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家族が増えました
第413話
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クロードさんのお話は我が家では当面禁止になった。
なぜなら話題が出るたびにお腹の子がビクッとなるから、この子、怪談の題名だけで気絶しそうだよね、将来が心配です。
そんな訳で進捗状況も分からない現在、ひたすら心身を癒すことに専念しています。
アカーシャごめん、こんな時に役に立てなくて。
「確かに妊娠中は味覚が変わるとは聞いた事はある。だけどなぁ」
「?」
「イツキの場合、味覚というか嗜好が変わっている気がする」
春日さんに言われて本日のおやつに視線を落とすと、まぁるくふわふわなパンケーキの生クリーム添え、ストロベリーアイス付き。
しかもパンケーキはパンダさんなサービス付き。
確かに普段の僕はこれは食べない、ような気がする。
どうだっけ?
そう言えばアカーシャの時はすり身ばかり食べたなぁ、みんなあっという間に育って出産するから気にしたことなかった。
「かあしゃまあーん」
「くれるの?」
「俺も俺も」
左右からシャムスとアー君が自分のパンケーキを差し出してきた。
僕に、というよりお腹の子にかなぁ。
「そうだ春日さん、この子に名前つけてくれませんか? 女神様はお忙しそうだからお願いします」
「俺ぇ? センスあまりないぞ?」
「じゃあとうしゃまかなぁ」
「そうしろそうしろ、獅皇なら俺よりマシだ」
獅皇さんが命名したのは過去に二人。
シャムスは古代語で「太陽」、イネスは「月」、うん、問題ないっぽいね。
「えほんよむの」
「日向行こうぜー、メルベリ、クッション出して」
「はい」
メルベリ――亜人とクラーケンのハーフ――ナーガとマシュー君が自分達の代役として寄越したあの子です。
アイテムボックスにはシャムス好みの絵本から始まり、各種クッションやおやつなどが詰め込まれ、シャムスが望めばいつでも取り出して提供してくれる。
うん、子守がいるのはありがたい、でもおやつはほどほどにね。
「かーしゃまぁ」
「はぁい」
絵本を読み聞かせる相手はお腹の子、つまり僕も絵本の読み聞かせに強制参加ですよ。
縁側に配置されたもこもこクッションに背を預けると、すかさず左右にシャムスとアー君が陣取る。
『えっとね、ネリちゃんの新作がいいなぁ』
「新作となると『子ぎつねの大冒険』シリーズですね」
メリベルの持ち物の中にある新作の絵本は、マシュー君が学校帰りに購入しているとアカーシャから聞いている。
お金を払おうとアカーシャに値段を聞いたら止められた。
絵本の数々はマシュー君とナーガからの貢物、シャムスが全力で喜べばそれが対価になるらしい。
渡された絵本を開き、たどたどしい言葉でゆっくりとシャムスが読む。
その背表紙をメリベルがタコ足を伸ばしてそっと支えながら、僕らのために飲み物を取り出し手渡してくれた。
タコ足、便利だね。
この子ぎつねシリーズはシャムスの一番のお気に入り、絵本自体もシャムスが読むことを前提として作られているから言葉も柔らかく、単語も簡単なものばかり使われている。
金髪ドリル令嬢のネりちゃんも今じゃ立派な絵本作家。
と、そこで終われば平和なんだけど、実はネりちゃんは聖典作家という肩書も持っている。
聖典、神様の言行や教説が書かれたもの――なんだけど、この世界ではそんな神聖なものではない、ヴィシュタル教の聖典の中身は全て薔薇な内容なんだよ。
シャムスに捧げる絵本を描いていたドリルさん、シャムスが縁で女神様の御心に触れちゃったみたいで、そこから女神様の世界に心酔してBLへの扉を解き放ち、読むだけでは飽き足らず、自分で書く方向に行っちゃったみたい。
優しい世界を描く子供に大人気の絵本作家が、女神様が大絶賛する泥沼愛憎薔薇本を執筆していると誰が思うだろうか。
少なくとも僕は知りたくなかったな。
なぜなら話題が出るたびにお腹の子がビクッとなるから、この子、怪談の題名だけで気絶しそうだよね、将来が心配です。
そんな訳で進捗状況も分からない現在、ひたすら心身を癒すことに専念しています。
アカーシャごめん、こんな時に役に立てなくて。
「確かに妊娠中は味覚が変わるとは聞いた事はある。だけどなぁ」
「?」
「イツキの場合、味覚というか嗜好が変わっている気がする」
春日さんに言われて本日のおやつに視線を落とすと、まぁるくふわふわなパンケーキの生クリーム添え、ストロベリーアイス付き。
しかもパンケーキはパンダさんなサービス付き。
確かに普段の僕はこれは食べない、ような気がする。
どうだっけ?
そう言えばアカーシャの時はすり身ばかり食べたなぁ、みんなあっという間に育って出産するから気にしたことなかった。
「かあしゃまあーん」
「くれるの?」
「俺も俺も」
左右からシャムスとアー君が自分のパンケーキを差し出してきた。
僕に、というよりお腹の子にかなぁ。
「そうだ春日さん、この子に名前つけてくれませんか? 女神様はお忙しそうだからお願いします」
「俺ぇ? センスあまりないぞ?」
「じゃあとうしゃまかなぁ」
「そうしろそうしろ、獅皇なら俺よりマシだ」
獅皇さんが命名したのは過去に二人。
シャムスは古代語で「太陽」、イネスは「月」、うん、問題ないっぽいね。
「えほんよむの」
「日向行こうぜー、メルベリ、クッション出して」
「はい」
メルベリ――亜人とクラーケンのハーフ――ナーガとマシュー君が自分達の代役として寄越したあの子です。
アイテムボックスにはシャムス好みの絵本から始まり、各種クッションやおやつなどが詰め込まれ、シャムスが望めばいつでも取り出して提供してくれる。
うん、子守がいるのはありがたい、でもおやつはほどほどにね。
「かーしゃまぁ」
「はぁい」
絵本を読み聞かせる相手はお腹の子、つまり僕も絵本の読み聞かせに強制参加ですよ。
縁側に配置されたもこもこクッションに背を預けると、すかさず左右にシャムスとアー君が陣取る。
『えっとね、ネリちゃんの新作がいいなぁ』
「新作となると『子ぎつねの大冒険』シリーズですね」
メリベルの持ち物の中にある新作の絵本は、マシュー君が学校帰りに購入しているとアカーシャから聞いている。
お金を払おうとアカーシャに値段を聞いたら止められた。
絵本の数々はマシュー君とナーガからの貢物、シャムスが全力で喜べばそれが対価になるらしい。
渡された絵本を開き、たどたどしい言葉でゆっくりとシャムスが読む。
その背表紙をメリベルがタコ足を伸ばしてそっと支えながら、僕らのために飲み物を取り出し手渡してくれた。
タコ足、便利だね。
この子ぎつねシリーズはシャムスの一番のお気に入り、絵本自体もシャムスが読むことを前提として作られているから言葉も柔らかく、単語も簡単なものばかり使われている。
金髪ドリル令嬢のネりちゃんも今じゃ立派な絵本作家。
と、そこで終われば平和なんだけど、実はネりちゃんは聖典作家という肩書も持っている。
聖典、神様の言行や教説が書かれたもの――なんだけど、この世界ではそんな神聖なものではない、ヴィシュタル教の聖典の中身は全て薔薇な内容なんだよ。
シャムスに捧げる絵本を描いていたドリルさん、シャムスが縁で女神様の御心に触れちゃったみたいで、そこから女神様の世界に心酔してBLへの扉を解き放ち、読むだけでは飽き足らず、自分で書く方向に行っちゃったみたい。
優しい世界を描く子供に大人気の絵本作家が、女神様が大絶賛する泥沼愛憎薔薇本を執筆していると誰が思うだろうか。
少なくとも僕は知りたくなかったな。
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