（仮）言葉にしないと伝わらない

戻らない歯車

　圭吾はいつも以上に気合が入っていた。
　今日の試合でリーグは少しの間、中断期間に入る。
　この試合に勝たなければ最下位になってしまう。もう、ゲシュペンストに優勝はない。
　しかし、ここままではＪ２降格になってしまうため、１つでも順位を上げたい。
　チーム状況は決して悪くない。しかし勝てない。
　そんな状況を打破し、少しでもリーグ後半戦に向け、いい形で終わりたい。

　圭吾だけじゃなく他の選手も目の色は違っていた。
　アウェーとはいえ、決して少なくないサポーター。
　色々な声援、罵声が飛ぶ。
　練習のためピッチに出ると、遠くの方から圭吾の名前が叫ばれた気がした。
　聞き覚えのある声が聞こえる。

（まさかね。ここは横浜だぞ。）

　圭吾は少し探してみたがやはり見つからない。気のせいだと思い、体を温め、試合に集中し始めた。
　試合が始まり、やはり劣勢になるゲシュペンスト。
　完全に試合の主導権を相手に握られる。
　必死に守るゲシュペンストだが、均衡は破られようとしていた。
　ボールがサイドラインを割り、圭吾がボールを取りに行く。
　その時、圭吾の耳にまたもや聞きなれた声が聞こえた。
　一瞬だけ声のする方を向く圭吾の目に飛び込んできたのは、いつものように応援してくれる少女の姿だった。

（来ていたのか？）

　少しだけ嬉しくなる圭吾。圭吾自身不思議な感覚に包まれた。

　あの子にもっとカッコいい所を見せたい。
　こんな遠くまで来てくれたあの子に最高のプレーを見せてあげたい。
　いつも自分を応援してくれるあの子に勝利をプレゼントしたい。
　そんな思いで圭吾は必死でプレーをした。

　圭吾の見た少女は美月であった。
　アウェーの横浜スタジアム。圭吾のユニホームは着ていないし、ゲシュペンストの応援団に紛れてもいない。
　しかし、いつものように圭吾を必死で応援する美月の姿だった。
　ゲシュペンストの勝利を、圭吾の活躍を期待し、必死で応援してくれていた。

　圭吾の気持ちが一気に高くなった。
　必死に走り、チャンスを演出する圭吾。
　それでも狂った歯車は元には戻らなかった。
　現実は、サッカーは甘くはなかった。
　０－２と完敗という結果になった。

　肩を落とし、サポーターに挨拶に行くが、罵声しか聞こえない。圭吾は美月がいた席付近にも挨拶に行く
　しかし、そこにはもう、美月の姿は見えなかった。