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5章 翡翠色の玉かんざし

5-8 求道者

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 しばらく声かけをしていたが、ガンシカばかりで一向に成果が現れなかった。疲れてしまったので呆然とALTA前を歩いていると、アールグレイティーのペットボトルを持っている子凛が立っていた。
「あ、お疲れ様です。グリーンさん、今日の調子はどうですか」
 好感度抜群の爽やかな笑顔を俺に向ける子凛の側には、いつも通りたんぽぽの輪っかをのせた妖精がいる。肩の上に立って、俺に手を振りながら、おしゃまな笑顔を撒き散らしている。会釈しながらカウンターを見てみると、そこには40の数字が示されていた。子凛に見習ってこの前、100円ショップで買ったんだ。
「四十声かけですね」
「すごいじゃないですか。かなり声かけ数が増えましたね」
「ありがとうございます。でも、結果が散々なんですよ。子凛さんは何声かけですか」
 ポケットから取り出してカウンターを見る。
「えっと、百六十八声かけですね」
「ものすごい声かけ数ですね」
 カウンターを覗くと、そこには紛れもなく168の数字が示されていた。
「ちなみに、結果はどうだったんですか」
「3人連れ出して、7人連絡先交換しました」
「さすが、子凛さん。自分は、ガンシカばっかりですよ」
 妖精に視線を移すと、右手を口元に添えて咳き込んでいる。新宿の空気が合わないのだろうか。と思っていると、子凛も咳き込み始めた。よく似た兄妹だなと思いクスッと笑うと、呼吸を整えた子凛が口を開いた。
「大丈夫ですよ、このまま頑張り続ければ。継続は力なりですから」
 眩しい光を投げかけられた。
「ありがとうございます。あれ、子凛さんごのみのモデル体型のお姉さんでは」
「はい、行きますね」
 その瞬間、いつものように表情を一辺させた。何回でも何十回でも何百回でも声をかけ続けるその姿は、求道者のように思えた。いつからか背後にはガリさんがいて、タバコを吸いながらこちらを眺めていた。
「ホンマ、あいつは修行僧みたいなナンパ師やな。人によっては罵声を浴びるナンパは、現代の苦行や荒行といえるかもしれへん……。子凛は声かけを繰り返すことによって、何かを吹っ切りたいのやろう」
「そうですね。自分もそのように見えます」
「グリーンも、そういう風に見えるけどな」
「えっ」
「ナンパ師っていうたって、男女におけるゲーム性を楽しむだけの性欲に溺れた人種だけやないからな。自分にとってこれだといえるおなごを見つけるためにナンパ師になる奴もいれば、引きこもっていて学生時代に恋愛できず、青春を取り戻すためにナンパ師になる奴もいる。一方、お前らのように何かを追い求めるために、やり始める奴もいる。グリーンも子凛も何かを吹っ切りたいからこそ、声をかけ続けているように見えるで」
「実は、ガリさんもそうなんじゃないですか?」
「せやなぁ……。ワイもそうかもしれへんなぁ」
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