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9章 あの日本一の誠実系ナンパ師、子凛が逮捕!?

9-15 子凛参上・淫行条例とは

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 何やら奥の方でざわついているのを感じた。
「おい、子凛が来たぞ!」
 肩に妖精をちょこんと乗せて爽やかな笑みを浮かべた子凛がこちらに近づいてきた。
「皆さんこんばんは。ガリさん、遅れて申し訳ございません」
「かまへんかまへん。子凛が来たし、淫行条例について話をしようと思う。まず、淫行条例っちゅうのは、各地方自治体で制定されている青少年条例の中にある青少年との淫行などを規制する条文の通称なんや。刑法では性交同意年齢が十六歳と改正されたが、淫行条例では十八歳未満と規定されていて矛盾が生じている」
「確かに」
「この矛盾が、淫行条例の新たな問題点を生んだんやで」
「どういうことですか?」
「性交同意年齢には、年齢差要件があると言うたよな?」
「そうですね」
「十三歳以上十六歳未満は、加害者と五歳以上の年齢差があり年上の場合に適用なんや。その理由は、同年代の自由な意思決定による恋愛処罰を除外するためなんやが、一方、淫行条例は十八歳未満としか明記されていないので、二十歳と十七歳のお付き合いでも一律に容疑者にされてしまうねん。高校生と大学生の普通の恋愛に不必要なストレスを与えてはあかんと思うし、十六歳と十七歳は法律上ぽっかりと空いた構造になってしまったんやで」
「淫行条例も年齢差要件が必要ですよね……」
「そういうこった。淫行条例は、各都道府県で内容が違うので不平等だし、該当年齢の具体的な範囲を設定しなかったことによる現場の恣意的な運用を防ぐためにも、さらには、児童買春・児童ポルノ禁止法や児童福祉法などと一本化して、罪刑法定主義に基づき時代に合わせた法律を制定するべきなのだが進んでいないのが実情なんやで」
「問題が多いですね。ところで、淫行ってどういう意味なんですか? わかるようなわからないような」
「おう。その曖昧さが淫行条例のポイントや。昭和六十年に福岡県で淫行条例の裁判が行われ最高裁まで争われたわけやが、この判例でと答えを出しているんやで。

 福岡県青少年保護育成条例違反被告事件 
 最高裁判所大法廷判決昭和六十年十月二十三日  
「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうものと解するのが相当である。
 
「つまり、淫行(淫らな性行為)を禁止しているが、性行為を禁止しているわけではないねん。というのも、婚約中の青少年やこれに準ずる真摯な交際ならば、成人と十六歳の性行為は禁じないと言うたんや」
「淫らな性行為ってよくわからないですね。『淫行』と『真摯な交際』の間に存在する恋愛関係って無数にあると思うのですが」
「だから、恋愛禁止条例と呼ばれることもあるみたいですよ」
 と言うと、子凛はカモミールティで口を潤している。
「せやな。ハッキリ白とはいえないグレーの関係性やから、当然ビクビクしてしまう。このように青少年における、大部分の恋愛や性行為を制限する判決を下したんやで」
「グレーって……、条例がそんな曖昧でいいのですか?」
「それがポイントや。この判決の少数意見側の伊藤正己判事は、『淫行という文言は、正当に処罰の範囲とされるべきものを示すことができず、本条例十条一項の規定は、犯罪の構成要件の明確性の要請を充たすことができないものであつて、憲法三十一条に違反し無効というほかない。原判決及びその支持する第一審判決は破棄を免れず、被告人は無罪であると考える』と言うたし、3名の裁判官の反対意見があったんや」
 乳ローが「俺、最高!」と叫びながら千鳥足で歩いている。
「でも、少数意見だったんですよね」
「せやな。グレー部分はそのまま残されたのだが、その『淫行』という言葉をある程度明確化させたのが2007年5月23日の名古屋簡裁の判決や。裁判長は『婚約中ではなく、さらには不倫における交際であったかもしれへんが、映画などのデートを何度もしてるし、相手のJKも好意がある上での性行為だったわけであり、社会の一般的な常識に照らして考えるならば、これを淫行と判断することはでけへん!』と言うて、無罪判決を言い渡したんやで」
「不倫してるので有罪かなと思っちゃいました」
「この二人の関係性が、『淫行』ではなく『恋愛関係』だと判断されたところがポイントなんやで(しかし、その後の損害賠償を求めた民事裁判では、「真剣度の乏しい交際」として名古屋高裁で逆転敗訴。上告したが敗訴が確定。)」
「淫行と恋愛関係の違いがいまいちわかりませんよ……」
「この裁判ではその点も言及してるんやで。
①職務上支配関係で行われる性行為
②家出中の青少年を誘った性行為
③一面識もないのに性交渉だけを目的に短時間のうちに青少年に会って性行為すること 
④代償として金品などの利益提供やその約束のもとに行われる性行為
 これらの場合は、いくら二人の間で合意があろうと認められへん。すなわち、これが『淫行』といえるんやで(15)」
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