空からトラブルが落ちてきた

ゆめ

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第3話:日頃の行い

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 少年は翌日目を覚ましたはいいが、高熱が引けずに苦しみ続けた。

 たまに目が覚めては川で泳ぎたいとか、滝から飛び降りたいなど、病人とは思えぬ事ばかりを口にする。

 食事は一切摂らず、水だけでも取れと迫る領主の言葉に仕方なしに水を取るだけ。

 広場の陥没が一晩にして元に戻った件については、精霊の恵みではないかと例えをあげたらそれが通ってしまった。
 陥没騒動はそれで終わったが、収穫祭の打ち合わせと用意で忙しいこの時期、少し目を離せばベッドから降りて床で寝る少年を心配しつつ、祭りの準備に追われた。

 触れる事が出来ないから村人には世話を頼めず、結局は領主が仕事の合間合間に少年の世話をする羽目になり、殺人的な忙しさの中、ただひたすら己の仕事をこなす。
 日々の忙しさに流され、気付けば少年が現れて1週間が経っていた。


 そう、少年が現れてからもう1週間が経っているのだ。

「スープを持ってきた、少し口に入れろ」
「うぅ~~い~ら~な~い~」

 片腕で身体を捕らえれば、力の入らない身体で逃げようともがく。
 この攻防にももう慣れた。

 一向に熱の下がらない身元不詳の少年はこの一週間、水以外は一切口にしていない。
 分かってはいたがやはりこの少年、人間ではなかったようだ。

「少し栄養を摂らないと」
「へーき、へーき」

 へらへらと笑う少年に溜息を付き、スープを枕もとの机に置いた。

「お?」

 強引に寝かされたと思ったら領主の膝枕付で、驚きを含んだ声が楽しそうにあがった。

「手の掛かる子供だな。そう言えば名前も聞いてない」
「あはは~今更何言うのー」

 熱い手で腰にしがみ付き楽しそうに笑う。

 無邪気にじゃれ付く子供をむげにはできず、机の上に置いてあった櫛を取り、少年の髪をゆっくりと梳かす。
 さらさらと音がしそうなほど美しい金糸の髪。

 最初こそ傷んでいたものの、領主の手入れのお陰で髪はすっかり本来の艶を取り戻していた。
 暫くすると腰を掴んでいた手から力が抜け、下を見れば穏やかな寝顔。
 1日の終わりに誰かの寝顔を見るのも悪くない、そんな風に思い始めていた。
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