(仮)言葉にしないと伝わらない

本郷むつみ

文字の大きさ
上 下
19 / 42

告白

しおりを挟む
 ファミリーレストランに着いた2人は食事を頼み、世間話をし始める。2人の会話は、どうしてもサッカーに行ってしまっていた。
 美月は石川圭吾選手の大ファンだと言う事はラボーラ内では有名な話だ。祐介は話題を何とか変えようと努力するが、美月が1番サッカーの話題に食いつく為に変えられないでいた。
 少しずつ祐介に限られた時間が無くなっていく。祐介は思い切って話を切り出した。

「美月さんって今、彼氏っていないよね」
「いませんよ。でも、好きな人はいますよ」

 美月は笑いながら言った。祐介はこの空気を読めないところも美月の魅力だと心の中で苦笑した。

「それって石川圭吾選手だよね」
「もちろんですよ」

 美月が自信満々に答える。しかし、祐介の予想したとおりの答えが美月から返ってきた。
 祐介は意を決して口を開いた。

「じゃあ、現実に僕を美月さんの彼氏候補にしてくれないかな?」
「えっ?」

 今まで楽しく談笑していた美月に戸惑いの色がはっきり現れた。
 祐介は溜めていた想いを美月に一気に伝える。

「もちろん、今はまだ候補でいいから。でも、立場は彼氏でいたい。美月さんが(この人は彼氏にならない)って思ったら、ちゃんと言ってくれれば友達に戻る。だから、もっと僕を見てくれないかな?僕を知って欲しいんだ」
「えっと……」
「多分、気付いてないからちゃんと言うけど、好きじゃなければ一緒にサッカー見ようなんて誘わない。一緒にご飯食べようなんて言わない。」

 祐介は美月の反応を見て、一区切りつけた。美月はびっくりしたまま固まっている。
 一気に伝えた事によって美月の顔は真っ赤かになったままだった。

(びっくりさせちゃったかな)

 祐介は美月が自分を取り戻すまでの時間を作った。美月の口が開くまで待つ祐介。
 しかし、祐介の目は美月をずっと見続けていた。
 ようやく美月が口を開く。

「でも、あの、その」

 美月はしっかりとした返事が出来ないでいた。
 祐介は美月の言葉を遮るように

「美月さんが石川圭吾選手を好きなのは十分分かってるよ。でも、それは憧れであって現実じゃないでしょ? 僕はここにいる。美月さんがしっかり選べる位置に僕はいる。しっかり見てもっと知ってほしい。返事は今日じゃなくていいよ。よく考えて返事してくれたら嬉しいな。もちろん断るのもオッケーだよ。」

 そう言った祐介は優しい目で美月を見つけた。
 そして「ちゃんとした理由があるならね。」と、祐介は付け加えた。
 祐介の話を聞きながら、美月は少しずつ冷静な自分を取り戻していた。
 そして祐介に疑問を投げかけた。

「あの~聞いてもいいですか?」
「なに?」
「なぜ?私なんですか?」

 素直に美月は思ったことを口に出した。祐介は困ったように口を開いた。

「なぜって・・・強いてあげるなら気になる人だから……かな。それ以上の理由はないと思うよ」

 笑顔で返す祐介に美月は少し困った表情をした。
 そんな美月を見た祐介は慌てて

「今は選んでくれる時期でいいから。んじゃ、1ヶ月限定でいいから彼氏としてみてくれないかな? 1ヵ月後に美月審査に合格したかどうかを答えてくれればいいから」

 そう美月に言ってみた。

「限定の彼氏ってどんな付き合いになるんですか?」

 付き合ったことない美月は素直に祐介に聞いてみた。

「普通に、って言いたいけど、普通って何だろ? とりあえず、デートしてくれたり、メールしてくれたり、って感じかな」

 時計を見た祐介は門限時間が迫っていることに気付き

「そろそろ帰らないとまずいよね」

 そう言って会話を打ち切った。店を出た2人は会話のないまま、駅まで歩いていく。切符を買った美月が無言のまま改札口に向かう。
 美月は歩きながら祐介に「チョットだけ考えていいですか?」と、言ってみた。

「もちろん、返事待ってるよ」
「2,3日中には必ず返事しますから」
「そんなにかしこまらないで。お願いだから。もっと単純に考えてよ。付き合う=結婚じゃないんだしね。」

 笑いながら祐介は答えた。
 そして祐介が改札口まで見送ってくれた祐介に美月は手を振って分かれた。

(こんな事になるなんて夢にも思わなかった)

 美月は電車の中で圭吾の顔を思い浮かべた。現実と理想の狭間で美月は悩んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

スノーフレークに憧れて

もちっぱち
恋愛
主人公 雪田 菜穂      (ゆきた なお)       父 雪田 将志      (ゆきた まさし)   母 雪田 沙夜      (ゆきた さよ)  親友 山口 まゆみ     (やまぐち まゆみ)    ?? 白狼 龍弥     (しらかみ りゅうや)     【伊藤 龍弥??】 高校1年生の主人公 菜穂は 幼少期から 花が好きだった。 いつか大きくなったら 花のように 綺麗に美しくなりたいと思っていた。 現実は程遠く、 そうそう、うまくいくことはない。 でも ある人の出会いで 何かに 気づいた。 ドキドキワクワクの 高校生のラブ?!ストーリー。 ※完全なフィクションですが、 物語の中に ごく一部に法律上 禁止されていることがあります。 ご注意ください。  良い子は真似をしないように。  未成年の喫煙もちろん  バイクの2人乗りは免許を取ってから 1年後しか乗ることができません。 文 もちっぱち 表紙絵 炭酸水 様

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...