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9章 あの日本一の誠実系ナンパ師、子凛が逮捕!?

9-11 社会的制裁

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「十日間の勾留を終えてどうなったんですか?」
「罰金刑(略式起訴)五十万円でした」
「児童売春一罪の罰金は三十万~五十万。末吉、罰金前科一犯になっちゃったな。五年間は、区市町村に備え付けられた犯罪者名簿から名前が消えないんやで」
「じゃ、お仕事の方は?」
「自分は教師だったのですが、ある出版社から『○○学校の教員で間違いないでしょうか?』という確認の電話があったそうです。その時にバラされてしまったのでバレてしまいました……。ネットニュースにも出ましたが動画じゃなくて本当に良かった……」
「ニュースに出るかどうかは、まずはどこに住んでいるかがポイントで、次にその日その時間帯における他の事件とのニュースバリューによる大小の関係性によって決まんねん。せやけど、公務員や有名企業社員だと報道される確率が上がってくるし、末吉のような教師や、もしくは医者や弁護士のようなステイタスの高い仕事や芸能人やアーティストなど有名人ならば、その確率はより上がってくるんやで」
「でも、何とか報道は避けたいよね」
 とまあさが呟くと、つくねにべっとりとわさびを塗りたくっている。
「報道と言うが、基本的には逮捕されるかどうかが鍵になんねん。逮捕されなければ通常は外部への発表など行なわれない。逮捕をされれば、マスコミには実名や罪状などが連絡され、実際に報道されるかどうかはマスコミの判断による。警察が公表しなければ一般人に知られることはないんやで」
「何か裏の方法とかあるんじゃないっすか?」
「マスコミに実名を知られたら終わりやねん。ま、マスコミさえも牛耳れるほどの大物だったりすれば、話は変わってくるのだが」
「小物は一般人に晒されろってことか。だけど、何とか仕事先にはバレたくないよね」
 まあさは緑色のつくねにがぶりついた。
「基本的に警察が勤務先や家族に対して連絡することはない。バレたくないと言うても報道されればそこでバレるし、もし報道されなかったとしても、逮捕された後に勾留されて仕事を休まなければいけなくなってバレんねん」 
「それにしてもマスコミってエグいよなぁ」
 まあさは口ピアスについたわさびを拭いながら言った。
「違法やし、それが奴等の仕事なんだからしゃーないやろ」
 そう言うと、すぐさま店員を呼んで「ししゃもをよろしく」と伝えている。
「でも、やっぱエグいですよ。犯罪には間違いないけど、そこまでひどいことをしたってわけでもないし、傷口をほじくり回すことをすんなよとは思うね」
「バカ。マスコミが犯罪を取材しなかったら存在意義がねぇだろうが。犯罪する奴がわりぃんだよ。そもそもマスコミなんてそんなもんだろ? 一流紙だろうが四流紙だろうが、世間が優越感に浸れる餌を供給し続けることが使命であり、それを俺たち大衆は求めているんだからさ。こんなときばっかり攻めるのはお門違いだろ。ロリコン野郎がわりぃんだよ」
 突然割り込んできた泥酔の乳ローが吐き捨てるように言い放つと、末吉は一瞬顔を顰めたが、そんなことは素知らぬ顔でを頭上でくるくる回しながら、すぐさま他のグループの輪に移動していった。
「まあさの言うてることもわからなくないねん。性犯罪っちゅうのは、法による懲罰よりもメディアによる吊し上げや、今まで作り上げてきた人間関係の崩壊や避けることができない最悪のイメージダウンであったり、社会的制裁による傷や痛みの方がごついからな」
「でも、それなら、今でもネット検索でヒットするんじゃないですか?」
「そうなんですよ。まだ消え去らないので鬱になります」
「ネット社会の恐ろしいところですね」
「で、末吉。マスコミに晒されてしまって仕事はどうなったんや」
「懲戒免職になりました……」
「懲戒も辛いが、再就職までの道のりも辛いわなぁ」
 顎の無精髭ぶしようひげをいじっているガリさんは何かを思いついたのか、手の平を叩き「お前ら、よく聞けや」と言った。
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