フットサル、しよ♪

本郷むつみ

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最終話、試合の行方です♪

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(なんか皆と繋がっているみたい)

 不思議な感覚に包まれる志保。亜紀、柚季、理沙の考えている事が分かる。みんな自分の為に動いてくれている。亜紀と柚季がディフェンスをかき回してくれている。理沙は自分のフォローに入ってくれている。みんなの想いが伝わってくる。

(ゴールを決めてきて!)

 みんなの期待に答える為に志保はゴールに向かってドリブルをし始めた。細かいタッチで相手にボールを取られないように。それでいてスピーディーに。細心の注意を払いながら相手ゴールに進んでいく。
 亜紀が奈央をガードしてくれる。柚季が自分のスペースを作ってくれる。理沙が自分のフォローに入ってくれる。舞がゴールを守ってくれる。それぞれがそれぞれの自分の出来る事で自分を支えてくれている。
 それでもなかなか崩れないスクラッチのディフェンス。少しずつだが押し返されている。奈央が再び志保のマークに付き、何とかボールを奪われないようするのが精一杯だった。何回か亜紀たちとのパスを交換した後、柚季たちの頑張りでスクラッチに一瞬の隙が生まれた。

(ここだ! 理沙、お願い!)

 そう思った志保は理沙にパスを出すと同時に前線に走り出した。理沙はそのボールをダイレクトで、柚季の前方にかなり強いパスを出した。

(柚季ちゃんなら届くでしょ)

 理沙が出したパスを予測していたように柚季は動き出していた。じゃなければとても理沙のパスに届く事は出来なかった。スピードで完全にスクラッチの聡美を振り切った柚季。理沙から来たパスをそのままダイレクトで亜紀に送った。

(亜紀ちゃんなら負けないよね)

 相手ゴール前で陣取った亜紀は、柚季からのボールを丁寧にトラップして相手を押さえ込んだ。重心を下げてボールを足の裏でしっかりとキープする。すると動き回っていた志保が自分に走って近づいてきた。だが、まだ志保から奈央のマークは外れていない。しかし、亜紀は躊躇なく志保にボールを出した。

(後はエースの、志保さんのお仕事ですわ)

 志保は亜紀からのパスを綺麗に足の裏でボールを転がしながら受け取った。しかし、すぐ横に奈央が居るためにシュートが打てない。

(やるならここだ!)

 志保は足の裏でボールを止め、急ブレーキをかける。そして自分の身体を綺麗に回転させ、奈央の前に身体を入れる。これで奈央が後ろからボールを取ろうとすれば、ファールになりPKになる。完全に奈央の動きを封じた。

 理沙も亜紀も柚季も舞も志保のプレーに驚いた。
 これは健の得意とするプレーであった。思い返せば志保はゲーム中の健のプレーをよく見ていた。もちろん、見ただけで健のプレーが出来るわけない。影で相当練習したのだろう。
 奈央の動きを封じた志保がゴールを見るとスクラッチのゴレイロ、綾乃がシュートコースを小さくするために飛び出してきている。しかし、志保は全く焦っていなかった。渚の動きが志保にはスローモーションに見えていた。

(なにこれ? みんなの動きが遅い……)

 向かってくるゴレイロの綾乃の動きがハッキリと分かる。体勢を立て直した奈央もファールにならないように横から足を伸ばしてくるが、奈央の動きすらゆっくりに見える。
 志保は足の間にボールを挟み込みながら身体を捻り、踵を使って自分の頭上より高く浮かせた。
ボールは綺麗な弧を描き、ゴレイロの渚の頭上を越えていく。強く早いシュートを予測していた綾乃は、完全に意表を付かれ、ただボールを見送るしかなかった。
 ゆっくりとボールはゴールに吸い込まれていく。フローラルメンバー、コート内外の人達。全ての人たちがボールの行方を見守っていた。
ゴールネットが揺れ、審判の笛がゴールした事を告げる。志保は周りを見渡し、1番近くにいた亜紀に飛び付いた。

「やった。ゴールだよ」

「やりましたわね。凄いシュートでしたわ」

 志保と亜紀が思いっきり抱擁を交わす。その瞬間、試合終了の笛がコート中に鳴り響いた。

「えっ? 試合終了?」

「みたいですわね」

「って事は、私たち、勝ったの?」

「勝ったのですわ。やりましたわ。フローラル、初勝利ですわ」

 改めて志保と亜紀が熱い抱擁を交わすと、そこに理沙、柚季、舞の3人が試合後とも思えないほどの速さで志保達の元に駆け寄ってくる。そしてそのまま減速もぜずに2人に飛びついた。

「やった。勝った!」

「初勝利なの! 僕たち、勝ったの!」

「勝ったんだよ。本当に勝ったんだよ」

 そう言いながら3人は志保達を押し倒して重なり合った。人目も気にせず喜ぶフローラルのメンバー達。そこに奈央が冷静に「とりあえず整列して挨拶しようか。後の試合もつかえているしね」と苦笑しながら1番上にいた理沙に手を差し伸べた。理沙が周りを見渡すとスクラッチのメンバー達は苦笑しながらも整列していた。

「おい、とりあえず整列。喜ぶのは後だ」

 理沙がそう言って奈央の手を取って起き上がる。そしてセンターラインに走っていくと、他のメンバー達も理沙に続いた。審判の合図とともに頭を下げると、奈央達は笑顔で

「初勝利、おめでとう。次は負けないから」

 と言って志保に握手を求めた。

(そっか、本当に勝ったんだ。私たち、勝ったんだ)

 奈央と握手をする志保の頬にひと筋の涙が伝った。みんなと協力し合ってやっと掴んだ初勝利。サッカーをしている時にはこんな気持ちになった事はなかった。理沙と2人で作ったフットサル部。亜紀や柚季、舞にフットサルを好きになってもらおうと一生懸命努力した。それが報われた気持ちで胸が一杯になった。
 コートから出ても喜びが止まらない志保達。
 理沙も亜紀も柚季も舞も涙を流しながらも最高の笑顔だった。自分達の努力がやっと結果になった。

(そっか、私の求めていたのってこれだったんだ)

 喜ぶメンバー達を見て志保はそう思った。
 自分だけ努力して結果を求めるんじゃない。みんなで努力して結果を出す。自分だけが良いプレーをすれば良い訳じゃない。助けて助けられて結果を出す。そしてフットサルを好きになってもらう。メンバー達の笑顔を見れば分かる。
(良かった。フットサルを好きになってもらえた)

 志保は雲1つない青空を見上げ、達成感で胸が一杯になっていた。
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