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悩ませる2人
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美月と祐介は試合が終了と同時にスタジアムから出ていた。
会話が無いまま車に乗り込むが、そんな空気に耐えられないように祐介が口を開いた。
「ごめんね。せっかくこんな所まで連れてきて、負け試合見せて」
「祐介君のせいじゃないですよ。」
「だよね~。ゲシュペンスト、なにやってんだろう。勝っていれば、美月ちゃんと気分よく帰れたのに。」
冗談のように祐介がつぶやいた。美月は雄介の愚痴に笑いながら答えた。
「大丈夫です。こんな事で祐介君を嫌いにはならないから」
「これで嫌いになられたらゲシュペンストのサポーターを辞めるよ」
少しずつ車の中の雰囲気が明るくなっていく。美月が思っていた疑問を祐介に聞いてみた。
「なんで、初デートで試合観戦を選んだんですか?」
「う~ん。これでも色々考えたんだよね。遊園地とか水族館とか。でも、せっかくの初デートだし、たくさん話をしたいしって思ったんだよね」
「でも、遊園地でも水族館でも、たくさん話はできますよ」
美月が不思議そうに祐介に聞く。
「答えは簡単だよ。美月ちゃんの笑顔が1番見られそうな試合観戦を選んだの」
「えっ?」
「遊園地より水族館より、何よりも美月ちゃんの笑顔や元気な顔が見れると思ったから。美月ちゃんの笑顔が見たかったから。だから横浜まで来たの。結果は裏目に出ちゃったけどね」
笑いながら祐介は車を走らせる。その祐介のセリフに美月は照れていた。
下を向き、赤くほってた頬を祐介に見られたくなかった。
「どうしたの?黙っちゃって」
「前を見て運転して!」
「はいぃ!」
美月を見ようとした祐介を怒鳴りつけ、さらに下を向く。また2人の間に沈黙の時間が出来る。
が、祐介の忍び笑いで、沈黙が破れるまでには時間はかからなかった。
「やっと、敬語をやめてくれたね。少しだけど」
祐介は忍び笑いをやめ、笑いながら美月に言った。美月はハッと気付き「ごめんなさい」と謝る。
そんな美月に祐介は笑いながら優しく話し始めた。
「また敬語になっちゃったね。怒ってないって言うか嬉しいよ。少しずつだけど、壁がなくなり始めてることが実感できるからさ。」
照れる美月は話題を変えようと頭の中で何を話そうか考えた。
「今度はいつ会えます?」
思ってもいなかった美月の言葉に祐介は戸惑いながらも喜んだ。美月もまた祐介と会いたいと思っていた。
「また、会ってくれるの?」
「もちろんですよ。祐介君が嫌じゃなければ、ですけどね」
「次の事までは考えてなかったな。向こうについてから結果を聞こうと思っていたからね」
そう言いながら祐介は今日のデートが成功した事を心の中で喜んだ。
「来週の土曜日にゲシュペンストのファン感謝祭があるんです。一緒に行ってくれます?」
美月は圭吾からもらったチケットで祐介を誘った。少しだけ圭吾に悪い気がしたが、祐介と一緒に行きたいと美月は強く思った。
祐介と行けば、圭吾への想いが少しは消えるかもしれない。美月はそう思ったのだが、祐介の返事は美月にとっては非情なものだった
「ごめん、来週の土曜はムリなんだ。仕事があるの」
「そうなんですか」
「ごめんね。お姉ちゃんと行ってきたら?」
「分かりました。そうします。」
そう答えながら美月は圭吾に会っていいのか不安であった隣に祐介が居たら、その不安は解消されるかもしれない。祐介に引かれ始めている美月はそう思えた。
しかし、1人で会えば圭吾への想いが消えなくなりそうで正直怖い。そんな不安を知らずに祐介は「楽しんできたら」と言ってくれる。
胸が痛くなるぐらいの祐介への優しさ。
消えない圭吾への思い。
少しずつ美月の中で芽生える祐介への感情。
2つの想いが入り混じる自分への自己嫌悪。
車を走らせる祐介を見ながら心の中で
(ごめんなさい)
と美月は謝った。
今は祐介と一緒にいる。祐介をもっと知りたい。
その思いに偽りは無かった。
祐介もまた、2人の間の壁を取り除きたいと思っていた。お互いの想いが重なり合い、車の中の会話は途切れなかった。そんな時、美月の携帯にメールが届いた。
祐介に「ごめんなさい」と言って携帯を開く。
送ってきたのは圭吾であった。車の中で、隣には祐介がいる。美月はメールを開かせるのを止まらせた。
今ここでメールを見てもいいものか?
美月は迷っていた。
「誰から?」
祐介が何気なく聞いてきた。美月はとっさに「お姉ちゃんから」と嘘をついてしまった。
「読まないの?」
「読んでいいの?」
「いいよ」
何の考えもなしに祐介が答えた。このメールが2人のこれからに多大な影響を与えるとも知らずに。
美月はその答えを聞き、メールを開いてみた。
「見間違いだったらごめんね。今日、横浜に試合を見に来てた? 美月ちゃんによく似た人を見つけてさ。声もよく似ていた。 最後確認しに行ったけど、その時にはいなかったから。 あと、相談したい事があるんだけど、聞いてくれるかな? 時間がある時に連絡くれると嬉しいです」
美月はメールを読んで無言になってしまった。そんな美月の雰囲気を察して祐介が「どうしたの?」と聞いてきた。
「ううん、なんでもない」
美月は圭吾への思いをとっさに隠した。嬉しい反面、隣にいる祐介の罪悪感がこみ上げてくる。
とりあえず、携帯をバックに入れ、祐介に何でも無いような態度いるようにした。美月のそんな感情を気付きもせず、祐介は何事も無かったかのように話をし始める。
祐介の気遣いが、優しさが美月に伝わってくる。
(圭吾君、私はサポーターでしょ。世界の違う人でしょ。苦しめないでよ。)
祐介を選ぼうとしている美月。圭吾のメールに返事を出して良いのかわからなかった。
美月はただ迷うだけだった。家に到着するまでの祐介との楽しい時間が苦痛の時間に変わっていった。
会話が無いまま車に乗り込むが、そんな空気に耐えられないように祐介が口を開いた。
「ごめんね。せっかくこんな所まで連れてきて、負け試合見せて」
「祐介君のせいじゃないですよ。」
「だよね~。ゲシュペンスト、なにやってんだろう。勝っていれば、美月ちゃんと気分よく帰れたのに。」
冗談のように祐介がつぶやいた。美月は雄介の愚痴に笑いながら答えた。
「大丈夫です。こんな事で祐介君を嫌いにはならないから」
「これで嫌いになられたらゲシュペンストのサポーターを辞めるよ」
少しずつ車の中の雰囲気が明るくなっていく。美月が思っていた疑問を祐介に聞いてみた。
「なんで、初デートで試合観戦を選んだんですか?」
「う~ん。これでも色々考えたんだよね。遊園地とか水族館とか。でも、せっかくの初デートだし、たくさん話をしたいしって思ったんだよね」
「でも、遊園地でも水族館でも、たくさん話はできますよ」
美月が不思議そうに祐介に聞く。
「答えは簡単だよ。美月ちゃんの笑顔が1番見られそうな試合観戦を選んだの」
「えっ?」
「遊園地より水族館より、何よりも美月ちゃんの笑顔や元気な顔が見れると思ったから。美月ちゃんの笑顔が見たかったから。だから横浜まで来たの。結果は裏目に出ちゃったけどね」
笑いながら祐介は車を走らせる。その祐介のセリフに美月は照れていた。
下を向き、赤くほってた頬を祐介に見られたくなかった。
「どうしたの?黙っちゃって」
「前を見て運転して!」
「はいぃ!」
美月を見ようとした祐介を怒鳴りつけ、さらに下を向く。また2人の間に沈黙の時間が出来る。
が、祐介の忍び笑いで、沈黙が破れるまでには時間はかからなかった。
「やっと、敬語をやめてくれたね。少しだけど」
祐介は忍び笑いをやめ、笑いながら美月に言った。美月はハッと気付き「ごめんなさい」と謝る。
そんな美月に祐介は笑いながら優しく話し始めた。
「また敬語になっちゃったね。怒ってないって言うか嬉しいよ。少しずつだけど、壁がなくなり始めてることが実感できるからさ。」
照れる美月は話題を変えようと頭の中で何を話そうか考えた。
「今度はいつ会えます?」
思ってもいなかった美月の言葉に祐介は戸惑いながらも喜んだ。美月もまた祐介と会いたいと思っていた。
「また、会ってくれるの?」
「もちろんですよ。祐介君が嫌じゃなければ、ですけどね」
「次の事までは考えてなかったな。向こうについてから結果を聞こうと思っていたからね」
そう言いながら祐介は今日のデートが成功した事を心の中で喜んだ。
「来週の土曜日にゲシュペンストのファン感謝祭があるんです。一緒に行ってくれます?」
美月は圭吾からもらったチケットで祐介を誘った。少しだけ圭吾に悪い気がしたが、祐介と一緒に行きたいと美月は強く思った。
祐介と行けば、圭吾への想いが少しは消えるかもしれない。美月はそう思ったのだが、祐介の返事は美月にとっては非情なものだった
「ごめん、来週の土曜はムリなんだ。仕事があるの」
「そうなんですか」
「ごめんね。お姉ちゃんと行ってきたら?」
「分かりました。そうします。」
そう答えながら美月は圭吾に会っていいのか不安であった隣に祐介が居たら、その不安は解消されるかもしれない。祐介に引かれ始めている美月はそう思えた。
しかし、1人で会えば圭吾への想いが消えなくなりそうで正直怖い。そんな不安を知らずに祐介は「楽しんできたら」と言ってくれる。
胸が痛くなるぐらいの祐介への優しさ。
消えない圭吾への思い。
少しずつ美月の中で芽生える祐介への感情。
2つの想いが入り混じる自分への自己嫌悪。
車を走らせる祐介を見ながら心の中で
(ごめんなさい)
と美月は謝った。
今は祐介と一緒にいる。祐介をもっと知りたい。
その思いに偽りは無かった。
祐介もまた、2人の間の壁を取り除きたいと思っていた。お互いの想いが重なり合い、車の中の会話は途切れなかった。そんな時、美月の携帯にメールが届いた。
祐介に「ごめんなさい」と言って携帯を開く。
送ってきたのは圭吾であった。車の中で、隣には祐介がいる。美月はメールを開かせるのを止まらせた。
今ここでメールを見てもいいものか?
美月は迷っていた。
「誰から?」
祐介が何気なく聞いてきた。美月はとっさに「お姉ちゃんから」と嘘をついてしまった。
「読まないの?」
「読んでいいの?」
「いいよ」
何の考えもなしに祐介が答えた。このメールが2人のこれからに多大な影響を与えるとも知らずに。
美月はその答えを聞き、メールを開いてみた。
「見間違いだったらごめんね。今日、横浜に試合を見に来てた? 美月ちゃんによく似た人を見つけてさ。声もよく似ていた。 最後確認しに行ったけど、その時にはいなかったから。 あと、相談したい事があるんだけど、聞いてくれるかな? 時間がある時に連絡くれると嬉しいです」
美月はメールを読んで無言になってしまった。そんな美月の雰囲気を察して祐介が「どうしたの?」と聞いてきた。
「ううん、なんでもない」
美月は圭吾への思いをとっさに隠した。嬉しい反面、隣にいる祐介の罪悪感がこみ上げてくる。
とりあえず、携帯をバックに入れ、祐介に何でも無いような態度いるようにした。美月のそんな感情を気付きもせず、祐介は何事も無かったかのように話をし始める。
祐介の気遣いが、優しさが美月に伝わってくる。
(圭吾君、私はサポーターでしょ。世界の違う人でしょ。苦しめないでよ。)
祐介を選ぼうとしている美月。圭吾のメールに返事を出して良いのかわからなかった。
美月はただ迷うだけだった。家に到着するまでの祐介との楽しい時間が苦痛の時間に変わっていった。
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