもとは違う泉のはずが、いつものような、いや、いつも以上に気味が悪い。

「ねぇ、私にはあなただけ。せつ、わかるでしょう？」

『せつには私だけのように。』

そう言われた気がした。

怖い、怖い。
辺りが暗くなる。

泉は笑顔だ。
にこにこ、私にすがりつく。
でも、ほんとうに？すがりついているのは本当に泉？


ズブズブと地面が沈んでいく。

嫌だ、逃げなきゃ。

泉から離れようとするが、泉はすごい力で私を引っ張る。

痛い、怖い。
沈んでいく。

体が全部沈んで、光もなにもなくなって、泉に捕まれている感覚だけになる。

ああ、これが死ぬことなの？

何時間たったか分からない。
泉もいるのかすら分からない。


ふわりと引っ張られた気がして、目が覚めた。

ああ、自分の部屋だ。

ずっとこんな夢を見る。
夢でさえも泉に苦しめられる。

夢くらいは私に優しい世界にしてよ。