（仮）言葉にしないと伝わらない

練習場にて

　あの試合から数週間が過ぎる。
　美月は学校の文化祭の準備があったため、ゲシュペンストの試合に行けず、ラボーラのブログも満足に更新できないぐらい多忙を極めた。
　圭吾へのメールは必要最低限、送るようにしていた。全ては圭吾と繋がっていたいため美月は連絡を取り続けていた。が、２人の仲は友達より離れた関係のまま。Ｊリーガーとサポーター。この距離は縮まる事はなかった。

　文化祭も無事終了し、美月の学校は文化祭のための代休となっていた。
　この代休を利用し、ゲシュペンストの練習場に１人で来ていた美月。平日と言う事もあって観客は非情に少ない。
　美月が今日、練習場に来る事は圭吾には内緒にしていた。

（びっくりしてくれるかな？喜んでくれるかな？　私の顔、忘れられていたらどうしよう？）

　美月の手には圭吾に渡すプレゼントと手紙。胸をときめかせながら練習が終わるのを待つ美月。
　しかし、結果の出ていないゲシュペンストは練習の空気もピリピリしていた。自分のブログに書くために、色んな選手を見ないと、と心の中で思うのだが気付くと圭吾に視線が行っていた。
　好きになってはいけない人を好きになるのが苦しいのは分かってる。
　美月は思いを圭吾には伝えていない。今の関係が壊れるのが間違いないからだ。
　だからこそ、たくさんいる中の１人のサポーターのままでいいと美月は思っている。

（頑張れ、信じてる、祈ってます）

　そんな言葉しか圭吾に伝えてはいけない。
　圭吾に自分の気持ちを気付かせてはいけない。

　美月は自分の気持ちを押し殺す事を決めていた。改めて憧れだと自分に言い聞かせた。
　練習が終わり、選手達がクラブハウスから帰り始める。石川圭吾が出てくるのを待つ美月。もちろん圭吾を待っている間に杉田や津島、他の選手達のサインをもらう事も忘れない。
　一緒に写真を撮ってもらい、ユニホームにサインをしてもらう。いつもＴＶやスタンドから見る選手が美月の隣にいる。

（選手達に会うだけでこんなにドキドキする。これで石川君が出てきたらどうなるんだろ？）

　そしてかなり時間が経ってから圭吾がクラブハウスから出てくると周りから黄色い歓声が上がる。
　美月は、話す内容が聞こえないように、他のサポーターから少し離れた場所に移動した。