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宝箱の中の決意の思い出

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毎週水曜日の放課後、例の公園で蒼はひなたに会うようになった。
特に何をするわけでもない。
おしゃべりしたり、遊具で遊んだり。ひなたが率先し、蒼はひなたに付き合う形で。

            ※

ある水曜日ーー
今日も蒼は公園へと向かっていた。
いつもひなたが先に来ていて、にこにこしながら蒼を待っている。
きっと今日もそうだろう。
蒼は歩みを速めた。

「…ひな…?」

やがて、通りを進む蒼は少し先にいる人物に目を留めた。
ひなたと、もう一人は大人の男。
最近小学校の近くで不審者が出たので注意するように、と先生が言っていた。
まさか、と思いたいが嫌な予感がする。
「ーーっ!」
蒼は二人の元へと駆け出した。

「ひなっ!」
「あ、あおちゃん」

蒼に気付き、ひなたがぱあっと笑う。
「ひな…その人、知ってる人…?」
立ち止まった蒼は息を切らしながら聞いた。ひなたが小さく首を振る。
「ううん。あのね、道を聞かれたの。『たかつびょういん』を探してるんだって。でもぼく分からなくて…。一緒に探そうって言われたんだけど、ひなちゃんを待たせるからどうしようって…」
背筋が凍った。
男は見るからに怪しい感じで、蒼の身体が無意識に震える。
蒼は男を睨みながら、ひなたと男の間に割って入った。
「おじさん…おれ、交番の場所なら分かるよ」
男がばつが悪い顔をする。
「そこで病院の場所を聞けばいいだろ。なんなら、一緒に行こうか?」
「い、いいよ。じゃ」
警戒心を剥き出しにして蒼が言うと、慌てたように男が去っていった。
「あおちゃーー」
「ばかっ!」
蒼は怒鳴っていた。危機感のないひなたに腹が立ったのだ。
「もう少し人を疑え。ひなはーー」

優しすぎる。

「甘すぎる」

思っていることとは少し違う、厳しい表現を蒼はした。
ひなたはきっと汚くて醜い世界では生きていけない。
それが蒼にはーー怖かったのだ。
ひなたの顔が泣きそうに段々と歪んでいく。
「ぼく…」
「最近不審者が出たこと、誰かから聞かなかったか?大体…聞かれた場所が分からないって言う子供を連れ回そうとするなんて、普通じゃないだろ!?」
「ごめん、なさい…」
自分の置かれていた状況に気付いたんだろう、ひなたがか細い声で謝った。

「…無事で…よかった…」
蒼はひなたを抱き締めた。
「あお、ちゃん…?」

安堵のあまり、蒼の全身から力が抜けていく。それでもしばらくひなたを抱き締めていた。

「ーーあおちゃんは、ぼくのヒーローだね」

その言葉に、蒼はひなたから身体を離した。

「ヒーロー…?」
「うん。初めて会った時から、あおちゃんはぼくのヒーローだ」

ひなたの目がきらきらと輝く。
そこに映る自分は、ピンチの時に現れて助けてくれるかっこいい男の子なんだろう。
ひなたは守られるべき可愛らしい女の子。
自分は決してひなたのようにはなれないけど。

「ヒーロー、ねぇ…。じゃあ、ひなはおれが守るよ。…危なっかしいし」

守りたい、守らなきゃ。
ずっとひなたの『ヒーロー』でいようと、蒼は自分に誓った。
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