地蔵してんじゃねぇよ! ~性欲の中心には魔物が棲んでんねん~

ねこの散歩

文字の大きさ
上 下
33 / 107
5章 翡翠色の玉かんざし

5-7 〝優しさ〟なんて身の毛がよだつ発言は口が裂けても絶対言わせねぇよ。【⑯ストロングポイント】

しおりを挟む
「ボーっとするなよ。時間の無駄になるから、指名ナンパを始めようぜ」
「せやな。そろそろグリーンにも声をかけさせないとあかんな」
「よし。じゃ、あれだ。あのみかん色のシャツを着た女」
「はい、わかりました」
 とにかく思いっきり走った。
「すいません。訊いていいですか?」
 アイコンタクトはちゃんととれた。
「うわぁ、びっくり」
「その琥珀色したTシャツ可愛いですね。つい目を奪われてしまって」
「琥珀色ってあまり言わないですよね」
 と言いながらくすっと笑った。あまり面白い話じゃないけど、このネタを少し引っ張るか。
「自分、色に詳しいんですよ。七十二色の色鉛筆を持ってますし」
「すごい。そんなに色鉛筆を持ってるんですか。私、絵を描いてるんで種類じゃ負けますけど、絵の具ならたくさん持ってますよ」
 と言うと、口元を左手で隠しながら笑っている。
「趣味が合いそうですね。じゃ、そこのカフェで色の世界について語りましょうよ」
「それは、ちょっと……」
 やっぱり早すぎたか。
「キャッチですか?」
「違う違う。女の子の友達がいないんで、ぜひお友達になってほしいと」
 胸を手で押さえ、心をこめて切実に言ってしまったので、相手は確実に引いている。
 あっと、ちょっとヤバいな……。
「出会いが全くないんですよね。だから、今頑張って声をかけちゃいました。逆に質問なんですけど、出会いってありますか?」
「ん……、ないね」
 含み笑いに変わったから何とかなりそうだ。
「えー、何してる人ですか?」
「今はフリーターで、過払い金返還請求専門の司法書士を目指して勉強しています」
「ふ~ん」
 それからの会話は上々に盛りあがった。相手に時間がなかったので、すぐさま連絡先を交換した。相手は携帯の充電が切れたので、口頭で電話番号を言われた。俺は、それを間違えないようにくまなく確認しながら登録した。

 よし、TGだ。飛行機の翼のように手を横に広げ、小躍りしながらガリさんと乳ローに駆け寄った。
「ガリさん、初めてTGできました」
「っていうか、なんだ、お前のトークの内容は……」
「まぁ、乳ロー、そう言うな。少しずつ改善していけばええ。ただ、最初に注意を」
 な、なんだろう……。
「前にノンバーバルのことを言うたやろ」
「あ、はいはい、覚えてます」
「表情や振る舞いに関わってくることなんやけど、グリーンを見てると、おどおどしているように見えんねん。ナンパには、自信が必要なんやで。自信のある男におなごはついていくねん。逆に言うと、自信のない男に、誰一人おなごはついていかないんやで。グリーンは自分のできる範囲で努力してるんやから、もっと胸張って、自信を持ってナンパすることを肝に銘じろや」
「わかりました……」 
 乳ローも、待ってましたとばかりに間髪入れずに喋り出した。
「女に下手に出れば足元を見られるし、ついていこうという気持ちも消え失せてしまうんだよ。それは、なぜか。オスの魅力がないからだ。『この女が無理でも、他に女なんか腐るほどいる』という超男臭いメンタリティの方がモテるんだよ。だから、『俺は完全無欠な男で、自分と触れ合えるお前は宇宙一幸福な女なんだぜ! バカヤロー!』ぐらいの強気のマインドで声をかけろよ。ったく……」
「せや。強気でいかな、おなごを上手にリードすることはできんからな。すぐに自信が持てなけりゃ過信でもええねん。『ワイはまずまずのイケメン』とかハッタリ気味でも嘘でもええから、もっと自信を持って声をかけなきゃあかんで」
 初めてのTGで褒めてもらえると思ったのに、こんなキツいお灸を据えられるとは……。でも、敏腕ナンパ師になるためには超えなければいけないハードルだよな……。もっと、自信を持たないと……。
「せやけど、結構和んでたと思うし悪くなかったと思うで。長々と喋っていたから最後まで見てなかったけどおめでとう」
「ありがとうございます」
「連絡先を聞いたら、なるべく今日中に連絡してアポを取り付けるんやで。時間が経てば経つほど興味を失っていくんやから注意せなあかんで」
「わかりました。TGはうれしかったのですが、彼女、途中で携帯の電池が切れちゃって手打ち登録をしたので焦っちゃいました」
 ガリさんが眉間に皺を寄せた。
「ちょっと携帯貸してみ」
「はい?」
「おなごの名前は?」
「ミナです」
「その名前もあってるかどうかわからへんけどな」
「えっ、どういうことですか」
 ガリさんはミナに、『さっきはありがとね。良かったら、今度飲みに行きましょう♪』というショートメールを送った。すると、そのメールは届かず、未配信の表示。それを見て、俺は顔が引き攣るのを感じた。
「あぁ。手打ちで登録したとき、間違えちゃったんですね。マジで死にたいっす」
「ちゃうちゃう。携帯の充電が切れたってのは嘘で、連絡先を教えると面倒臭いなって思われたんや。せやから、口頭で嘘の連絡先を教えたんやで。それに、嘘じゃなくても、連絡先交換だけ済ませて、とりあえずその場の幕引きをしようって考えるおなごは少なくないねん。ま、グリーンもこれからはそこんとこを気をつけて声かけせなあかん」
「今の声かけの問題点はそれだけじゃあないけどな。よく聞け、小僧」
「あっ、はい」
 ちょくちょく腹を立たせる奴だな。
「俺は185センチの高身長でマッチョで顔もいい。仕事もできるし頭もキレるし、金も持っている。んでもって、ウィットに富んだ会話もできる」
 普通、自分で言うか。
「『普通、自分で言うか』ってツラしてるけど、事実だからしょうがない。女はバカだから、俺の外見だけでのこのこついてくる。そして、ベッドの上で股を開く。それが、現実だ。俺には他にも、女がメリットだと感じるものをたくさん持っている。だから、女は俺についてくる」
 髪を掻き上げると、俺の目を刺すように見つめた。
「グリーン。お前についていくと、どんなメリットがあるんだ。言ってみろ」
「俺は……」
「ガリは技術に長けている。女の心を読めるからこそ、心のかゆいところをソフトタッチで掻くような接し方ができるんだ。俺は心がないから、ガリの能力に脱帽するし、嫉妬も覚える」
 ガリさんは見守るように黙って聞いていた。
「子凛はどうだ。日本一の誠実系ナンパ師だ。十太はどうだ。お前は知らないだろうが、酔拳の使い手だ。クラブに行くと、いい女はたいていあいつが持ち帰る。アルコールが入るとあいつの右に出る者はいない」
 俺は左手を口元に添えて、どこを見るともなく聞いていた。
「新人のまあさはどうだ。お笑いだけで落とそうとする。テンションは半端ない。俺は必要以上の笑いはいらないと思うが、彼はそれが女に与える唯一のメリットだと感じているし、且つ譲れないプライドでもあるんだろ」
 現実の世界に無理矢理焦点を合わせると、左手を下げ、乳ローの瞳を見つめた。
「お前は、女に何を与えることができるんだ。なぁ?」 
 俺は女にどんなメリットを与えることができるのだろうか……。
 再び視線を落とすと、地面を見たまま固まってしまった。
「女はメリットがあるかどうかでついていくんだよ。中身でも外見でもいい。権力でも金でも仕事でも趣味でも特技でもキャラクターでも雑学でも何でもいい。お前の武器は何なんだよ。どんな力を持ってるんだ? 女に何を与えることができるんだ?」
「……」
「おい。黙ってないで答えろよ」
「や、や」
 親指と人差し指で唇をつままれると、その先を言わせてくれなかった。
「黙れ!」
 いや、今お前が黙るなと……。どんだけ理不尽なんだよ。
なんて身の毛がよだつ発言は口が裂けても絶対言わせねぇよ。そんなことは誰にでもできることだからな。優しさなんてものは、能力のない男が自分のプライドを守るためにすがる最後の手段なんだよ。そのセリフを言ってしまったら男としておしまいなんだぜ」
「ぐっ……」
「まぁ、それでも優しさなんていう気持ちわりぃセリフを吐きたいならば、差別化できる優しさをせいぜい目指しな」
「わかりました……」
「ガリが『ナンパは男の営業だ』って言ってたろ? 自分の売りをハッキリさせろ。ストロングポイントがなけりゃ女なんかついてくるわけねぇんだからさ。お前のそのアンポンタンな脳みそでよく考えな」
 ガリさんに「ポン」と肩を叩かれた。
「乳ローの言うことは確かに一理ある。せやけど、グリーンはまだ模索の段階や。修行していけば何時いつか必ず辿り着く。落ち込むなぁ。まだまだ道は長いぞぉ。千里の道も一歩からってな」
「ありがとうございます」
 と感謝の言葉を発したが、足は確実に重くなっていた。
「いい女がいたから声をかけてくるわぁ。指名ナンパは中断」
 と言うと、乳ローは今さっき演説していた面影をサっと消して、走って声をかけにいってしまった。気持ちの切り替えが早すぎる。さすが、敏腕ナンパ師。
「ワイもスト高を見っけたから声をかけてくるわぁ。また後でね」
「あぁ」
 と声を漏らす間もなくガリさんも行ってしまい、視線を追ったがすぐに人混みに紛れて消えてしまった。さすが、伝説のナンパ師。それにしても、二人ともあまりにも動きが速すぎる。
 確か、「ストリートで容姿のレベルが高い女はスト高と言うんやで」ってガリさんが言ってたっけ。よし、一人になっちゃったし、指名ナンパに頼らず声がかけられるように特訓だ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...