(仮)言葉にしないと伝わらない

本郷むつみ

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近くて遠い、遠くて近い

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 圭吾が美月の観戦日記を読んでいた頃、美月は圭吾にメールすることを決心していた。
 どうしても美月は確認したかった。
 あのパフォーマンスは自分に向けてなのか?
 自分の「お疲れ様」の言葉は果たして理解してくれたのか?
 この2つが気になって、少し時間は遅かったが、圭吾にメールを送ってみることした。返事が返ってくるまで美月は心臓の鼓動が早くなるのを抑え切れなかった。

 自分に向けてではなかったらどうしよう?
 「お疲れ様」が届いてなかったらどうしよう?
 何言ってんだ、こいつとか思われるかも。

 意味不明なメールを圭吾に送ったのかもしれない。
 そんな不安が美月の小さな胸を締め付けた。メールをすれば必ず返信が届く。
 遠いようで近い存在。今や美月にとって圭吾は完全に恋愛対象になっていた。

 好き、大好き。そばにいたい。
 いつでも隣にいたい。
 
 大体、気のない相手に必ず返信ってどうなの?
 こんな事されていたらさ、私だって期待しちゃうじゃん。
 そりゃ、石川さんからすれば私なんでその辺で応援しているJKかもしれないけどさ。
 恋したい年頃だよ。好きな人とメール出来ちゃうんだよ。
 意識するなって無理な話だよ。

 そんな思いが美月を苦しめていた。
 自分はどこにでもいる高校生。好きになった人は日本を代表するJリーガー。
 自分は圭吾をよく知っているが、圭吾は自分の事をほとんど知らない。メールで連絡は取れるが、いつ無視されてもおかしくない。圭吾にとって、自分は沢山いるサポーターの1人。
 ずっとこの関係でいられるはずがない。どこまでメールしていいのかも分からない。

(なんであの人を好きになっちゃったんだろう)

 テレビの中の人・・・
 ピッチ上のの人・・・憧れの人・・・
 遠い存在の人・・・
 自分とは別の世界に住んでいる人・・・

 自分は必ず諦めなければならない。
 芸能人や有名人のように憧れの存在と美月は自分に言い聞かせた。そうでなければ自分の気持ちに押しつぶされそうだから。
 美月が思ったよりも圭吾からのメールの返事は早かった。張り裂けそうな思いを胸の中のしまいこんで美月はメールを開いた。

「ごめんね。試合、負けちゃって。
 次は勝つから、許して下さい。
 あの、アピールは美月ちゃんに向けてです(笑)
 美月ちゃんがいたのに気付いたから。
 お疲れ様も分かりました。
 またスタジアムに応援しに来てね」

 返事を見て美月は複雑な思いが交差した。
 窓の外の星に目を向ける。
(まだ私はあの人の傍にいていいんだ・・・でも、今だけ・・・)
 これから自分の気持ちはどうなるのか。
 美月は不安を掻き消すように眠りについた。
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