上 下
59 / 107
7章 性欲の中心には魔物が棲んでんねん

7-18 性的同意1【認知の歪み】

しおりを挟む
「では、ガリ総長のの講義をよろしくお願いいたします」
「おう。まず、グリーンさん。同意確認とはどういう状態を指すのか説明してください」
「え……、男の提案に対して女が承諾すること……?」
「せやな。承諾していれば何にも問題はない。承諾していればな」
「具体的にお願いします」
「まず、声をかける。同意を得たから、二人で遊びに行くことができる。その後、同意を得たから、二人で居酒屋でお酒を飲むことができる」
「ここまでは何も問題ないと思います」
「問題はないが、二つ目のポイントが出てきた。アルコールやねん」
「ガリさんは先ほど、お酒のことをポジティブに説明してましたよね」
「おう。アルコールはポジティブな面とネガティブな面の両方の顔がある。両面併せ持つアルコールは、やはり麻薬なんやと思うねん」
「ネガティブな面とは?」
「アルコールは同意をぼやかす。しかし、ぼやかすのは同意だけでなく、何もかもをぼやかすねん。せやから、破壊や破滅が生まれやすい。飲ますだけ飲まして泥酔状態にさせたり、お酒以外の力を借りて、意識や記憶を飛ばしたりする輩もいるんやから」
「お酒以外って?」
「睡眠導入剤や抗不安薬や。お酒に混ぜ、泥酔状態だと思わせ、行為に及ぶ。『デートレイプドラッグ』と呼ばれとる」
「ソフトドリンクでもできますよね」
「せやな。しかし、お酒に混ぜると、アルコールによる酩酊状態でカムフラージュできるところがポイントやねん」
「ぼやかすことができると……」
「『飲みすぎちゃったかもしれない』『疲れてたのかな』と思わせ、本人に責任を押し付けるんや」
「それだと同意の問題ではなく、強姦と同じじゃないですか」
「せや。2017年に性犯罪に関する刑法の改正が行われたわけだが、この場合は準強制性交等罪に該当するんやで」
「あれ、2023年に改めて改正されませんでした?」
「ま、そう焦るな。ゆっくりみっちり叩き込んでやるから」
 下唇を強く噛んで苛立っていた乳ローが口を開いた。
「それはわかったから、さっさと同意の続きを話せよ」
「お前の出番なんやから、よく聞いとけよ」
「チッ、早く喋ろよ」
「居酒屋を出る。自宅(ホテル)に行く同意を得たから、二人で家に入ることができる」
「『部屋に入る同意』ですね……。ガリさん、細かすぎるような……」
「それだと黄色信号やで。最初に言ったやろ? 『全ての性的行為において、確認されるべき同意をといい、同意のない性的言動や行動は全部性暴力とみなされるんや。ナンパの世界で言うと、①『下ネタ』②『ボディタッチ』③『性交における同意』と大まかに3つに分けることができる。これがグローバルスタンダードであり、そういう時代だということを深く認識して刻みつけておく必要があるんやで』と」
「確かに……」
「二人で入った時点で性行為の同意と思う人間は少なくないが、逆だと思う人間も少なくない。両者には乖離があんねん」
「安心しろ。俺はそんなちんけな同意なんかをはるかに超えたところで女を落としているからな」
「お前みたいな男が一番危ないねん」
「どういうことですか?」
「『認知の歪み』や。性犯罪者は認知の歪みを起こしやすいねん」
「おい、ガリ。いくら総長でも口が過ぎるぞ。俺は性犯罪者じゃねぇぞ」
「時代は変わってきている。今の時代においては、予備軍なのは間違いない」
「ガリさん、認知の歪みって何ですか?」
「欲望を叶えるために、自分の都合のいいように解釈する考え方をいうねん。痴漢や強制わいせつや強姦などの性犯罪者によく見られる思考回路なんやで」
「どういう思考回路なんですか?」
「『あんな格好してるんだから、触られてぇんだろ?』『個室の居酒屋で二人きりで飲酒したんだから、その後のことはOKなんだろ?』『一緒に部屋に入ったんだから、ヤってもOKという証拠なんだろ?』『嫌よ嫌よも好きのうちなんだろ?』ってな感じや」
「なるほど……。そもそも、なぜ、認知の歪みって起きるのでしょうか?」 
「男尊女卑が影響している。日本にはまだまだ根強く残っている。小さい頃から、男尊女卑がすり込まれている現実において、当然、それは性欲にも影響を及ぼす。男尊女卑が原因による認知の歪みによって、あらゆる性犯罪が起きているのが現実やねん」
「ここでいう性欲って、何か違う言葉に置き換えることができそうですね……。支配欲や権力欲……、そして、それにおける優越感に満たされると全能感に包まれるというか……。何だか怖いです」
「せやな。性欲はあらゆる欲望と直結している。分離して単独で存在する単純明快なものではないんやで」
「なるほど、わかりました……。認知の歪みによる性犯罪を減らすためには、今以上に男尊女卑をなくすよう努力し、尚且つ、学生時代における性教育を抜本的に変えていかなければいけないのでしょうね……。でも、認知の歪みと言われましても、あまりにも勘違いや思い込みが激しく、さらには、実際にある性犯罪において一線を踏み込んでしまう人間が問題なのであって、大半の男性は問題がないというか、多少の認知の歪みって誰にでもあると思うのですが……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

女ハッカーのコードネームは @takashi

一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか? その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。 守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。

処理中です...