(仮)言葉にしないと伝わらない

本郷むつみ

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不思議な気持ち

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 帰宅するまでの美月はただ1人ハイテンションだった。
 しかし、周囲の空気を読んだ美月は嬉しさをひた隠し、黙っていた。一緒に行った友達やお姉ちゃんは負け試合を見たために口数が少ない。
 美月と一緒の電車に乗ったゲシュペンストサポーターも空気が重い。
 周りから聞こえる声はゲシュペンストに対する不満や愚痴ばかり。

(今日のゲシュペンストサポーターの人たちのネットの観戦記もすごい事になってそう・・・)

 美月は素直にそう思った。
 確かにプロだから結果は出して欲しい。応援しているチームだから勝って欲しい。負けるにしても接戦か内容の充実した試合が見たかった。
 みんな、今日の試合はどう思ったんだろう?
 
 ラボーラにいる人で私達以外にも試合を見ていた人は必ずいる。素人からサッカー経験者までラボーラには沢山いる。人それぞれの意見は違う。
 そんな評価を美月は知りたくなり、家に到着するとすぐさま自分のパソコンを開いた。
 サッカーサイト(ラボーラ)に行く。そして試合を見に行った人の感想を読み漁る。
 1人目、2人目、3人目・・・
 みんなゲシュペンストの試合について厳しい事が書いてある。普段は厳しい評価をしないサポーターでさえ、さすがに今日の評価は最悪であった。

(やっぱり結果なのかな・・・石川選手はどう思ってるんだろう?あの事も・・・聞いてみたい)

 しかし美月にはどんなメールをしたらいいのかがわからない。
 とりあえず美月は観戦日記を書くことにした。試合には負けたが、美月は自分にしてくれたパフォーマンスを書かずにはいられなかった。

(多分、気のせいだよ)
(全員に向けてのガッツポーズだよ)

 そう言われるのはわかっている。
 本当に自分に向けてのパフォーマンスだったのか。美月本人でさえ真相はわからない
でも、美月は書かずにはいられなかった。それほど美月には嬉しい出来事だったのだ。
 そしてその日記が本人に、圭吾に読まれてる事も知らずに。

 圭吾は試合後のクールダウンを終え、自宅に戻るとおもむろにパソコンを開き、「ラボーラ」を覗く。
 しかし、美月の観戦日記はまだ更新されていなかった。
 圭吾は仕方がないので、他のゲシュペンストサポーターの観戦日記を読んでみた。

「後ろでボール動かしてないでゴールに行けよ!」
「決定力がありえんぐらい無さ過ぎ」
「やる気が見られない。優勝する気があるとは思えない」

 ゲシュペンストサポーターから色んな事が書かれている。観戦日記を読むとサポーターが真剣にゲシュペンストを思っていることがわかる。真剣に試合を見てくれて、真剣に観戦日記を書いてくれている。
 ほとんどのサポーターが酷評をしていて、圭吾はもう笑うしかなかった。

(勝つしかないんだよな、やっぱり)

 いいシュートやいい守備、いいプレーではサポーターは納得してくれない。どんな勝ち方でもいいから勝つしかない。
 改めて圭吾は心に誓う。
 そんなことを思っていると美月のブログが更新されていた。
 圭吾は奇妙な感じだった。
 ドキドキというか、ラブレターを開く時のような、不思議な気持ちを抱えながらラボーラの美月のブログを開いた。


「今日は石川君を見に久々にスタジアム観戦して来ました~(嬉)
 ゲームは負けたけど・・・
 その事にはあまり触れません。
 多分、気分の悪くなる人が多そうなんで(笑)
 でも、石川君がフリーキックを決めた後、私に向かってガッツポーズを決めてくれたんだよ~(嬉&感動&勘違い?)
 も~、めちゃ石川君好き~~~~」


 圭吾は(相変わらず凄い日記だな)と少し呆れた。
 が、Jリーガーとしても、男としても全然悪い気はしない。
 もちろん、クラブでファンの女の子を誘うなんて事はご法度になっている。前に少し事件もあり、サッカー協会もクラブ側からも注意するように言われている。
 しかも美月は高校生。
 もし、付き合うとかになったら格好のスキャンダルになる。何かあればクラブどころか美月にも迷惑がかかってしまう。

(まあ、そんなことはないからいいか)
 
 圭吾は苦笑しながらパソコンの電源を落とした。
 深くイスに座りなおし、今日の試合の反省点を考えだそうとした。と、その時、圭吾の携帯にメールの着信音が部屋に鳴り響く。
 メール差出人は美月からだった。

(タイミング良すぎだろ)

 何かを期待しているのか、自分の気持ちが分からないまま、圭吾はメールを開いた。
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