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6章 コンドームおばあさん
6-4 乳ローの危なっかしい講義【⑱ゲスい方が女にモテる】
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サンシャイン60通りをぼぉぅと眺めた。喫茶店やファーストフードや居酒屋やレストランの看板が見え、牛丼、もんじゃ、ハンバーガー、ピザ、ラーメン、牛タン、という食べ物の言葉を見ると自然と唾液の量が増えてきた。
食べ物の看板は避けてそのまま街並みを眺めると、靴屋、質屋、パソコン教室、英会話学校、着付け教室、旅行代理店、消費者金融、美容院、エステ、毛髪クリニック、「下着のオーダーメイドつくります」の看板が見えた。
看板フェチになってしまった自分は続けて眺めてみた。パチンコ、映画館、カラオケ、ゲームセンター、漫画喫茶、雀荘、……。
「アホ面晒して、何をボーと眺めてるんだよ」
看板を見続けていたので、乳ローの顔が看板のように四角く見えた。ガリさんのLINEのメッセージで戻ってきたようだ。
「池袋って久しぶりに来たんで街を眺めていたんですよ、看板さん」
「誰が看板さんだよ」
あっと、口を滑らせてしまった。
「間違えちゃいました。すいません」
「何で看板と間違えるんだよ。そうそう俺は看板みたいに顔が四角いよな」
と言いながら、人差し指で自分の顔の周りを四角く描いた。
「って、何言わせるんだよ殺すぞグリーン」
おいおい。勝手にノリツッコミしといてその仕打ちはないだろ。
「まぁ、そんなのどうでもいいや。ところで、さっき連れ出した女はどうだったんだよ」
「前半はまずまずだったような気がするんですけど、後半失敗しちゃって……」
「知ってる」
ぐはっ……。知ってるなら知らない振りして訊くなよぉ。趣味わりぃな。
「ガリから電話で聞いたよ。最後、水をぶっかけられたんだろ。そんなのは戦果と言わねぇよ。男ならば、ぶっかける方になれよ」
「即なんて本当にできるんですかね。自信を失いましたよ」
「バカ。初めての連れ出しで何言ってるんだよ。ナンパ師だったら、ちんたら恋愛ごっこしてるんじゃなくて即日エッチを決めろよ」
「乳ロー、そう言うな。初連れ出しなんだから褒めてやれや」
「こいつは褒めて伸びるタイプじゃないぜ。厳しく指導しないとよ。そんな精神じゃいくらやったって即れやしないよ。いい人止まりだ。いい人と言われて自分に酔っていればいいさ」
「いい人ってダメなんですかね」
「あぁ。ナンパにおいてはダメだな。いい人に女は股を開かない。オスとしての魅力がないからだ。負け犬は遠吠えでもしてろよ。弱い者は今すぐ舞台から立ち去れ。子孫を残せずどこかで隠れて野垂れ死でもしてくれよぉ」
「ぐぐぐっ……」
こいつはホントに好き放題言ってくれるな。
乳ローは、顔に左手を添えて俺の耳に近づいてくると囁いた。
「社長社長ぉ~。聞いてくださいよぉ。ゲスい方が女にモテるのは小学生でも知ってまっせ。人を傷つけても何とも思わないゲスくて危険な香りのする方が、いい人や薄ら優しい男よりもはるかにモテますよぉ。社長ぉ~、もしかしてこんなことも知らないんですかぁ? 何十年人間やってるんですかぁ?」
「おいおい、そこまで言うなって。たまには褒めてやれよ。あっ、歩きタバコのパトロール隊がこっちに向かってきた。あっちに行くで」
タバコを咥えているガリさんは歩き出した。
「わかったよ。初連れ出しは褒めてやるよ。おめでとさん」
これでもかというぐらい気持ちがこもってないな。
「でも、耳をかっぽじってよく聞けグリーン」
「あっ、はい。何でしょうか」
小指を押し込んで耳をかっぽじった後、唾を飲み込み言葉を待った。
「その女がいい女かどうかは肉体関係を結ばないとわからないものなんだよ。だから、まず抱くためにはどうすればいいかを考えろ。連れ出しごときで浮かれてるんじゃねぇよ」
初連れ出しということで俺はどこかしら浮かれていたのだろうか。
「おい、グリーン。ストリートは修行の場なんだよ」
修行……。
わかってる。初連れ出しするまで三百五十声かけかかったのだから。
「ナンパというものはこれだって女に出会えることがあるが、それとは逆に、その日を境に一生会わないこともある。ナンパの出会いは職場や学校と違い、これから先の生活の中で顔を合わせる可能性が低い。と言うより、むしろ一生会わない可能性の方が高い。ならば、大胆に攻めることができるだろ? 恥をかいたとしても次の日には誰も覚えちゃいねぇし、すぐに忘れちまうもんなんだよ。だから、もし次はないなと思ったら、練習台だと思って攻めればいいんだよ」
ガリさんは眉間に皺を寄せている。
「女だって同じなんだぜ。女から見ても練習台だ。男と女はそうやっていくつもの経験を重ねて成長していくんだよ。最初から女扱いがうまい奴なんていねぇし、女への接し方は場数を踏まなければ向上していかねぇんだよ。ナンパというものはその男力を上げるための修行であり、ストリートってのは男にとっての戦場なんだぜ」
戦場かぁ。改めて聞くけどやっぱりかっこいいな。
「だから、連れ出したときはもっとアグレッシブに攻めろよ」
確かにそうだよな……。
「それと、ナンパ師ならば色んな女を囲わないとダメだ。とにかく女との接点を多くつくり、多人数の女と同時にやり取りしろ。したら、一人の女に一喜一憂しなくなるし執着もなくなるから、気楽な気持ちで大胆に攻めることができるようになってくる。それだけでなく、自分自身の女関係における隠れていた思いを浮かび上がらせることや気づきが生まれたりもする。これら全体の枠組みによって自信や余裕というものが生まれてくるし、失敗してもダメージを少なく抑えることができるんだよ。で、これを続けていけば、女への攻め方が少しずつ感覚的にわかるようになってくるんだぜ。ま、一人も即ったことがないグリーンには途方もなく先の話だけどさ」
「あっ、たっ、と。そうですね。でも、いつかは囲いたいです」
「それに、グリーンにも、人生の転機を迎えるようなこれだって女が現れるかもしれねぇだろ?」
「それは望むところですが……」
「そんな肝心なときに地蔵して動けなかったり、もし動けたとしても女扱いが不慣れでまごまごして自信なさげに接すれば失敗すると思うんだよ。そういうイザというときのためにも、ナンパで女への振る舞いや腕を磨いて鍛えておくべきなんだぜ。わかったか?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
ガリさんは、腕を組みながら黙って聞いていた。
「何だよ、ガリ。その目はよぉ」
「お前のナンパ論はちょいちょい危なっかしいんだよなー。まぁ、ええわ。ほな、あっち行くで」
食べ物の看板は避けてそのまま街並みを眺めると、靴屋、質屋、パソコン教室、英会話学校、着付け教室、旅行代理店、消費者金融、美容院、エステ、毛髪クリニック、「下着のオーダーメイドつくります」の看板が見えた。
看板フェチになってしまった自分は続けて眺めてみた。パチンコ、映画館、カラオケ、ゲームセンター、漫画喫茶、雀荘、……。
「アホ面晒して、何をボーと眺めてるんだよ」
看板を見続けていたので、乳ローの顔が看板のように四角く見えた。ガリさんのLINEのメッセージで戻ってきたようだ。
「池袋って久しぶりに来たんで街を眺めていたんですよ、看板さん」
「誰が看板さんだよ」
あっと、口を滑らせてしまった。
「間違えちゃいました。すいません」
「何で看板と間違えるんだよ。そうそう俺は看板みたいに顔が四角いよな」
と言いながら、人差し指で自分の顔の周りを四角く描いた。
「って、何言わせるんだよ殺すぞグリーン」
おいおい。勝手にノリツッコミしといてその仕打ちはないだろ。
「まぁ、そんなのどうでもいいや。ところで、さっき連れ出した女はどうだったんだよ」
「前半はまずまずだったような気がするんですけど、後半失敗しちゃって……」
「知ってる」
ぐはっ……。知ってるなら知らない振りして訊くなよぉ。趣味わりぃな。
「ガリから電話で聞いたよ。最後、水をぶっかけられたんだろ。そんなのは戦果と言わねぇよ。男ならば、ぶっかける方になれよ」
「即なんて本当にできるんですかね。自信を失いましたよ」
「バカ。初めての連れ出しで何言ってるんだよ。ナンパ師だったら、ちんたら恋愛ごっこしてるんじゃなくて即日エッチを決めろよ」
「乳ロー、そう言うな。初連れ出しなんだから褒めてやれや」
「こいつは褒めて伸びるタイプじゃないぜ。厳しく指導しないとよ。そんな精神じゃいくらやったって即れやしないよ。いい人止まりだ。いい人と言われて自分に酔っていればいいさ」
「いい人ってダメなんですかね」
「あぁ。ナンパにおいてはダメだな。いい人に女は股を開かない。オスとしての魅力がないからだ。負け犬は遠吠えでもしてろよ。弱い者は今すぐ舞台から立ち去れ。子孫を残せずどこかで隠れて野垂れ死でもしてくれよぉ」
「ぐぐぐっ……」
こいつはホントに好き放題言ってくれるな。
乳ローは、顔に左手を添えて俺の耳に近づいてくると囁いた。
「社長社長ぉ~。聞いてくださいよぉ。ゲスい方が女にモテるのは小学生でも知ってまっせ。人を傷つけても何とも思わないゲスくて危険な香りのする方が、いい人や薄ら優しい男よりもはるかにモテますよぉ。社長ぉ~、もしかしてこんなことも知らないんですかぁ? 何十年人間やってるんですかぁ?」
「おいおい、そこまで言うなって。たまには褒めてやれよ。あっ、歩きタバコのパトロール隊がこっちに向かってきた。あっちに行くで」
タバコを咥えているガリさんは歩き出した。
「わかったよ。初連れ出しは褒めてやるよ。おめでとさん」
これでもかというぐらい気持ちがこもってないな。
「でも、耳をかっぽじってよく聞けグリーン」
「あっ、はい。何でしょうか」
小指を押し込んで耳をかっぽじった後、唾を飲み込み言葉を待った。
「その女がいい女かどうかは肉体関係を結ばないとわからないものなんだよ。だから、まず抱くためにはどうすればいいかを考えろ。連れ出しごときで浮かれてるんじゃねぇよ」
初連れ出しということで俺はどこかしら浮かれていたのだろうか。
「おい、グリーン。ストリートは修行の場なんだよ」
修行……。
わかってる。初連れ出しするまで三百五十声かけかかったのだから。
「ナンパというものはこれだって女に出会えることがあるが、それとは逆に、その日を境に一生会わないこともある。ナンパの出会いは職場や学校と違い、これから先の生活の中で顔を合わせる可能性が低い。と言うより、むしろ一生会わない可能性の方が高い。ならば、大胆に攻めることができるだろ? 恥をかいたとしても次の日には誰も覚えちゃいねぇし、すぐに忘れちまうもんなんだよ。だから、もし次はないなと思ったら、練習台だと思って攻めればいいんだよ」
ガリさんは眉間に皺を寄せている。
「女だって同じなんだぜ。女から見ても練習台だ。男と女はそうやっていくつもの経験を重ねて成長していくんだよ。最初から女扱いがうまい奴なんていねぇし、女への接し方は場数を踏まなければ向上していかねぇんだよ。ナンパというものはその男力を上げるための修行であり、ストリートってのは男にとっての戦場なんだぜ」
戦場かぁ。改めて聞くけどやっぱりかっこいいな。
「だから、連れ出したときはもっとアグレッシブに攻めろよ」
確かにそうだよな……。
「それと、ナンパ師ならば色んな女を囲わないとダメだ。とにかく女との接点を多くつくり、多人数の女と同時にやり取りしろ。したら、一人の女に一喜一憂しなくなるし執着もなくなるから、気楽な気持ちで大胆に攻めることができるようになってくる。それだけでなく、自分自身の女関係における隠れていた思いを浮かび上がらせることや気づきが生まれたりもする。これら全体の枠組みによって自信や余裕というものが生まれてくるし、失敗してもダメージを少なく抑えることができるんだよ。で、これを続けていけば、女への攻め方が少しずつ感覚的にわかるようになってくるんだぜ。ま、一人も即ったことがないグリーンには途方もなく先の話だけどさ」
「あっ、たっ、と。そうですね。でも、いつかは囲いたいです」
「それに、グリーンにも、人生の転機を迎えるようなこれだって女が現れるかもしれねぇだろ?」
「それは望むところですが……」
「そんな肝心なときに地蔵して動けなかったり、もし動けたとしても女扱いが不慣れでまごまごして自信なさげに接すれば失敗すると思うんだよ。そういうイザというときのためにも、ナンパで女への振る舞いや腕を磨いて鍛えておくべきなんだぜ。わかったか?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
ガリさんは、腕を組みながら黙って聞いていた。
「何だよ、ガリ。その目はよぉ」
「お前のナンパ論はちょいちょい危なっかしいんだよなー。まぁ、ええわ。ほな、あっち行くで」
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