(仮)言葉にしないと伝わらない

本郷むつみ

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葛藤

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 美月と祐介はファン感謝祭に来ていた。
 仕事と言っていた祐介は

「有休取っちゃった。少しでも美月ちゃんといたいから」

 そう言って祐介とゲシュペンストのファン感謝祭にくることになった。祐介と一緒に圭吾の前に出ることにためらいはあったが、気にするのはやめた。

(私はサポーターなんだから)

 ただ1つ、あの日以来変わった事と言えば圭吾のほうからメールが届くようになった。今までは、美月からのメールの割合が多かったが、今では逆転している。
 しかし、意味のない雑談メールが多い。圭吾が自分に何を求めているのかが美月にはわからなかった。

「あんまり楽しそうじゃないね」

 祐介が美月の様子を見て話しかけてくる。慌てて「そんなことないです」と美月は首を振った。
 会場に入ると少しサポーターの数が少ない気がした。今年のゲシュペンストの成績ではしょうがない気がした。中断明けはリーグ終盤戦に差し掛かる。今の順位は最下位。
 このままでは降格すると言う状況でファン感謝祭に人が集まるわけがない。

(なんか寂しい)

 美月の率直な感想だった。しかしオープニングが始まり、会場に選手が登場してくると歓声が上がり、熱気に包まれ始めた。
 そんな中、どうしても圭吾に目が行ってしまう美月。隣の祐介も選手達の写真を撮っていた。ブログに書くつもりなのだろう。

(私と行ったって書くのかな?)

 美月がふと疑問に思った。
 2人の関係は確実に彼氏彼女の関係に近づいている。しかし、ネット友達のみんなには言ってないし、宣言する必要性も美月は感じていなかった。
 逆に、知られたくない気持ちの方が美月には大きかった。そんな美月の気持ちを知ってか知らずか、祐介はそこのことに関しては一切ふれないでいた。
 いつか、ネット「ラボーラ」のみんなに、そして圭吾にも知られる日が来るだろう。自信を持って(祐介の彼女)と名乗れる日が来るのだろうか? 美月の悩みは尽きなかった。

 イベントが始まり、ミニゲームやオークションなどが始まる。
 祐介が美月の手を取り、

「石川選手に会いに行こう」

 と、美月を促した。初めて祐介と手を繋いで歩く。圭吾とは2回、手を繋いだ。
 その時とは違う感覚が美月を包み込む。
 美月は緊張し始めた。
 圭吾に見られたらどう思われるかの不安。それと同時に、好きになり始めてる祐介の手を握っていたい気持ち。
2つの思いが入り乱れる。
 圭吾と手を繋いだあの日。美月の記憶とともに温かく大きな手の感触が蘇ってくる。
 その瞬間、祐介と繋いだ手の力が緩んだ。
 しかし祐介の手を振りほどく事も出来ず、圭吾のトークショウのブースにそのまま到着してしまった。
 圭吾に見つかりたくない。そんな思いが美月の心を支配する。しかし、心配は不要だと思えた。
 ブースには人がたくさんの人がいる。圭吾はゲシュペンストの看板選手。将来はA代表をも期待され、世界にも通じる選手だと言われるだけあって他の選手のブースよりも人が多かった。

(こんなたくさんの人の中、私を見つけることなんてないよね)

 美月は祐介の手を強く握りかえし、圭吾のトークショウを聞く。そして○×クイズをしたり、選手たちのミニゲーム見たり、美月は祐介とファン感謝祭を楽しんだ。
 もちろんチケットをくれた圭吾にも感謝する。
 祐介も純粋に感謝祭を楽しんでいるように見えた2人の距離が縮むのを感じつつ、最高の1日を過ごした。
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