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巡り合い

第528話

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「イツキー!」

 神薙さんはどうやらお出掛けしないようなので、お昼の用意は今からしないと間に合わないかもしれない、ドリちゃんに相談しようと立ち上がりかけた所で黒ちゃんが庭から座敷に飛び込んできた。

「聞いてぇー」

 うぉんうぉんと滂沱の涙を流す黒ちゃんが語った所によると、昨晩、ラセンに報告しようとしてタイガに足止めを食らって会えなかったらしい。
 いや、まぁ、事後の伴侶を見せるほど心は広くないかなぁ?

 黒ちゃんが暮らしているのはラセンのお家なので、流石に家主の許可なく一緒には暮らせない。
 昨日の夜は泣く泣くお嫁さんと別れ、今日の朝食の席で結婚報告と一緒に同居のお願いをした。

「ここで人間が暮らせるわけないでしょう」

 ため息とともにそう言われたんだって。
 そう言えばラセンの治めるあの辺りは魔王領の最北端、街の外に一歩出ると危険な魔物がうぞうぞいるんだっけ。

 何か事件があって、なんやかんやでラセンと致してタイガが生まれたんだよねぇ。
 懐かしいなぁ。

「黒」
「とうさまぁぁ」
「あそこは無理、人は住めない」
「うおおおおん」

 神薙さんにも否定された。
 邪神の御子である黒ちゃんは何ともないだろうけど、確かあそこの魔素ってラセンが発生源。

 しかも現在はタイガと黒ちゃんも加わったから、以前より危険地帯になってるんだっけ。
 そりゃぁ無理だよ黒ちゃん、お嫁さんただの人間だもの。

「じゃあここに住むーー!!」
「ごめん、主様の采配だから僕はどうにもできない」
「うおーーーん」
『黒ちゃん元気出して?』
「お前が大食いなのも原因の一つだしなぁ」
「ちょっとだけ同情する、焼き芋食べるか?」
「食う」

 べそべそ泣きながらも涼玉が差し出した焼き芋を食べる黒ちゃん。
 アー君が言う通り、黒ちゃんがラセンの所に行かされたのも大食いが大きな要因なんだよね、ラセンの所なら無限に魔物が沸くから食べる物には困らない。

「黒ちゃんの結婚に関しては何か言ってたの?」
「ぐすっ。祝福のことばくれた。でも一緒すむはだめだって」
「うーーん、そうだ春日さん」
「おれぇ?」
「この周辺の結界みたいに、魔素を吸い上げて別の用途に使うとかは駄目でしょうか?」
「あそこの魔物はラセンの魔素で生きてるようなもんだから、供給源断ったら何が起こるかわからないから危険だな」

 だめかぁ。

『マシューのとこは?』
「マシューかぁ、あそこは稼働始めたばかりだから、黒を甘やかす余裕はない」
「黒は小さいからぺっしゃとされるな」

 コモドドラゴンが餌と間違える危険性もあるね。
 普通のコモドじゃなく、騎士様が色々いじったコモドだから余計に危険。

「じゃあ、じゃあ、俺も寮に入る!」
「お嫁さんが入ってるの女子寮、黒ちゃん男の子」

 あっ、黒ちゃんがぐんにゃりしちゃった。

『神薙しゃま今お腹の中から蹴られた』
「えっ」
「がぅ?」

 神薙さんのお腹にぺったりとくっついていたシャムスの言葉にアー君と涼玉が驚いたように神薙さんを見た。

『じゃしん増えすぎて騎士ちゃま泣いちゃうね』
「うん、言いにくいね」
「えっと、神薙さん?」
「妊娠した」

 今夜の宴で騎士様達が不在の間にあった事を報告する予定なんだけど、報告する事が一つ増えたようです。
 レイアさんから貰った胃薬渡しておこうかなぁ。
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