上 下
1 / 20

宝箱の中の綺麗な思い出1

しおりを挟む
ママは、わたしがおんなのこでいることがイヤみたいーー

いつからだろう、あおいは自分に対する母親を見てそう思うようになった。
シングルマザーの母親とあおいの二人暮らし、生活は貧しくて可愛い服やおもちゃも与えられなかったし、蒼の髪が伸びると母親の手によって適当に短く切られた。
それに、自分のことを「あおい」と言うのはもちろん、「わたし」と言うことも許されなかった。
九歳、小学三年生の蒼は自分のことを「おれ」と言っていた。
小学校に上がる頃には、母親が何故自分が女の子であってほしくないのか分かってきていたけれど。
夜の仕事をしている母親は、男好きなのだ。
自分の実の娘よりも、昨日今日出来た恋人の方が大事と平気で言えるような。
だから蒼にも嫉妬する。恋人の興味が少しでも蒼に向くのが許せない。
蒼のことを男の子だと思えれば、母親の嫉妬は幾分か和らぐようだった。

学校からの帰り道を家に向かって歩く。
今日も母親は男を連れ込んでいるんだろうか。家ーー築三十年は経っているだろうボロアパートの一室に。
日当たりの悪い室内。捨てられていないゴミ袋の山。散らかった服や化粧品。汚れた皿やコップなどが突っ込まれたシンク。
部屋中を満たしている香水の匂い。
決して喜んで帰りたいような場所ではないが、あの場所しか帰る場所がない。
いや、そこすらも帰る場所ではないんだろう。
母親は蒼に「邪魔だから、少し出てって」と言ったことはあるが、「おかえり」と言ったことはないのだからーー
ボロアパートが見えてきた。
蒼はため息も出なかった。ただ、諦めだけがあった。

  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

竜人王の伴侶

朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語 国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます 作者独自の世界観ですのでご都合主義です 過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください) 40話前後で完結予定です 拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください 4/4にて完結しました ご覧いただきありがとうございました

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...