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答え合わせ

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 家に着く前に美月は携帯の電源を入れる。途端、メールの着信があった。
 メールの宛名は祐介だった。

「勉強、頑張ってるかな。こっちは仕事頑張ってます。何とか次のゲシュペンスト戦に行けるようにするつもりです。お互い、頑張りましょうね」

 礼儀正しいメールが届いている。これだけでも、年上で誠実そうなのが分かる。
 これも祐介の人柄であり魅力であった。ネットのラボーラでも信頼も厚く、悪い噂はまったく聞かない。
 どちらかと言えばネットの中では人気のある人である。

(そんな人が私なんかに告白してくれたんだよね)

 告白された経験のない美月。それはそれでもちろん嬉しかった。
 美月は食事の時の祐介の話をリフレインした。

(彼氏として見てくれないかな)

 何遍も頭の中でそのセリフが繰り返される。思い出した美月は顔がまた赤くなっていった。
 しかし、いつまでも浸っているわけにはいかない。
 冷静になって祐介のことを考え出す。美月はベッドの上で枕を抱えながら、小さくため息を一つついた。
 答えを出さなきゃいけない。いつまでもこのままではいられないのだ。
 美月の携帯にメールが届いた。

「僕も今度、ゲシュペンストの練習を見に行ってみたいです。美月ちゃんは何回か行ったんですよね?今度、連れて行ってくださいね」

 祐介からだった。
 内容を見た美月は心臓が痛くなった。とりあえず「そうですね。今度、行きましょうか」と当たりさわりないメールを返した。何も知らない祐介にもちろん悪意はない。
 しかし、間違いなく美月にとっては余計な一言だった。美月の部屋にはいたるところに圭吾のグッズが置いてある。ポスター、写真、ユニホーム、キーホルダー・・・
 そんな中、美月は圭吾と撮ったツーショット写真に目をやった。

(圭吾君でいいよ。年も近いんだし、遠慮する事ない。)
(いいんですか?)
(いいよ)

 そう言ってくれた圭吾の笑顔が頭の中に浮かんだ。
美月はある決意を胸に秘め、明日に備える事にした。

 次の日、美月は生まれて初めて学校をサボった。そして、ゲシュペンストの練習場に来ていた。
 とにかく、圭吾と会って話がしたかった。自分の気持ちを今一度確かめようと。

(憧れ?それとも・・・)
 
 美月は練習が終わるのを待った。
 ここ2日間、ブログは書いていない。圭吾にメールは打てない。そんな日にピリオドを打つために今日、美月は練習場に来ていた。
 練習をしている間に祐介にメールを送る。

「今日の夜にはちゃんと決めます。どっちになっても怒らないでくださいね」
 
 そう打つと祐介からのメールは仕事中なのに、意外にも早く返ってきた。

「焦らなくてもいいけどね。もちろん怒りません。遠慮なく振ってくださいな。覚悟して待ってますね。でも、断ってもいいから友達でいてくださいね」

祐介らしいメール。あの告白から何回、こうやって私の事を考えてくれてるメールが送られてきただろう。

(断ってもいい。でも、僕は美月のことを思ってる。勝手に好きでいる)

 そんな思いが伝わるメールはたくさん来た。だからこそ、しっかり決めたいと美月は思っていた。
 夏休み前の平日。さすがに練習場に見に来ている人は少ない。練習が終わり、美月は他のサポーターと少し離れ、前と同じ位置で圭吾を待った。
 圭吾が出てくるのを美月は待つ。

(何を言えばいいのかな?)

 気持ちの確認をしたかった美月には圭吾との話題がない。色々悩んでいる間に圭吾は美月の目の前に立っていた。

「こんにちは。来てたんだ」

 圭吾がハニカンだ笑顔で美月を歓迎した。それに対し、美月は小さな声で「はい」としか言えなかった。
 2人の間に沈黙の時間が流れた。沈黙に耐え切れないように圭吾が口を開いた。

「2日間、メールがなかったから心配したよ。事故でもあったかと思ってた。風邪でも引いてたの?」
「いいえ、違います」
「じゃあ、あまりにも不甲斐ない試合を見せた俺に愛想が尽きた?」

 美月は「とんでもない」と首を横に振った。しかし、美月はすぐに下を向く。
 圭吾は2日間、美月がラボーラのブログを更新してない事も知っている。試験などで書かない日は美月は必ず先にみんなに報告している。それが何も無しでブログを更新してないと言う事は何かあったに違いないと圭吾は思っていた。
 今日の美月の態度を見て確信に変わった。

「どうしたの?元気ないね?」

 出来るだけ優しく美月に話しかける圭吾。美月は意を決して、圭吾に話しかけた。

「圭吾君、聞いてもいいですか?」
「ん?なに?」

 圭吾は突然顔を上げ、自分の目を見つめる美月にドキドキした。

「まだ、メールしてもいいですか?」
「もちろんだよ。楽しみにしてるんだから」

 圭吾は正直に気持ちを美月に伝えた。実際、美月のメールが来ない2日間は少し寂しい気持ちがあった。
 愛想が尽きたのかと真剣に思った。

「私は圭吾君にとってサポーターですか?」

 美月がまっすぐに圭吾の目を見て言った。
 圭吾が即答で美月に残酷な答えを返した。

「もちろん大事なサポーターだよ」

 大事な自分のサポーター。
 そういう意味で圭吾は美月の問いに答えた。深くは考えていなかった。
 この質問が2人の関係に大きく影響するとは圭吾はまったく思っていなかった。しかし次の瞬間、圭吾の目の前に理解しがたい事が起きていた。

「そっか。そうですよね。これからも応援します。頑張ってくださいね」

 そう言いながら涙を浮かべる目の前の少女。圭吾は今、起きている状況を理解できず、ただ立ち尽くした。

「ごめんなさい。また、メールしますね」

 そう言って涙を拭いながら少女は走り去っていった。圭吾はただ、少女の背中を見送る事しか出来なかった。
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