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第一部
第十一話――「彼は愚かな少年なのでした」
しおりを挟む水兵達の制圧射撃が始まると、一時的に工作員からの射撃が止んだ。
もう、今しかないな。
俺は無我夢中でヘリに向かって走った。
走りながら銃を撃ちながら、とにかく走った。
途中、弾が切れた小銃を放り投げ、腰の拳銃を抜いてそのままヘリの中に入り込むと、操縦席で操作中だった工作員の頭めがけて至近距離から数発、拳銃を発射した。
、、、これほど至近距離で人を撃ったことは、もちろん初めてだった。
わかってはいたが、これが戦争だ。
目の前の敵は、操縦桿を握ったまま、血塗れになってもう動く気配が無かった。
ヘリの下では、先ほどまで銃撃戦を繰り広げていた工作員が、水兵との銃撃に負け、死体になっていた。
、、、終わったのだ。
ヘリのローターはまだ回ったままだが、制圧し、ヘリを確保したことを水兵に親指を立てて合図すると、向こうから歓声が上がった。
ぞろぞろと、飛行甲板上に水兵が出てくる。
、、、え、こんなにいたの?
おまえ等、少しは手伝えよ、と思いつつ、この単身乗り込んだ陸軍軍曹である俺を、彼らは歓喜で迎え入れてくれた。
「おい、だれか、医務室に運ばれた女性士官がどうなったか知らないか?」
「ああ、彼女は今、緊急手術をしています、案内します」
甲板上に出る時は、随分混乱したが、案内がいると早いものだ。
それでも原子力空母の艦内はまるで迷路だ。
敵は倒した、空母も洋上に出ることが出来た。
これで歴史は、第3次世界大戦を回避出来たのだ。
あとは、彼女の怪我だけが心配だ。
医務室に到着すると、既に手術は終わっていた。
軍医が言うには、命に別状はないとのことであったが、出血があるため、もう少し療養が必要となるだろうとのことだった。
ああ、もう気が抜けた。
彼女が助かる。
俺の命の恩人だ。
そう、彼女は俺にとって、特別な存在なのだ。
知り合って何日とか、そう言う時間の問題ではない、俺のせいで、こんな大けがをしてしまったのだから、俺は彼女の一生に対して、責任を追わなくてはならないな。
「、、、、ああ、雄介様、ご無事で」
彼女が目を覚ました。
手術に麻酔を使っていなかったらしく、彼女は酷く辛そうにしていた。
「まったく、君は無茶をする、、、申し訳ない、まさか君をこれほど危険な目に合わせるとは思っていなかった。」
「雄介様、ここは?」
「安心したまえ、ここは原子力空母の艦内だ」
すると、彼女の顔は、見る見る蒼白となっていった。
「どうした?何か不安でもあるのか?」
「雄介様、そのままお耳をおかしください、この空母は、もうだめです、脱出のご準備を」
「何を言っている、この艦の工作員は全て排除した、安心してくれ」
「いえ、そうではありません。マーシャンからの通信が入っています。艦内の工作員は、恐らく排除仕切れていません」
マジか?まだ潜入しているのか?
どうする?脱出ったって、ここ、原子力空母だぞ。
無事に沖合に出れれば、こちらの勝ちと思っていたのに、クソ!
「おい、だれか、話を聞いてくれ、艦内にまだ、武装工作員が潜入している可能性がある、調査を、、、」
そう言い終える前に、空母が大きく動揺した。
もの凄い音の爆発が、艦内深部から伝わって来た。
「なんだ、どこからだ?」
「機関部から、爆発音」
艦内スピーカーから、爆発音が機関室の方であることが流れてきた。
、、、ん?機関部?
おいおい、それって原子炉じゃん。
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